Episode1-A 罪なき民を猛獣に食わせ続ける父王に苦しむ王子のお話

 今からお話しするのは、昔々のとある国でのお話です。


 まず、単に”昔々”と言われましても、どれぐらい昔のことを指しているのか、あやふやでありますよね?

 そうですね……”身分なき者は一個の人間として扱われていなかった時代”とお伝えしたなら、おおよその見当をつけていただけますでしょうか?


 人間としての権利が”生まれながらに与えられ”、なお、それらを貪ることができるのは本当に一部の者たちであり、それ以外の者はまるで家畜、いいえ、家畜以下の悲惨な扱いを受けていました。

 身分なき者に人権なし。そもそも、人権といった概念すら社会に浸透していなかったのです。


 このお話の舞台となる国の王も、名も力も富も持たずに生まれた民たちに、それはそれは恐れられていました。

 王に逆らおうものなら命はない。恐怖による統治です。

 民たちは、王を愛し敬い従っていたのではなく、恐れ慄き従っていたのです。従うしかなかったのです。


 王は、月に一度、満月の晩に盛大な宴を開いてました。

 それを”宴”と思っているのは、王と王妃、そして、彼ら同様、こんな時代に幸運にも身分高く生まれた者たちだけでありました。


 なぜなら、その宴には何日も餌を与えられていないライオン、トラ、ヒョウたちなどの肉食獣までもが参加するのですから……

 飢えた猛獣たちと仲良くお話したり、一緒にお酒を飲んだりなんてできるわけがありません。そもそも、最初から言葉など通じやしない相手です。


 満月の夜。

 城内の広場に――民たちが”処刑場”と影でこっそりと呼んでいる広場に、今宵の宴のメインディッシュとなった世にも不運な民たちが約三十名ほど放り込まれます。


 これから始まる無慈悲な宴に気が狂わんばかりに泣き叫ぶ、あるいは逃げる気力すら皆無となった民たちの姿を、王と王妃たちは広場を隅々まで見下ろせる位置に建てられた塔のバルコニーから見下ろしています。

 バルコニーより王が合図をします。

 その合図を逃すまいと、つまりは王の機嫌を少しでも損ねるまいと必死な調教師たちは、飢えた猛獣を檻の中より一斉に放ちます。

 篝火の勢いすら気圧されるほどに凄まじい獣臭に広場は蹂躙され、唸り声をあげ続ける猛獣たちの濡れた牙を夜空の満月は光らせます。


 広場は、赤々と燃える篝火と高い高い柵で四方八方をグルリと囲まれています。

 高い高い柵は全身全霊で体当たりを食らわせてもビクともしないほどに頑丈であるだけでなく、頂部が鋭い槍のようにギラリと尖っており……なんとかよじ登ることはできたとしても乗り越えようとするものなら、串刺しとなって苦しむでしょう。

 それなら、と柵の隙間より手を突き出し広場の外へと助けを乞おうとしても、待機している兵士たちの槍で突かれるのです。

 

 餌となった者たちの命乞いの声や断末魔の絶叫は、塔のバルコニーのみならず夜空の満月にまで届かんばかりでありました。

 余談ではありますが、この塔は王が”宴”を楽しむためだけに建設したものなのです。

 塔の入り口の鉄の扉の閂は、肉体労働に従事している成人男性十人がかりでやっと持ち上げることできます。

 真っ赤な血で口周りを濡らした猛獣たちでも閂を器用に外したり、鉄の扉や塔の壁を食い破ったりはできません。

 猛獣たちに翼でも生えない限り、この塔は安全地帯でしょう。 


 身分だけでなく状況的にも自分たちだけは決して餌になることがないと保証されているゆえに、王たちは安全地帯にて美酒を片手に”満月の猛獣刑”を見下ろし、嗜虐欲と征服欲をたっぷりと心ゆくまで満たしていたのです。


