追放エンドの悪役令嬢に転生しました〜嫌がらせで鍛えた調薬技術で楽しくやってます〜

真波潜

第1話 追放END

「マルグリート・フェルナス! 貴女をエレーヌ・シャーウィル伯爵令嬢の毒殺未遂の罪で国外追放とする!」


 そう声高に宣言したのは、現在進行形で私の元・婚約者となったギュスターヴ王国の皇太子、カルロ・ギュスターヴ様でした。


 今日は学園の卒業パーティー。何もそんな晴れの日に、やってもいない毒殺未遂で国外追放を宣言されているのでしょうか。


 そもそも、婚約者なのに私をエスコートしてくださらない、そこがおかしいのに何故私は気付かなかったのか。


 お父様、お母様、ごめんなさい。きっと私のせいで爵位が下がってしまう事でしょう……。


 様々な考えが私の中を通り過ぎて、ガクリと力が入らなくなりました。支えてくれる人はいません。私は目の前が真っ暗になり、その場に倒れてしまったのだと思います。


 でも、あんまりじゃないですか? 私という婚約者がいながら他の女性にうつつを抜かし、私を放置・無視・嘘をついて目を盗んではデート三昧。


 私の容姿は……多少釣り気味の緑の瞳に紺色の髪というものですが、そこまでされる程不細工だとは自分では思いません。たぶん。どうなんでしょう、メイドにしかほどんど褒められた記憶が無いので……婚約者がいる女性を褒めそやすような方も周りにはいらっしゃいませんでしたし。婚約者がいても他の女性を褒めそやすのはうちの婚約者の皇太子位でしょう。何やってらっしゃるんだあの人は。


 公爵令嬢ですよ? 私。婚約者ですよ? それは何度もカルロ様にもエレーヌ嬢にも口頭で注意しました。


 しかし、それすら嫌がらせ扱い。


 仕方がないのでデートが駄目になるように痺れ薬やちょっとした毒薬を差し入れようと思ったことはございます。ほんの出来心です。


 しかし、高貴な身分の方には毒味役が必ず居るもの。ぐっと堪えました。毒味役の方に恨みはありませんからね。


 とりあえず調合だけはして使ってない毒薬の数々が、部屋にあるのは認めましょう。


 そうして薬草学を学ぶうちに、致死量の毒薬のレシピまで考案してしまったのも……認めましょう。


 ですけど、作ってないですし、使ってないですし、使う気もさらさらございませんでした。


 なのに、毒殺未遂? 私の部屋を無断で調べられたのは明らか、それこそプライバシーの侵害ではなくて?


 いえ、そんな事より……。


「ここは、どこかしら……」


 痛む頭を押さえて起き上がった私は、見知らぬ場所におりました。


 白い雲が垣間見える、壁のない宮殿のような場所……天井は高く、太い柱は大理石のような滑らかさ。床は綺麗なタイル張りで、私はそのタイルの上に座っています。


 倒れて運ばれた、とかではありませんね。ベッドの上でもありませんし。学園にも、王宮のどこにもこんな場所はございません。


「やっと起きてくれましたね」


 そう声を掛けてきたのは、白金の髪を持つ、背に翼を生やした超絶イケメンでした。


「転生してからこんなに粘り強く過去を思い出そうとしない方も中々居ないので、結局国外追放になってしまったじゃないですか」


 転生……? その言葉を聞いた瞬間、怒涛のように過去の記憶が蘇りました。


(そうだ、私は……製薬会社で新薬開発に励んでいたはず……)


 年齢=彼氏いない歴、スッピン出社が当たり前、出会いの無い職場に10年勤めた気付けばアラサーの研究職……だった。


 その日、残業でへとへとの私が最寄駅から出た時、酔っ払いにぶつかられて車道に出てしまい……派手なクラクションの音とヘッドライトが最後の記憶。


「私、死んだのね……?」


 確認するように呟くと、イケメンは鷹揚に頷きます。


「そうです。そして、貴女は転生する機会を得ました。貴女のリクエストで、ハマっていたという『クリスタルの約束』の世界に転生させたのに……主役は現世でやり尽くしたから悪役令嬢がいい、というリクエストまで聞いたというのに。貴女ときたらそのまま悪役令嬢として過ごしてしまい、今はエンディングの国外追放イベントが終わった所です」


 そうだった、だんだん記憶がハッキリしてきた。


 私の開発した新薬がある病気の特効薬で、それを汲んでこの目の前のイケメン……そう、神様が私を望む場所に転生させてくれたんだった。


 夢だと思っていたから、私その事をすっかり忘れて、見事に悪役令嬢ムーブをかましまくって……。


 ラノベであるような逆ハーレムも、追放エンド回避もできずに、マルグリートとしての人生を18年間過ごし……。


(も、勿体ない……!)


 思わず綺麗なタイル張りの床に這いつくばってしまいました。


 前世でやり込んだゲームを、違う側面から攻略してやろうと思っていたのに、この馬鹿! ドジ! 間抜け!


「まぁ落ち込むのはその位にしてください。ゲームのマルグリートは確かに主人公の飲み物に毒薬を盛って処刑エンドでしたが、貴女という無意識の自制心が働いて国外追放で済みました」


 イケメンは這いつくばった私に頭上から声を掛けてきます。神様だから当たり前かもしれないけど、普通もう少しこう、優しくしたりしません? いえ、喪女からの悪役令嬢だったので男性に優しくされた覚えなんてついぞ無いので妄想ですけど。


「という訳で、貴女も無事思い出したようですし、転生ボーナスを授ける機会が訪れました。貴女の望むものを、なんなりと」


「それ、転生させる時にもらえるものなのでは……?」


「赤ん坊で記憶が戻って能力を持っていても仕方ないですから。貴女が思い出した時に、と約束していたんですよ。18年間全く思い出さなかった……つまり、意識を飛ばす程のショックを受けなかった、出来事が無かった、というのも稀なケースではありましたが」


 健康第一心は鋼鉄の喪女がベースですので、たぶんきっかけになる出来事は起こっていたとは思うんですけど、見事にエンディングまで思い出せませんでしたね。

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