第34話:奴隷商人は最後の夜を過ごす①
マリレーネとアーヴィアが、泣きながらそう言うと、俺に飛びついてきた。
その勢いに、思わず足を踏ん張り二人の体重を受け止める。
アーヴィアは泣きながらも、声を絞り出して、そう言いながら俺の胸に顔をうずめて泣く。
この子は、いつも俺と距離を取っているように感じていた。
アーヴィアが俺に心を開くときがあるんだろうかと思ったこともあった。
だが、泣いてすがる姿を見て、安堵する。
アーヴィアも手元に置いていいんだ……と。
マリレーネも大粒の涙を流しながら、俺の肩に顔を埋めてしゃくり泣いた。
あんなに、気の強く元気なマリレーネが泣いている姿を初めて見た。
昔の俺に散々いじめられても泣くことなく耐えたという話を聞いていたが、こんなにも悲しんでくれている。
マリレーネが、こんなに泣くほど俺のことを思ってくれていたなんて、思いもしなかった。
お金持ちの優しいご主人様に買われたいと言っていたので、俺がこのままこの屋敷に引き止めてしまっていいのだろうかと悩んだこともあった。
だが、俺はマリレーネもそばにいてほしい。
二人が大泣きしているもんだから、買い戻す話をする機会を逃してしまった。
パオリーアとマリレーネ、アーヴィアの三人を出荷した後、俺が買い戻すのは確定だ。親父には話をつけている。
この子たちは親父から聞いてないのか?
まぁいいか。明日には買い戻すし、三人の奴隷は俺の専属としてもいいと親父には了解をもらっているんだ。
さらに、パオリーアが俺の背中から抱きつくと、背に頬を押し当てている。
三人から抱きつかれて、俺は直立不動で、ただ呆然と立ち尽くす……
気の利いた言葉ってこんな時は出ないものなんだな。
「今日は、わがままを聞いていただきたいです、旦那様」
「そ、その旦那様っていうのは何? いつからそう呼ぶようになったんだ?」
パオリーアは、いつもはニート様と呼んでくれていた。
しかし、今は俺のことを旦那様と呼んでくれる。
俺たち結婚しちゃっているのかな?
「あの……迷惑でしょうか? ニート様を旦那様とお呼びしたいと思っていたので……せめて今夜だけでも」
「ああ、呼び方なんて気にしない。旦那様と呼んでくれていいぞ」
三人が、旦那さまぁ〜なんて泣きながら呼ぶもんだから、まんざらでもない気がして来た。
旦那様……いい響きだ。
で、でもアーヴィアにはお兄ちゃんと呼んでもらいたいかも。
それに、マリレーネには、アンタ呼ばわりされたいな。「アンタバカァ〜!」って罵られるのもいいかも……
ふふふ、三人が俺の専属になった時にお願いしてみよう。
「そうだ。お前たちの呼び方も、この際だから変えていいかな」
パオリーアもマリレーネも言い慣れてはいるが、何か愛称のようなものがあるとさらに親密度が増す気がする。
せめて俺たちだけしかいない場所では、愛称で呼び合いたい。
「名前をつけてくださるのですか?」
パオリーアは、真っ赤に腫らした目を手の甲でこすりながら、笑顔になった。
泣いているより、笑顔の方がずっと可愛い。
「名前はそのままだ。その名前はお前たちの親が考えてくれたものだろ? だから呼び方を変えるだけだ」
「あ、ありがとうございます」
俺は、パオリーアのことは、リアと呼びことにした。他の奴隷からは、パオ姉さんと呼ばれることが多いのは知っているが、パオって俺の中ではゾウさんのイメージで、可愛くない。これって、元いた世界のイメージが強い。
パオーンって鳴くゾウしか思い浮かばないんだ。だから、リアがいい。
マリレーネは、マリだ。他の奴隷にも、マリちゃんと呼ばれているのを聞いたことがある。
呼びやすいし、女の子っぽくていいよな。
そして、アーヴィアは、アヴィと呼ぶことにした。
三人にそれを伝えると、
「うん、みんなもマリって呼んでくれるから、旦那様もそう呼んでくれたら嬉しい!」
「はい、私もリアって呼ばれるのうれしいです」
二人は、先ほどのしんみりした雰囲気から一転、明るい笑顔になっていた。
このタイミングで呼び方を決めるって、どうだろうって思ったが重苦しい空気が変わって良かったよ。
あれ、アーヴィアだけ何か不満そうだけど……どうした?
「あの……私のは……あっ、でもアヴィでいいです。虫の魔物の名前ですが……」
げっ、そうなの? そんな、ジト目で俺を見るなよ。
どうやら日本ではアリと呼ばれる昆虫が大きくなった魔物らしい。それは女の子に失礼だよな。
俺は、アーヴィアにごめんごめんと謝ると、もう一度考えた。
しかし、いい案が浮かばない。まあ、アーヴィアは変えなくてもいいかな。
「アーヴィアという名前は、呼びやすいし、かわいいから無理に呼び方を変える必要はないだろう」
「はい……そんなことだろうと思いましたよ……。私だけ……」
どんよりと、沈むアーヴィアの表情に慌てた俺は思わず言った。
「あっ、違う、冗談だ! そう、冗談だよ。あーちゃん! あーちゃんって呼ぶよ」
とっさに口から出た愛称が、なぜかアーヴィアの琴線に触れたようで喜ばれた。
「私、旦那様がつけてくださった名前、一生大切にします」
ウチも、私も、と、三人は呼び方を変えただけで嬉しそうにしていた。
あれほど悲しみにくれていたのに、この時はパッと明るくなった気がする。
それにしても、先ほどから背中に当たるポニョっとした柔らかい感触。
これって、あれだ。パオリーアのおっぱいだ。
さらに、マリレーネのおっぱいが柔らかく俺の腕を包み込んでいる。
「あの……最後のご奉仕……精一杯がんばります……だから……」
「だからって? どうしたんだ?」
パオリーアは、ブラを外すと大きなお胸がバルンと揺れた。
さらに、マリレーネも
こちらはノーブラだった。ブラなんてしなくても、おっぱいがツンと上を向いている。
アーヴィアも、うんしょうんしょと、貫頭衣を脱ぎ捨てると水色のパンツ一丁になる。
「あの……旦那様。最後の夜の思い出に……三人でお相手を……」
なんだか、とても楽しい気持ちになって来た。
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