 なお、猛獣”刑”とありますように、当初は王もこの宴には罪人たちだけを”使用”していました。

 自らの死でしかあがなえない罪を犯す者というのは、いつの時代にも、どこの国にでもいます。ですが、死刑が相当な重罪人対象の刑罰であっても、猛獣刑はあまりにも非人道的です。

 毎月三十人程度のペースで次々と死刑を執行していたのですが、そのうち”罪人のストック”も尽きてしまいました。


 そうなると、新たに”罪人”を作り出すしかありませんよね。

 そう、例えば……労働中にこっそりとつまみ食いをしたとか、恋人に年を誤魔化していたとか、夜泣きばかりして母親を寝かせなかったとか、どんな些細な罪でも、というより罪に該当しないことでも、老若男女問わず一発アウトで罪人認定のうえ、宴への強制参加が決定します。

 王が法であり、法が王であるのですから。

 満月の夜が近づいてくるたびに、牢屋には宴のメインディッシュとなる予定の民たちが次々と放り込まれて続けていきました。



 ですが、これほど狂った宴を、身分高く生まれた者たちの全てが楽しんでいたわけではありません。

 心優しく慈悲深い王子は、善良な罪なき民たちを猛獣に食わせ続ける父王に苦しみ続けておりました。

 十五才の彼は今までに何度も父王に進言し、この残酷な満月の宴の廃止を求め続けていました。

 

 自殺行為としか思えない王子の進言ですが、彼は肉食獣の餌とされることはありませんでした。

 いくら非道な王であっても、自分の子どもは可愛かったのでしょう。民たちの子どもはいくらでも猛獣に食わせることができても、自分の子どもだけは食わせたくなかったのでしょう。


 それに、王は王子に満月の宴への出席を強制することもありませんでした。

 前に一度、強制的に宴に出席させたところ、王子が嘔吐してしまったため、さすがに可哀想に思ったのか、それとも単に酒が不味くなると思ったのかのどちらかは分かりませんが、満月の宴は王子の姿なしでいつも進められていたのです。



 そんなある日、王子は家来を連れて、森に狩りに出かけました。

 ”狩り”といっても、言葉だけです。

 心優しい彼は、動物相手であっても無意味な殺生は好みません。

 動体視力や運動神経は並み以上にあるはずの彼の弓矢は、今日も血に染まることはないでしょう。


 彼はただ、”人間の皮をかぶった獣たちがいる城”を離れる時間が欲しかっただけでした。

 適当な口実をつけて、家来たちをまくことに成功した彼は、さらに森の奥深くへと一人で進んでいきました。

 昼間だというのに薄暗い森の奥へと。静かな森の奥へと。


 こんなところで獣に――言葉通りの獣に襲われたとしたなら、ひとたまりもありません。

 酸鼻を極める断末魔ですら、この森という闇の中に吸い込まれてしまうでしょう。


 その時、森の奥より、何者かが”足音も立てずに”こちらへと向かって来ていたことに王子は気づきました。

 それは目を爛々と輝かせ、生臭い涎をボタボタと垂らした森の獣……などではなく、銀髪の老人でありました。


 老人と言いましても、ヨボヨボのお爺ちゃんではなくて、足腰も非常にしっかりとした頑強な体つきで背の高いお爺さんです。

 その眼光は只者ではないのが一目で分かるほどに鋭く、何より銀髪はそれはそれは見事で美しく、まるで月夜の下でも輝いているのではと思うほどでありました。


 王子と老人はしばしの間、敵対する獣同士のように距離を取ったまま、互いに様子をうかがっていました。

 ですが、本能的な勘でしょうか?

