18話 日本に帰国
記憶が戻って初めての外出。シャルと合流してロンドンをもう一度回り始める。
「大輔くんは本当に記憶が戻ったんですか?」
「そうだよ。だから昔みたいに大くんって呼んでくれていいよ」
俺が笑いながら言うと
「それはよかったです。では大くんと呼ばさせていただきますね」
「うん」
ロンドンを回ると言っても昔遊んだところだけ。まず最初は二人でいつも遊んでいた公園に行く。公園の近くに俺たちが通っていた幼稚園があったが、今は無くなっている。記憶を取り戻しても、現実は進んでいるんだと実感する。シャルと2人で遊具や砂場で遊んでいた。二人で遊んでいる時や幼稚園ではよく他の男の子にちょっかいを出されていて、可哀想だなと思っていたことを思い出す。それで俺が助けると男の子と喧嘩になってたな。
「大くんといつもこの公園で遊んでいたよね」
「そうだね」
「いつも大くんが私にちょっかいを出すの。帽子を取ったりしてさ」
「そんなことあったっけ」
「あったよ! なんで都合の悪い事だけ覚えてないの!」
「ごめんごめん」
二人で他愛のない話をしながら次の場所に向かう。ちょっとした森林。子供が遊ぶにはちょっと危ないところ。だからよく母親たちに怒られてたな。でも俺はここが一番楽しかったと感じる。二人でデン作りをしたな。あの隠れ家はもう無い。だけど俺にとってここは思い出の場所の一つ。でもシャルは楽しそうじゃなかったな。いつも家の中で遊びたそうだったし。今思えば女の子は外より中で遊ぶ方が楽しいよな...。ちょっと申し訳ない事をしたと反省。
次に向かう場所はこの前行った水族館。記憶が戻る前と後だとやっぱり感じ方が違う。記憶が戻る前は水族館全体に新鮮な感じを持っていたけど、今は懐かしい感じがする。今日も水族館の中に入り、色々な場所を回る。ついでにお昼も済ませる。最後にウミガメの餌をあげようとすると
「大くんここで落ちかけたんでしょ!」
「そうだよ。思い出したくないことを思い出させるなって」
「そっかそっか!」
「笑うなって」
「ごめんごめん」
あの時のウミガメがどれだかわからなくて困っていたら、オリバーさんが指をさしてくれて、そのウミガメに餌をあげられた。餌をあげ終わって、オリバーさんにお礼を言いに行く。ちょっと遅くなってしまって申し訳ない気持ちになりながら
「オリバーさん! 先日はありがとうございました」
「いいよいいよ。それより記憶は戻ったのかい?」
「はい! オリバーさんとシャルのおかげです」
「私はちょっとしたお手伝いをしただけだよ」
「それでも感謝しています。本当にありがとうございます。後、報告が遅くなってしまってすみません」
「遅くなったのはしょうがないよ。私の連絡先を知らないんだから。それよりシャルロットさんは大丈夫かい?」
「え? 私ですか?」
「大丈夫ならいいよ。じゃあ私は帰るよ」
「はい。さようなら」
オリバーさんが去った後、何かお礼をした方がよかったと後悔した。やっぱり俺はこの場所が一番好きなんだなと思う。入った瞬間から出るまでドキドキやワクワクが止まらなかった。
今日最後はロンドン・アイに乗る。
「大くん。二人で乗った事覚えてる?」
「ごめん。そこまで覚えてない」
「そっか。小さいころ大くんと私で約束したんだ。大きくなったら結婚しようって」
「え?」
「驚くのもわかるよ。でもこれを見たら思い出すんじゃない?」
シャルから見せられたのは、おもちゃの指輪。それを見て思い出した。
(シャル! おおきくなったらけっこんしような)
(うん! 絶対だよ大くん)
「大くん。思い出した?」
「あぁ。そんな約束したな」
「今でもその気持ちがある?」
「ごめん。まだ結論は言わない。今それを言ったら約束じゃないと思う。俺はちゃんとシャルと結衣の二人がいる時にこたえたいと思ってる」
「そうだよね。ごめん。考えなしに言っちゃって」
ロンドン・アイを降りると、すでに真っ暗。シャルを家に送って俺もホテルに戻る。明日帰国なので、帰る準備をしていると
「大輔。今日は楽しかった?」
「楽しかったよ。いろいろな場所を回ったけど、どこも懐かしい感じがしたよ」
「そっか。連れてきた甲斐があったよ」
「本当にありがとう。母さん」
「いいえ」
今日でイギリスは終わりだけどすごく楽しかった。今までの記憶も戻ったし、それ以上にいい思い出ができた。日本に帰ったらまずはみんなと会って、記憶が戻ったことを言わなくちゃな。後は岩下とついでに橋本にも。
☆
日本について、空港内で5人で集まらないかとグループチャットを送る。シャルは隣にいるので了承済みで、他のみんなもすぐに了承をもらった。明後日みんなと集まることになった。
父さんの車が空港に来て車に乗る。帰宅中一言も父さんは話さなかった。家に着くとオリビアさんが
「家までありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそ私たちの都合に合わせて来てもらって助かりました。もしオリビアさんたちが来てもらえなかったら私が有給をとって行っていたところです」
「そういってもらえると嬉しいです。ではおやすみなさい」
「大くん。お休み!」
「お休み!」
シャルたちと別れて、家に入ると父さんが俺の事を抱きしめて、泣き始めた。父さんの態度でイギリスにいた以上に記憶を取り戻したことの喜びを実感した。
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