第335話 パリピな階層

 六十階層は、お洒落な廊下だった。

 下の階層もお洒落なお部屋だったけど、こちらもまた負けず劣らずのお洒落さだな。

「壊したら白金貨を払わなくてはならないような調度品が飾られているな」

 私の言葉でソードがぐるっと周りを見渡し、肩をすくめた。

「弁償しろとは言わねーだろ。じゃ、行くぞ」

 調度品に見向きもしないでさっさと歩くソード。

 私はキョロキョロしながら歩き……。

「敵が出た!」

 ここは廊下でエンカウントした!

 しかも、また人型魔物。…………だけど。

「ここはお化け屋敷風なのか」

 骸骨出たしー。

 しかも、ドレスを着ていたりスーツを着ていたりするお洒落さんな骸骨。

 私はソードを振り仰いだ。

「ソード、人型魔物が出たが、大丈夫か?」

 私が心配をしているのに、ソードは呆れたような軽蔑したような顔で言った。

「……俺、人型魔物がダメなんじゃなくてさ、人間がダメなのよ? わかる? アレ、どう見ても人間じゃなくない?」

 むむ、パペット兵隊たちも人間では無かったのだが。

 だけど、ソードの中では区分があるらしく、骸骨は何のためらいもなくぶった切った。


 それにしても、お化け屋敷階層はどうやって攻略するべきなのかなー。怖くないんだけどなー。

 ……と、考えてる間にどんどん襲いかかってくるお洒落骸骨。

「うぅむ、ホラーというならよっぽど下の害虫階層の方が怖かったな」

 思い出したくないから思い出さないけど。

「いいから。さっさと抜けるぞ」

 ガンガンぶった切りながらソードが言った。


 廊下を進み骸骨をガンガンやっつけているが、他には特にギミックはない。

 いや、ないと勘違いしているだけかな。下の階層はいろいろあったものな。

 ――そんなことを考えていたときに、ふと目についたのが飾られている壺。そういえば……今、何か思い出したぞ。

 思い出したことをちょっと試してみた。


  ガッチャン!


 私は壺を床に叩きつけて壊した。

 そうしたら、怒りのレイスが出た。


 怒れるレイスを慌てて即斬する私を見て、ソードが呆れた。

「……お前、何やってんの? その壺、高そうとか言ってなかった?」

 ソードが苦情を言ってきたので私は弁解する。

「たった今、思い出した事があったので試した。こういった壺があった場合、壊すと、コインや宝が出てくることがあるのだ。ここでは魔物が出るのだな」

 ソードに即ツッコまれた。

「俺たちって別に金に困ってなくない?」

 ……そうだけどさあ!

 壺を壊しても調度品を壊した罰で怒りのレイスが出て来る以外になかったので、やめて先に進んだ。


 敵は、階を進むごとにどんどんお洒落になってくる。

 そして踊りながら攻撃してくるようになってきた。

「随分と陽気な敵だな。こちらもステップを踏みながら攻撃するべきかな」

 私は骸骨のまねをしてステップを踏んでみた。

「……なんでそう、お前っていちいち事を難しくしようとするワケ?」

 踊っている私にソードがぐりぐりしてくる。

「それはノリが良いと表現するのだ! 人生を楽しむにはノリの良さが必要なのだ! うぇ〜い!」

「何? 最後の言葉。アンデッドみたいに不気味にうならないで」

 パリピは不気味らしいよ。


 お洒落骸骨が華麗に攻撃してくるのだからこちらも応じるべきだ、と主張し、私がお手本。カンフーの剣術にしよう。

「ソード、双剣を持っているか? 貸してくれ」

「珍しいな」

 面白がりながら貸してくれた。

 形状が違うけれどまぁいい。

 これで舞いながら戦ってみた。

「へぇ。綺麗なもんだな」

 ソードが感心して私を見ている。

「ソードもやってみるか?」

 基本の型をまず演舞。

「溜めを作るとカッコいいぞ。速い動きと遅い動きでメリハリをつけるのだ。どうせ私たちは力を入れずとも斬れるのだから、柔軟に手首を動かすのを意識しろ」

「……俺はそこまででもないよ? 力を入れないと斬れないこともあるよ?」

 などと言っていますけれど、またまたご謙遜を。

 だって、さっそくまねをしたソードがくるくると振り回しながら敵を斬ってますけど、力、入れてませんよね?

「……お前はすぐ謙遜するよな。良くないぞ? 自分を肯定しろ!」

「違うの。お前と一緒にするな、っつってんの」

 ……説教したら落とされたし……。


 階を上るごとにホネホネダンサーの衣装とダンスがアップしていく。

 ソードもノッてきて、お前ソレ習ったことないだろ? とツッコみたくなる演舞を披露しながら敵を華麗に斬り捨てる。

 私はこの世界ではないけれど、知識としてはあるので完璧ですよ?


 バッサバッサ斬り捨てながら、ボス部屋前。

「…………マジかよ」

 ソードがつぶやいたのにはワケがある。扉の前に注意書きが貼られていたのだ。


『この先、ペアで入場して下さい』


 ふーん。本格的に舞踏会風なのだな。

「じゃあ、ソードと私、リョークペア、ホーブペア、シャールと残ったホーブでちょうどいい……」


 ハッ!


 ミニミニ鎧騎士クン一号に視線が集まった。

 ミニミニ鎧騎士クン一号、がく然とした雰囲気で立ち尽くし、「俺は?」みたいに自分を指さしている!


 …………シーン。


 ソードが困った顔をして私を見た後、困ったようにミニミニ鎧騎士クン一号に言った。

「お前は、いったんシャールの中にでも避難してろ。終わったら出すから……」


 ガ━━━━ン!


 といった雰囲気で、自分を指していた手をパタリと落とすミニミニ鎧騎士クン一号。

 ムムム……。

「…………いや、大丈夫だ」

 ミニミニ鎧騎士クン一号をひょいと抱き、ソードに手渡した。

「お前はミニミニ鎧騎士クン一号と組め。私は単独で行く」

「は? だってよ……」

 ソードが注意書きを指さすが、私は扉に向き直った。

「開扉せよ! 私は、一人で歌もダンスも披露出来るぞ! 【歌姫】の歌と踊りを見たければ、この扉を開け放て!」

 宣誓した。

 ソードが呆れている。

「……そんなんで、開くわけ……」

 ギギギィー…………。

 開けごまが通じた。

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