 目の前にいる者は敵ではない、と互いに感じ取ることができたのです。



 この出会いによって、年齢も身分も異なる二人の不思議な交友が始まりました。

 しかし、交友といいましても、王子がそう何度も好き勝手に森に足を運んだりはできませんし、逆に王子が城内に老人を呼び寄せましても、王に難癖を付けられようものなら老人は満月の晩に処刑場送りです。


 よって、彼らは文通にて交友を深めていくこととなりました。

 ”数少ない一族の者たちとともにこの地に流れ着いたらしい老人”は身分なき者ではありましたが、幸運なことに文字の読み書きに精通していたのです。


 王子は、城内の誰にも吐き出すことができなかった苦しみを老人への手紙に書き綴ることができました。


 あのような満月の宴はあってはならない。だが、私にはそれを止める力がない。けれども、力がないからといって諦めてしまうことは、生きている民のためにも、私が助けることもできずに死なせてしまった民のためにも許されない。それに、私自身にも残虐な父王の血が流れているのだ。何とかして終わらせたいのだ、と。



 手紙でのやり取りを続けていくうちに、老人は王子の唯一の理解者となり、この狂った暗黒の世を照らし出す唯一の光となりました。


 しかし、彼らの文通は突然の終わりを告げました。

 老人から王子への手紙が、王に見つかったのです。しかも、それをじっくりと読まれてしまったのです。


 あなたの父王は王の器ではない。あのような残虐非道な宴の報いを、きっといつか受けるはずです。地獄へと堕ちるでしょう、などと書かれた手紙を読まれてしまったのです!


 王子も迂闊でありましたが、老人も迂闊でありました。

 ややぼやけさせたニュアンスで書いてあったなら、まだ言い逃れできたかもしれないのに、そのままストレートに名指しで王を侮辱する言葉を書き連ねてあったのですから……


 

 王はもちろん、烈火のごとく怒りました。


 この手紙を書いた者をすぐさまひっ捕らえろ! 不敬罪に相当する! この者も満月の夜に、猛獣の餌としてやる! と。



 王子は、涙とともに懇願しました。


 父上、どうか許してください。彼は私のたった一人の理解者なのです。私にとっては、彼は闇夜を照らす月のごとき存在なのです、と。



 王子の言葉を聞いた王は、ますます怒り狂いました。

 自称・立派な父王である自分を差し置いて、王子はどこの馬の骨とも知れぬ下賤な老人を”たった一人の理解者”だの、”闇夜を照らす月のごとき存在”などと言って、心から愛し敬っているのですから。



 王子の必死の懇願は、火に油を注いだだけでした。

 その日のうちに捕らえられた老人は、来たるべき満月の夜の”猛獣刑”に処されるため、牢屋へと叩き込まれました。

 そのうえ、”満月の猛獣刑”に処されるのは彼だけではありませんでした。

 彼の一族も皆、捕らえられてしまったのです。

 皆、死刑。

 皆、揃って猛獣の美味しい餌となってしまうのです。



 満月の夜。

 広場と言う名の処刑場に、老人とその一族である合計八名だけが放り込まれました。

 八名というのは一族としては、かなり小規模ではあるでしょう。

 それに最年長と見られる老人含め全員男性、それも明らかに中高年以上の男性でありました。

 まさか、未来を担う若者や子どもは見逃してくれたのでしょうか? いやいや、あの王がそんな慈悲をかけるはずがありません。


 老人の一族にはなぜか、若者や子どもが一人もいなかったのです。


 私どもは子孫を残すまいと決めておりますゆえに……というのが老人の答えでした。


 それを聞いた王様は笑いました。


 ほう、滅びへと歩みゆく一族であったか。だが、老醜をさらしながらゆっくりと歩みゆく必要はない。今宵、全てが終わるのだからな、と。



 逃れられぬ死が刻々と迫り来ているというのに、老人も彼の一族も皆、落ち着いていました。

 憔悴しきっているというよりも、ただただ、その時を受け入れたように見えました。

 彼は皆、似ていました。

 一族だけあって、顔立ちや瞳や髪の色が多少似ているのは当たり前ではありますが、まとっている雰囲気が何より似ていました。

 例えるなら、同じ風をまとって、夜空の下を駆け抜けてきたかのように……



 もうすぐ、薄暗い雲の中より、満月がその姿を現すでしょう。

 この処刑場を篝火とともに照らし出すでしょう。


 檻の中で待機している獰猛な”犬”たちは、涎にまみれた牙を光らせて唸っていました。

 ……犬?

