4 ALCOの怨敵
「何考えてるんですか、あの馬鹿は……!」
神田和代はニュースを見ながら悪態を吐いた。
ここは反ラバース組織の隠れ家の内の一つ、そのリビングである。
北関東の某所にあり、主な活動場所である南関東で積極的な活動をしない時に利用する。
だが、今日に限ってはこんな遠く離れた場所にいたことを心から後悔した。
御曹司のまさかの暴走。
能力者の存在を世間に暴露するという信じられない暴挙に出た。
各チャンネルでは神奈川東部のいくつかの場所で、アミティエの連中が仮想世界のモンスター相手に能力を堂々と使っている姿が映し出されている。
こんなことをラバース本社が許すはずがない。
御曹司の独断……いや、これはもはや反乱か。
まともな神経でラバース本社に反抗するなんてありえない。
よほど状況が見えていないか、あるいは確実に優位に立てるだけの切り札を持っているのか。
「なあ和代さん、あれって仮想世界にいたモンスターだよな」
「そのようですわね。どうやって現実に姿を現しているのかは知りませんが」
机の向かいで同じようにテレビを眺めていたマコトが言った。
方法は見当もつかないが、今さら驚くことでもない。
ラバースを相手に「信じられない」などの思考停止は百害あって一利なし。
いざという時に判断を誤るだけだし、問題にすべきは起こってしまった事実にどう対処するかだ。
なので、和代は次にマコトが指摘した可能性を完全に失念していた。
「もしゲーム世界から出してるんだとしたら、無限に生み出せるってことじゃね?」
あの時の和代たちはゲーム世界から逃げ出せば良かった。
際限なく発生するザコ敵との戦闘は極力回避していたくらいだ。
ボスは強力で倒すのも一苦労だった。
だが、それ以上に恐ろしいのは湯水のごとくわき出てくるザコモンスター。
やつらがゲームの中の存在で、コピーするだけで簡単に増殖できるとしたら、それは非常に危険な存在である。
「……まだそうと決まったわけではありません。具現化には媒体が必要かも知れませんし」
常識的に考えれば、実態のないゲームの中の生き物を無限に呼び出せるなんてあり得ない。
信じられないことを平気で実現するラバースでも、いくらなんでも物理法則を無視しすぎている。
もちろん最悪のケースは想定しておくべきだが。
「いや……?」
和代はとある仮説を立てた。
ゲームの中の生き物を現実に呼び出している?
その考えが間違っているのかもしれない。
そう、これは……
「ゲームのデザインを参考にして、新しい命を生み出している」
いつの間にか部屋の入口に香織が立っていた。
ラバース側がALCOと呼ぶ反ラバース組織の長である。
「もしかしたら、あいつがバックにいるのかも」
どうやら彼女も和代と同じ想像をしたようだ。
それはとても恐ろしく、また考えられる限り最悪の可能性である。
逆に考えれば、だからこそ御曹司はラバース本社に逆らう行動に踏み切ったとも考えられる。
「ショウは!?」
和代は激しく音を立てて椅子から立ち上がった。
即座に調べなければならない。
これはもう座視して放っておける状況ではない。
奴が関わっているにせよ、無限にモンスターを生み出す技術を開発したにせよだ。
「ショウならもう行った。自分の携帯端末でニュースを見て即座に出て行った」
「そ、そうですか」
香織の後ろに立つ巨漢の男が言う。
ショウやマコトと同じ『最初期の能力者』のタケハである。
和代は取り乱してしまったことを恥じて、一度ゆっくりその場で腰を下ろした。
「こういうときはあの行動力が頼りになりますわね。ここから特区まで即座に飛んでいけるのは彼くらいですから」
「ルシフェルがショウの存在を失念しているとは思えない。何らかの手を打っているだろう」
「その時はその時ですわ」
ショウは扱いづらいクソガキだが、あの強さは間違いなく本物だ。
香織レベルの天敵がいない限り倒されたり敵に捉えられたりという姿は想像もできない。
仮に『特異点の男』ミイ=ヘルサードと鉢合わせたとしても、彼ならむざむざやられたりはしないだろう。
結果を見届けたいところだが、和代にはこれから別の予定がある。
「空港に向かいますわ。マコトは車の用意をお願いします。他のメンバーたちは万が一のことを考えて陸路で神奈川に向かってくださいな」
ショウが何らかの情報を得て帰ってくることに期待しつつ、和代は自分のすべきことを成すための行動を開始した。
和代の指示に従ってマコトとタケハ、そして隣の部屋で別のテレビを見ていた元からの反ラバース組織のメンバーたちも動く。
リビングには和代と香織だけが残った。
「あなたはここに残るんですわよね」
「うん。やることがあるしね」
「……もし、本当に彼が関わっていたらどうします?」
和代は遠慮がちに尋ねた。
その額には汗がにじんでいる。
「あはっ、決まってるよ」
普段通りの邪気のない笑顔で。
しかし声には若干の震えを乗せて香織は言った。
「必ず殺す。ヘルサードと新生浩満だけは絶対に。何があっても殺す」
学生時代と変わらない穏やかな雰囲気の裏に隠された小石川香織の狂気。
正気なままでは今や世界的大企業となり、世界を裏から操っているラバースコンツェルンに逆らう組織の長など、務められるわけがないのだ。
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