9 襲撃

 数人の男たちが土足でズカズカと侵入してくる。


「こんにちはー、アミティエ第三班のみなさーん!」


 派手なピアスの金髪男が不快な声で叫んだ。

 ここが能力者組織の集まりだということはわかっているようだ。


「どなたか存じませんが、あまりにも失礼な態度じゃありませんか」


 アテナは臆さずに堂々と対応した。

 アオイがいない今、副班長の自分がしっかりしなくては。

 しかし金髪ピアスはアテナの質問を無視して室内をキョロキョロと見回している。


「班長のアオイってのはどいつよ? それかシンクって奴は?」

「どちらも今日は不在です。それより、あなた達……」

「なんだよおい、いねーらしいぞ!」


 再度の問いかけを大声でかき消す金髪男。

 後ろに控える闖入者たちは一様にガッカリしたような態度を見せた。


「マジかよ、無駄足じゃん」

「せっかく久々のパレードで盛り上がってたのによ」

「あーあ、どっちらけ」

「ちょっと、あなた達……いたっ」

「うるせえんだよ」


 詰め寄ろうとしたアテナは金髪男に突き飛ばされ、畳の上に尻餅をついた。


「どうする、帰る?」

「いやいや、ここまでやって帰れねーだろ。あちらさんもマジになってるみたいだし」

「このヤローっ!」


 アミティエ側のメンバーがおもむろに金髪男に跳びかかった。

 握りしめた拳が金髪男の頬にめり込む。

 だが倒すには至らない。


「痛ぇな。おい」


 底冷えのするような目つきで睨みつけられる。

 怯んだ彼の鳩尾にカウンターの膝蹴りが打ち込まれた。


「が、はっ」

「んじゃせっかくだし、集団能力バトルとしゃれこむかぁ?」

「能力……!? あなた達、まさか……!」


 金髪男はニヤリと笑う。

 そして懐からジョイストーンを取り出した。


「はじめまして、俺たち神奈川西部担当の能力者組織ポシビリテでーす。今日はアミティエ第三班のみなさんにケンカを売りに来ましたぁーっ!」




   ※


 デパートの本屋で立ち読みを始めたら、つい時間が経つのを忘れてしまった。


 店員もやる気がないのか注意するそぶりもない。

 どうやらここは絶好の無料読書スポットになっているらしい。

 周りには近所の中学生が学ランのままうじゃうじゃたむろしている。


 二冊目のコミックスをもう少しで読み終わるところで、携帯端末が鳴った。

 亮だ。


『新九郎……』

「おう、遅かったじゃねーか。もう着いたのか?」


 シンクは本を適当に戻して本屋から出る。

 時計を見るともう七時過ぎだ。

 なぜか沈んだ声の亮を「財布でも落としたか」と茶化したが、


『すまん』


 返ってきたのは、そんな短い言葉だった。


「……なんだよ、もう少し遅れそうなのか?」

『俺はお前を騙した』


 その声はとても重い。

 冗談ではなさそうな雰囲気だ。


『どういうことだ。わかるように説明しろ』

「お前だけでも巻き込みたくなかった。だから、わざと嘘の約束で呼びだしだ」


 危うく携帯端末を握り潰す所だった。

 嫌な予感が這い上がり、声が震えるのを自覚する。


「どういうことだ、おい」

『第三班は、今頃……』


 通話も切らずに携帯端末をポケットに突っ込むと、シンクはデパートの出口に向かって全速力で駆けた。

 途中で買い物中のオバサンにぶつかって盛大に突き飛ばしたが、背後から聞こえる怒声も耳に入らない。


 停めてあったバイクに跨りフルスロットルでマシンを飛ばす。

 本来なら今頃シンクがいたはずの第三班の集会所へ。




   ※


 ポシビリテのメンバー、ダイキは二人の仲間と共に湘南日野の住宅街を歩いていた。

 他のメンバーたちは今頃アミティエ第三班のアジトを襲撃しているはずだ。


 わざと目立つように正面から攻め込んで、今頃は大乱闘の真っ最中だろう。


「その公園の先を左だ」


 右前を歩く仲間の一人がエネルギーシーカーを見ながら伝えた。

 ターゲットは複数のジョイストーンと同じ反応を見せるという。


 こんな住宅街にジョイストーンの保管庫があるわけはない。

 奴は間違いなくそこにいるのだ。


 第四班と連携し、わざと大部隊に戸塚市を素通りさせ、久良岐市の第三班を奇襲させる。

 これも作戦のひとつだが、実はそれもまたフェイクであった。


 第三班のアジトに向かった奴らの狙いは、班長のアオイとアタッカーのシンクとか言う奴だ。

 オムがこちらに付き、ショウが海外に出向してしばらく帰ってこない今、数少ない脅威となりうる班長クラスの能力者の排除である。


 襲撃チームには≪白き石の鎧≫を二つも持たせてある。

 第二班班長と同等以上の力を持つあの能力兵器なら一人一殺で確実にカタがつく。


 だが本命はこちら、ダイキたちのチームである。

 三人の少数精鋭であるが三人とも≪白き石の鎧≫を持っている。

 彼らの目的はショウのいない現在、アミティエで最も危険な敵の始末だ。


「……見つけたぜ」


 そいつは同年代の友人と住宅街を歩いていた。

 何気なく街に溶け込むには、あまりに危険すぎる存在。

 冗談のような水色の髪を後ろで束ねる少女のような容貌の少年。


 奴こそ上海の龍童、陸夏蓮。

 彼らの最優先ターゲットである。

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