38 異世界の再会
「のわああああああっ!」
シンクは落下していた。
ちょっと考えればわかることであった。
裂け目の向こうにも空が拡がっていたのである。
次元の狭間とでもいうべきか、重力を感じさせない奇妙に歪んだ空間を抜けた先には、別の世界があった。
マーブル模様の不気味な空を見て驚いたのもつかの間。
重力に引かれるままグランドキャニオンのような岩だらけの地面に落ちていく。
このまま地面に叩きつけられたら間違いなく潰れたトマトになる。
ここまで来てレンを見つけ出すことなく死ねるか。
シンクはさきほど進化したばかりの≪
次元の裂け目を潜った時のように上に乗ろうとした。
しかし、焦っているせいか上手くいかない。
それどころか光球の一つに足をぶつけてすごく痛かった。
「こ、のっ……」
いい加減どうにかしないとマジで死ぬ。
地面に激突する直前に≪
いや、タイミングを間違えたら余計に酷いことになるだろう。
こうなったらイチかバチか地面に激突する直前に『バーニングボンバー』で逆噴射ブレーキをかけるか……
などと考えていると、横殴りの突風がシンクを襲った。
「うおおおっ!」
シンクの体がふわりと一瞬だけ浮く。
その瞬間を狙って光球を体の下に躍り込ませた。
「あ、あっぶねえ!」
偶然とはいえ、なんとか光球の上に乗って落下を止めることができた。
だが浮遊する小さな球の上に腰掛けているという不安定な状況はこれはこれで怖い。
最低でも三点以上で支えないと上手く体のバランスが取れない。
シンクは慎重にすべての光球を同時に操って体を支えつつゆっくりと下降した。
この新しい能力は自分の意志に従ってくれるが、焦るとまだミスをしそうだ。
今度さっきのような突風が吹いたらまた落っこちてしまうかもしれない。
「……ん?」
視界の端に何かが映った。
何かがこっちに向かって飛んでくる。
緩やかな放物線を描きながら近づいていた。
異世界のモンスターって奴か?
おいおい、冗談じゃないぞ。
シンクは逃げるかどうか迷ったが、近づいてくるそれを確認すると思わず腰を浮かせた。
「!」
足下に光球二つを配置してその上に立つ。
怖いだとかの気持ちはすでに吹き飛んでいた。
向こうからやってくるあれを受け止めなければ。
シンクは急いで飛来物の進路上に入る。
残る光球を背中に配置して衝撃を受ける準備をする。
ものすごい速度で飛んでくるそれを両手を拡げて迎え入れる。
「レン!」
レンを――シンクの大切な少年を抱き留める。
「ぐはっ……」
とはいえ、飛んでくる人間を受け止めるのはかなりの無茶があった。
腹にキツいパンチを食らったような強い衝撃に思わず身もだえる。
しかしその甲斐あってレンは見事にシンクの手の中に収まった。
「レン、レン! あははははっ!」
「ん……」
どうやら気絶しているようだがちゃんと息をしている。
シンクはこみ上げる嬉しさを抑えきれず、笑いながら急いで地面に降下した。
岩肌の大地に降り立って光球を消す。
レンを地面に横たえ、ぺちぺちと頬を叩いて呼びかけた。
「おい、レン。起きろ。起きろ」
「んんん~っ……」
眉根を寄せて呻く少年。
襲ってしまいたいくらい可愛い。
どうしよう?
やっちゃおうか。
「んあ……シンくん……?」
シンクが気の迷いを起こす直前にレンが目を覚ました。
ぱちぱちと数度瞬きした後、むくりと起き上がる。
夢見心地の表情でじっとこちらを見てくる。
「お、おう。おはよう」
「おはよ。うわあ、シンくんだぁ。おはようございます」
どうやら寝惚けているようである。
レンは体を預けるように倒れ込んでくる。
すっぽりと腕の中に収まる小さな体。
東京湾上で超バトルを繰り広げていた人物とは思えない。
ましてやこの温かさは人工的に作られた人間だなんて微塵も感じさせず――
「レン、ちょっと立て」
「ん、うん……」
どうでもいいことは忘れよう。
レンはレンであって、それ以外の何物でもない。
とりあえず、お仕置きを兼ねてこの馬鹿の目を覚まさせよう。
素直に立ち上がったレンだがまだ目の焦点は合っていない。
シンクも立って姿勢を正し、こほんと咳払いをした。
……レンなら大丈夫だよな?
「うぉりゃっ!」
「ぐ」
寝惚けまなこの横っ面を力一杯に叩いた。
吹っ飛ぶレンを見てものすごい罪悪感がこみ上げくる。
「いたい」
何事もなかったかのように起き上がってくるレン。
その姿を見て見てホッと一息つく。
「……あれ、シンくん?」
やっぱり寝惚けてやがったか。
レンは目をぱちくりさせ、赤くなった頬をさすりながら、しかし殴られたことは気にすることなく飛びついてくる。
「シンくん、どうして!?」
ただシンクがいることに対して心から嬉しそに喜ぶレン。
そんなレンをシンクは、
「てやっ」
避けた。
「あぶっ」
抱き留めてもらえると思っていたのか、受け身も撮れずに思いっきり地面にダイブする。
またしても罪悪感囲み上げてくるがここで甘やかしてはいけない。
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