 そうです、今宵の宴はいつもとは少し違っているのです。


 いつものメインディッシュは三十人程度ですが、今夜は三分の一以下の八人。

 ライオンやトラ、ヒョウなどは体が大きいだけでなく、殺傷能力も高いため、”すぐに”宴が終わってしまうだろうと王様は考えたのでしょう。

 だから、より長く宴を楽しむために、餌となる者たちの苦痛をより長引かせるために、今回は獰猛な犬を採用したのです。


 王に負けず劣らず残虐趣味な王妃などは、毒蛇や蠍を入れた大きな穴の中に突き落してはどうかしら? と、”どこぞの国の妃が考案したのと同じ処刑方法(※注、下部にて解説)”を提案してもいたのですが、たくさんの毒蛇や蠍を集めてくる時間がないために、王妃の案は”今回は見送り”となってしまったという背景もあったのです。


 

 ついに、薄暗い雲の中より満月がその姿を現しました。

 酒の杯を片手に、広場を見下ろしていた王が合図をしました。

 グルルルルと唸り声をあげ続けていた犬たちが、檻より一斉に解き放たれたのです。


 犬たちはそのまま老人たちの肉に噛みつき、苦痛の絶叫を次々にあげさせると思いきや……これはいったい、どうしたことでしょうか?

 何が起こっているのでしょうか?


 獰猛な犬たちが怯えています。

 先ほどまでの勢いはどこへやら、一匹たりとて”餌”へと飛び掛かっていきません。

 動物は目の前の敵が自分より強い相手であるのか、弱い相手であるのかを本能的に悟ことができるといいます。

 そうです、美味しい餌であるはずの人間たちが自分たちの敵、というよりも自分たちを本能的に恐れさす怪物へと変身していきつつあったのですから!



 満月の光をその身に受けた老人たち。

 彼らの瞳は月のような黄金色に光り、剥き出しとなった彼らの犬歯はみるみるうちに長く鋭い牙へと変化していきました。


 鋭い牙?

 まさか彼らは、吸血鬼だったのでしょうか?

 いいえ、違います。


 彼らの全身の体毛は獣のごとく濃くなり、ゴキゴキと体内の骨そのものが変形していくような音とともに、彼らの猛る筋肉を押さえつけられなくなった衣服は千切れて弾け飛びました。


 ウェアウルフです。

 彼らは皆、ウェアウルフの一族であったのです。


 一番早く変身を終えた銀色の毛並みのウェアウルフが、雄叫びをあげました。

 彼の雄叫びは、王たちがいる塔のバルコニーのみならず満月にまで届かんばかりでありました。

 ひときわ輝く銀色の毛並みのウェアウルフが、あの老人であることなど改めて説明する必要はないでしょう。


 銀色のウェアウルフは、怯えて尻尾を巻いている犬たちには目もくれず、塔へと向かって駆け出しました。

 大将に続け、とばかりに、他のウェアウルフたちも続きます。

 元老人や中高年男性であったとは思えない凄まじいスピードです。


 塔の入り口の鉄の扉の閂は、成人男性十人がかりでやっと持ち上げることできる代物でありますが、彼らならたった一人でも外せるでしょう。

 ですが、そんなまどろっこしいことをする必要などありません。

 彼らは、その鋭き爪と卓越した筋力を持ってして、塔の壁を攀じ登っていくことができるのですから。



 塔のバルコニーにいた王たちは大慌てです。

 伝説上の怪物でしかなかったウェアウルフがまさか実在したとは……!

 いいえ、ンなことより、あのウェアウルフたちは、明らかに自分たちを殺そうとこの塔の壁を攀じ登ってきているのです。

 ガルルルルと言う低い唸り声と塔の壁に爪を立てる幾つもの音、そして強烈な獣の臭いが早くもこのバルコニーにまで立ち昇ってきているのです。

 

 全てが反転してしまいました。

 ”満月の猛獣刑”を処される立場となった気分はいかがでしょうか?

 自分たちだけは安全だと高を括っていたこの塔が、”安全地帯”ではなくなった絶望の味わいはいかがでしょうか?


