Subsection A03「包丁研ぎ」
ユリハが部屋の中に入ると、老婆は囲炉裏の火を消した。途端に部屋の中は明かりを失い暗くなる。
光源といえば月の光やユリハが入っていった部屋の隙間から漏れている明かりくらいのものである。
老婆は暗闇の中、仕込みのためにと砥石を取り出して包丁を研ぎ始めた。
──ギィッ、ギィ!
包丁を研ぐ音が、夜の静けさの中に響く。
──ギィッ、ギィ!
ふと老婆は手を止め、振り向いた。
どれほどそうして、包丁を研いでいただろう──。
いつの間にか、ユリハの部屋から漏れていた明かりが消えていた。明かりとして燈していた蝋燭の火を吹き消したようである。
家の中は完全なる暗闇に包まれていた。
──ギィッ、ギィ!
老婆は尚も丹念に包丁を研ぎながら、口元を怪しげに歪ませたのであった。
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