(24)異能の有効活用
「それなんだが……。天輝が保持している霊力が膨大なのに、海晴からは全く感じ取れなくてな。生前の真知子も私達も注意深く二人を観察していたが、天輝同様全く異能を発言させてもいなかったし」
「二人が二卵性双生児なのが、関係しているかもしれないな。天輝も、海晴からその手の話を、今まで聞いた覚えはないだろう?」
二人の話を聞いて一瞬考え込んだ天輝は、瞬きをしてから確認を入れた。
「確かにそうだけど……。え? じゃあ本当に、危険性があるのは私だけなの?」
「そうなるんだ。私の《先見知覚》、いわゆる予知能力でも、天輝に対してだけ危険を察知しているし」
「それならそれで、安心できたわ。でも予知って……、因みにどの程度なの?」
妹の危険性が限りなく低い状況を確認して安堵した天輝だったが、ふと気になった事を尋ねてみた。すると賢人が、申し訳なさそうな顔になる。
「その……、正確な日時とか、その時の詳細な状況とかは不明だが、事前に何となく可能性が高い内容を、断片的に察する事ができる程度なんだ……」
「そうなると、そろそろ私が召喚されそうな時期に、何となく直前に察する程度で、その時に向こうで使われる召喚陣の材質とか形状が、うっすらと判別できる程度ってこと?」
「そうだ。曖昧で不確定要素が多すぎて、本当にすまないが」
「ううん、怒ってないから気にしないで。それだけで十分対応できているんだから凄いし、文句をいう筋合いじゃないわよ。ひょっとして……、お父さんはその能力を、仕事で使っているの?」
目の前の父が資産運用会社の設立者であるのを思い出した天輝が何気なく問いを重ねると、賢人が真顔で頷く。
「ああ。せっかく得体の知れない能力を持ち合わせているのだから、実生活で最大限に活かしてやろうと思ってな。先物取引やファンド構築時のデータとして、感じ取った情報を分析して活用している。周囲には私の勘で通して、今まで特に不審がられてはいない。後の《観念動力》と《意識操作》の力は、私は大して使えないレベルだから、殆ど行使していないな」
それを聞いた天輝は、感心したような顔になった。
「なるほどね……。お父さんが一代で、桐生アセットマネジメントをあそこまで大きくできた、本当の理由が分かったわ。そんな能力を持っているなら、アナリストは天職ね。そうするとお兄ちゃんも、《先見知覚》能力の持ち主なわけ?」
「いや、悠真はそれは無くて、一番強い能力は《意識操作》だ。次に《探査察知》と《異界転移》の順になっている」
「そうなんだ……。なんだか、ちょっとがっかり。お兄ちゃんも予知能力を持っていて、それで有望な投資先を選べるなら、負けても仕方がないなと一瞬思ったのに……」
苦笑いで応じた天輝だったが、ここで悠真が若干顔つきを険しくしながら口を挟んだ。
「天輝。一応言っておくが、父さんだって《先見知覚》に頼りきって仕事をしてきたわけじゃないからな? 幾つもの情報と可能性から取捨選択するのは、他の人間と同じことだ」
「そうはいっても、確かに能力を使って他人より選択肢を絞り込めているわけだからな。その能力を持たない人間からしてみれば、ずるをしていると思われても仕方がない」
そこで賢人が会話に割り込んで苦笑しながら息子を宥めたが、そのやり取りを聞いた天輝は、勢いよく頭を下げた。
「あの! ごめんなさい! ずるいとか、そういうつもりで言ったんじゃなくて! アナリストとしてお兄ちゃんに敵わなくても諦めがつくかな、くらいの戯れ言だから気にしないでください!」
「うん、分かっているから大丈夫だ、天輝」
「悠真も、少し言葉を選びなさい」
「……ああ」
賢人に続いて和枝も穏やかな口調で息子を嗜め、悠真が表情を消して黙り込む。そこで微妙に重くなってしまった空気をなんとかするべく、天輝が慎重に口を開いた。
「ええと……、今までの話をまとめると、私の家系の中で二、三十年ごとに異世界に問答無用で召喚される人が出ていて、その都度家族や親戚が助力して回避していたんだよね? そして一定期間を過ぎたら召喚の危険性はなくなり、また二、三十年後に同じ事が繰り返されてきたと。そして今の時代のターゲットは、私ただ一人ということで」
「その通りだ」
「間違いないな」
「この2~3か月が勝負なのよ。天輝、頑張りましょうね!」
「そんな迷惑な体質……、消せるものなら綺麗さっぱり消してしまいたい……」
ろくでもない内容を両親と兄に揃って断言されてしまった天輝は、呻くように呟きながら涙目で項垂れたのだった。
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