 真っ先にバルコニーへと風とともに飛び込んできた銀色のウェアウルフが、王たちに牙を剥きました。

 彼の裂けた口の端からは涎がボトボトと滴り落ちます。

 数刻後には、彼の口周りは真っ赤な血へと染まるでしょう。



 しかし――

 銀色のウェアウルフの爛々と光る瞳は、”今宵はこの塔にいるはずのなかった王子”の姿をとらえたのです。


 王子! なぜ、ここにいるのです? 今宵は塔にいてはいけないと、”事前に”お伝えしていたはずです、と銀色のウェアウルフの瞳は語っていました。


 王子は黙って首を横に振り、頷きました。


 全てを終わさなければならない。多くの罪なき民が犠牲となった残酷な宴も、そして……私自身にも流れている呪われた血をもここで終わらせたいのだ、と王子の瞳は語っていました。

 王子は、父王たちとともに”満月の猛獣刑”に処される覚悟を”最初から”決めていたのです。



 察しの良い方はとっくにお分かりであったと思いますが、今宵のことを仕組んだのは王子と老人たち(ウェアウルフたち)でありました。

 父王の恐ろしさを存分に知っているはずの王子が、悪口三昧の手紙をついうっかり見つかってしまうなんて、ヘマをするわけがありません。

 わざと手紙を見つけさせ、わざと怒らせたのです。


 いつもの満月の宴は王子の姿なしで進められており、王も出席を強要することはありませんでした。

 仮に、今回は出席を強要されたとしても、何とか逃げ出すなり塔以外の場所に身を潜めるなどして、満月の夜は絶対に塔にはいてはいけません、と老人は前もって伝えていました。

 たとえ、どのような父と母であっても、目の前で両親を八つ裂きにされる光景など心優しい王子には見せたくはなかったのでしょう。


 何よりも……ウェアウルフたちの最年長である老人は、年の甲というべきでしょうか、銀色のウェアウルフとへ変身した後も理性を保つことができます。けれども、まだ年若い、といっても中年のウェアウルフたちは、変身後は理性を保つことができません。

 彼らがウェアウルフと化した後は、心までもが怪物となってしまうのです。

 人の心を持っている者とそうでない者の区別なく襲い掛かってしまいます。

 殺してはならぬ者まで殺してしまうのですのですから!



 銀色のウェアウルフは、この場から王子を救い出そうとしました。

 ですが、それも間に合わず、他のウェアウルフの鋭き爪が王子の腹部を深く抉り、また別のウェアウルフは王子の左腕を噛み千切ったのです。


 もう王子の命を助けることはできない! それなら、末期の苦痛を長引かせるよりか、いっそのこと……! と銀色のウェアウルフは王子の首を一思いにへし折りました。


 銀色のウェアウルフがあげた哀しき雄叫びが、塔のバルコニーに響き渡りました。




 こうして――

 満月の猛獣刑にも、心優しく慈悲深かった王子のわずか十五年の人生にも、幕は下ろされたのです。


 余談ではありますが、恐怖によって民たちを支配していた王と王妃、その取り巻きたちの原型を留めていない亡骸や飛び散った臓物は、正式に棺に納められることはなく、塔のバルコニーに放置されたままとなっていました。

 そもそも臓物だけ見ても、誰の臓物かなんて分かりませんからね。

 もはや、宴を楽しむためだけに建設した塔そのものが、彼らの棺になったと言えるでしょう。


 ただ、王子の亡骸だけは、彼と同じく自らの体に流れている血を呪い、終わらせようとする老人と彼の一族の手によって、静かな森の奥深くに手厚く葬られたのです。 




――完――



※注 どこぞの国の妃が考案したのと同じ処刑方法……古代中国の殷王朝の帝辛(紂王)の妃の妲己が考案した処刑方法・蟇盆(たいぼん)のこと。



【参考文献】

・歴史雑学探究倶楽部『血塗られた世界史残酷物語 』学研パブリッシング、2011年

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