第10話:奴隷商の息子は裸で掃除をさせる

 


 奴隷商人ソレ家の屋敷は、元領主の屋敷だったため、俺たち親子と三人の使用人で住むにはやたら大きかった。

 空き部屋も多く、掃除もろくにできていない。余っている部屋があるのならばと、俺は奴隷たちに使わせることにしたのだ。


 逃亡の恐れが気になったが、アルノルトが足枷に魔法が付与されているから逃亡できないのだと教えてくれた。

 たしか、奴隷環だっけ……足に付いている輪っか。


 奴隷たちを清潔な場所で綺麗な状態にしておけば、奴隷としての価値も上がり高値でも売れるだろう。同じ売られるにしても、汚い奴隷は客からぞんざいに扱われるもんだ。綺麗にしていて損はない。

 それに、奴隷から感謝されてムフフなことも期待せずにはいられない。


 ゲームの奴隷エルフちゃんたちは、優しくするとチョロいがこの世界の奴隷はどうだろう。

 期待に胸が躍った。


 奴隷たちの部屋の掃除が終わったのは、日が落ちる頃だった。



「ニート様、お食事のご用意ができております」


 ちょうど腹が減ったところに、アルノルトがタイムリーに案内してくれ、ホッとした。

 やっと飯にありつけるぞ!


「ところで、奴隷たちは掃除終わらせたのか?」

「はい、終わりまして、今は一階に壺を運搬しているところです」


 アルノルトは、弱々しい声でその後どうしましょうかと聞いてきたので、そのまま休憩でもしておけと言っておいた。

 さすがに働きづめは女の子にきついだろう。

 休みなく働かせるブラックな上司にはなりたくない。

 俺が高校生だった頃、夏休みの間バイトをしたことがある。

 ファミレスだったのだが、夏休み中はやたら客が多くて忙しかった。

 毎日ヘトヘトになるまで働いて、やっと休みがもらえると思っていた時、休まずに出てほしいとシフトを急に変えられたことがある。

 労働と休息はセットで考えてほしいと思ったものだ。


「念のために、掃除した部屋を見に行くぞ!」


 俺は、空き部屋の様子を見に行くことにした。



 ◆


 アルノルトと共に掃除された空き部屋に行くと、廊下に正座した奴隷たちが、新しい貫頭衣を着て待っていた。

 奴隷たちは、何が起こるのかと、戦々恐々としている。

 心なしか、奴隷たちの表情も硬い。

 だが、俺はそんなことは気にしないことにした。


 チラッとこちらを見た奴隷たちは、俺の姿を見ると全員が目を伏せた。

 うわっ、めちゃ嫌われてる!


「ご指示されたことは完了しました。ご確認しますか?」

「ああ、まずはこの部屋からだ」


 中に入ると、きれいにベッドメイクされ、床には埃一つなく掃除されていた。

 丁寧に掃除されている。よし、たまには褒めてやろう。


「アルノルト、この部屋を掃除した者を呼んでくれ」


 一瞬、ギクッとアルノルトが驚いて、こっちを見たがすぐに奴隷に向かって言う。


「この部屋を掃除した者、前に出ろ!」


 五人の獣人族が立ち上がり、肩をすくめておずおずと前に出て来た。

 あのじゃじゃ馬の女の子と、狐耳の子とその他三人が前に並ぶ。


「ここを掃除した五人か?」

「……はい。もっ、申し訳ありません!」


 一斉に五人が土下座する。いや、俺まだ何も言ってないけど……


「謝らなくていい。今後この部屋は、」

「ヒッ! お許しをっ! もう一度掃除しますからお許しください……」


 イヤイヤイヤ、最後まで聞け、聞いてくれ!



「別に怒ってるわけではない。よく掃除できている。頑張ったな」


 そう声を掛けると、ひれ伏して床に頭をこすりつけた五人の女の子たちが、俺の顔を見上げる。

 うん、みんな可愛いケモミミちゃんだ!


「あ、ありがとうこざいます」


 じゃじゃ馬娘も、褒められると思っていなかったのか、まじまじと俺の顔を見るもんだから、イケメンらしく、白い歯を見せて微笑んでやった。キラッ! すると、じゃじゃ馬娘は慌てて目をそらす。


「今後はこの部屋をお前たち五人が使え」

「「え?」」


 アルノルトも奴隷たちも、キョトン顔で俺を見た。いやいや、そのために掃除したんだよな。

 そういえば、親父には話していたが、アルノルトには言ってなかったっけ?


「お前たちが掃除したのは、お前たちが今後はここに寝泊まりするためだ。今までのように不潔にしたらわかってるな!」

「…………」


 なぜ誰も返事をしないんだ? キョトンとした奴隷たちを見て、俺もキョトンとする。


「ニート様。それはどういうことでしょう?」

「そのままだけど?」

「え?」

「はい?」


 見つめ合う俺とアルノルト。もしかして、話が通じてないのかな?

 俺はもう一度、説明する。


「今までの汚い部屋では、お前たちが不潔で臭いから部屋を与えることにした。親父にも許可は得ている」


 顔を見合す奴隷たち。まだ、よく呑み込めていないようだ。


「さっき一階に壺を持っていったと思うが、あそこがお前たちの便所だ。部屋で用足しは禁止!」


 俺の言葉を聞き、アルノルトも理解したのかニコッと微笑むと、奴隷たちに言い放った。


「ニート様がお前たちに部屋を与えてくださった。自分が掃除した部屋は自分たちの部屋だ。ご主人様の屋敷に住まわせていただくのだから大切にするように!」

「「はいっ!」」


 こうして、奴隷たちに新しく部屋が与えられることになった。


「ニート様、ありがとうこざいます」


 うやうやしく礼を取るアルノルトに合わせるように他の奴隷も頭を下げた。じゃじゃ馬娘と狐っ子を見ると、同じように頭を下げている。


「アーヴィアと隣の獅子人族の娘は、後で来ること!」

「……はい」


 俺はアルノルトに、パオリーアとこの二人を後で連れて来てくれと伝えて、自分の部屋に戻った。

 うん、良いことした後は気持ちいいね!



 今日、この世界に来てから長い一日だった。

 俺は疲れてしまったのか、ベッドに座ったところで寝落ちしていた。

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