第317話 そろって泣きだしたらどうしましょう

 魔物型ゴーレムを観察。

 ふむふむ。

 ……あんな感じのA○BOみたいなのを作ってもいいかな。

 完全に玩具になるけれど、それもまた良いだろう。


 ――と、ソードが寄ってきてささやいた。

「今度は何を作るんだ?」


 エスパー! ソード、エスパー!

 なんで察知するんだよ!?

 ――いや、違うカモ。単に新しい子をはべらせたいだけかもしれない。

「……あぁいった感じで、もっと小さい、軽く抱っこ出来るくらいの魔物型ゴーレムもかわいいだろうなと考えてたのだ。完全に玩具だが。愛でるだけの小さなゴーレムもかわいいよな。動作はリョークと、拠点の黒太たちをモニタリングして混ぜてみるか」

 私的には猫を作りたい。

 この世界にいないし。寂しいし。仲間がほしい。

「ふーん。いいんじゃねーか? 別に、そんなゴーレムがあってもおかしくねーだろ」

 さすが、ガジェットにはとっても心が広いソード。

 そんな無駄なの作るの? って言うどころか大賛成してくれた。

「じゃあ、ますます魔王城のダンジョンで遊びたいなー。〝にゃんこ〟用のデッカい魔石がほしいぞー」

「もう名前つけてんのか」

 ソードが笑う。

 魔物型ゴーレムは私たちの会話を聞いて振り返った。

「……人間とはそれほどたやすくゴーレムを作れるものなのか」

 どうなのだろうなと私は首をかしげ、ソードは首を振った。

「普通の人間は作れない。コイツは普通の人間じゃない。そもそも人間かどうかもわからない」

 何を言い出しているのだソード?

「いや、私は人間だぞ? 母親に似てきているとメイド長を筆頭に口をそろえて言ってるではないか。更には、執事はスプリンコート伯爵にも似ているとか抜かしたぞ。泣くかと思ったぞ」

 まぁ、あの二人の非道さは人間とは思えないけどな!

 もしかしたらあの二人は人間じゃないかもな!

 ソードが返してきた。

「まぁ、お前の『女に弱い』部分は伯爵の血を引いてそうだよな。『ドS』の部分が母親譲りか」


 …………。

 あらやだ似ていたらしい。


 魔獣型ゴーレムは私たちへの警戒を解いたようなので、質問してみた。

「お前の制作者は、お前の動きをどう学習させたとか言っていたか?」

 魔物型ゴーレムは、首を横に振る。

「元からこういう動きだった」

 まぁ、作られた側はそうだよな。わかるわけないか。

「ふむー。何か参考になるようなラブリーな魔物がいたら良いのだが」

「ラブリーだと思うのはお前だけだけどな」

 ソードがすかさずツッコんできたが、私は無視して独り言を続ける。

「そういえば、王都のダンジョンにいたサラマンダーはかわいかったなぁ。飼いたいが、火山地帯じゃないと飼えないだろうからなぁ」

 思い出して懐かしむ私。

「……サラマンダーを飼いたいなんて、お前だけだよ。普通なら辺り一帯炭になるぜ? そもそも近寄れねーんだけど」

 独り言に、いちいちツッコむなソード! むくれるぞ!

「別世界ではな、熱くないサラマンダーは守り神として珍重され愛されてたんだぞ? チチチチーとか鳴いてかわいかったんだぞ?」

 私が口をとがらせて反論したら、ソードが肩をすくめた。

「別世界は魔物じゃ無かったんだろ? つーか、今『神』って言ったのか?」

 私はうなずいた。

「別世界の神は人型以外にもいろいろいたのだ」

 ソードがジロン、とにらんできた。なぜだ。

「アマトとスカーレットに聞いて確かめる」

 ……ソードが私の話を信じてくれなくなった。


 話しながら移動していたら、転移ポータルのような場所にきた。

「…………念のために聞くが、コレって、王都のダンジョンコア様が言ってたように、地点と地点を結ぶのであって、人間を移動させるものではないのだよな?」

「…………その通りだ」

 魔物型ゴーレムが渋々といった感じでうなずいたので、ちょっと安心した。

「魔術でもあるようだが、アレは人を移動させているようで怖いんだよなぁ。人間をどう処理して転移させてるのか……転移し損なってうっかり胴体を置いてきたりしたら……と想像すると怖い」

