汚い奴ら

福会長

都心からひどく離れた田舎に住む、1人の女子高生がいた。


一見、とても真面目そうに見える彼女の容姿は、彼女の決して高くはない鼻に少し身を余らせるようにして傾く黒縁の眼鏡が一層そう見せていたように思える。しかし、彼女の視線の先、そこを覗けば彼女が真面目だという先入観は一瞬にして消えてしまうものとなった。






それというのも、彼女が見ていたもの、つまり彼女が手に大事そうに持ち、食い入るように見ている本が原因である。







その本は、女性、ましてや女子高生が手にとって堂々と読むようなものではない。そうだとしても、決して他者がいるかもしれない外で読むようなものではないだろう。



そう、彼女は田舎によく見られる小高い丘の上で鞄を投げ捨てた代わりに、大人が読む、官能小説なるものを読んでいた。







「…ほう、たまらん」







彼女は突如その本から目を上にそらし、太陽が機嫌よく照る空を仰いだ。

心なしか目が少し熱を帯びて潤んでいるようにも見える。






「愛される女性、その女性をこれでもかというくらいにあいせる男性…素敵」







本をパタリと閉じると、羨ましげに呟いた。






「愛される、か…」





ポツリポツリそう零すと、小さい体を更に小さくして自分の視界から、何も見えないように閉ざしてしまった。






かれこれして一時間ほど経過した頃だろうか、何かに追われているとも思えるくらいの形相で勢いよく顔を上げほったらかしにしていた鞄とおそらく彼女の愛読書である本を両手でカッと掴み、丘を勢いよく駆け抜けた。




これは、女子高生になったばかりの草間 響と彼女から見える世界の物語である。

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