「……俺も怖くなったから、絶対に使わないし使わせない」

 ソードも同意してくれた。

 で、いじけているリーンをシャールから出して、シャールはリョークに格納。

「よーし、準備万端だ! 魔王城のダンジョンはどんなかなー?」

 ソードが笑って私の頭をなでた。


 転移ポータルで移動した先には、魔族らしい男たちがいっぱいいた。

 武器を構えているぞ?

「ふむ! ふむふむ! もうダンジョン内か! これって殺していいのか!?」

「ちょっと待って、お願い、興奮しないで」

 ソードが私をなだめ始めたし。

「……勇者リーンよ。これはどういうことだ? 貴様は人間の国を滅ぼしに向かったはずなのに、なぜ任務を放棄し、人間を魔王国に連れてきた」

 魔族たちがリーンに厳しい目を向ける。

 リーンも真剣に魔族たちを見据えて言った。

「……魔王様にお目通り願いたい。なぜ人間の国を、少人数で滅ぼそうとするのか、その理由を教えてほしい。……本当に滅ぼす気があるのかを聞きたい。俺と仲間が決死の思いで砂漠を渡り、仲間が死んでいったのが無駄死にではないのか、それを弁明してほしい」

 囲んでいた魔族たちがそれを聞いて戸惑う。リーンの言っている意味がわからないようだな。

 しかたない、私が解説しよう。

「つまり、だ。行き倒れてたコイツをたまたま拾ったんだが、腑に落ちないことを言い出したのだよ。『数人で王都を襲おうとしてる』とな。意味不明だ、お前たち全員でかかってくればいいだろう。なんで数人だけなのだ?

 しかも、砂漠越えに関して何の対策もしない。オアシスを作る魔導具を作るなり、移動用ゴーレムを作るなりすればいいのに、死ねと言わんばかりじゃないか。どうせなら、盛大に戦った方が武器も防具もたくさん売れる。死ぬやつも大量に出るが、どうせ上の連中は他人の命なんて無料で消費出来る元手が一番安い消耗品と考えてるだろう?

 ――武器、防具を売りさばき、消耗品たる戦闘員を大量に用意し、一気に攻めるのが通常の戦争だ。なのに、なんで数人だけ送り込むのだ? それで成功するならともかく、今の今まで誰も成功してないじゃないか。王国は元より成功させる気なんてないが、やらなければ王国が滅ぶと書物に書いてあるらしくて、まぁ大した費用もかからないからと惰性でやっているらしいのだが、魔王国はどうなのだ?」

 話していたら、リーンがまた泣き出した。

 ソードが気の毒そうにリーンをなでる。

 囲んでいる魔族たちは呆気にとられた後、顔を見合わせた。

 心なしか青ざめているぞ。

「そ、そんな考えを……そんなひどい考えを、人間はしてるのか?」

 声を震わせて聞いてきた。

「うん? 魔王国とやっていることは一緒だが? どっちみち、コイツら魔王国の勇者は無駄死にだろう? アレだ、『人柱』というヤツだな!」

 そう言ったら、魔族全員、がく然とした。リーンは激しく泣く。

 ソードが慌てて私の口を塞いだ。

「ちょっと、もうやめなさい! リーンが泣きやまないでしょーが! それどころか、囲んでる魔族たちまで泣き出すぞ! 俺、慰めるのヤだからね! なら戦う方が断然マシだから!」

 それはそうだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る