第205話 ようやく帰途についたよ

 私とスカーレット嬢は、牧場を見たり、お菓子を作ったり、アマト氏と別世界談義で盛り上がったりとのんびり過ごした。

 合間にブロンコとサイドカーの作成。

 見ていたスカーレット嬢がブロンコを見て尋ねてきた。

「これって、アレですわよね?」

「うん? スカーレット嬢、ああいったヒーロー物は見ないと思ったが?」

 別世界の知識に、大人向けヒーローアニメで主人公二人がバイクとサイドカーに乗っていたのがあったのだ。

 ソードのバイクはそれに色合いが近いので、思い出したらしい。

「あれは有名でしたもの! オッサン×美青年……ぐへへ」

 ワーヲ!

 そっちか!

「う、うん……。まぁ、アレは見てたぞ? 私は女子高生の恋を応援してたが」

「あら? でも現実は、あんなかわいいJKがえないオッサンを好きになるなんてないでしょう?」

 元JKがのたまったので、そうなのかもしれない。だが。

えないオッサンと美青年はもっとないと思わないか?」

「ありますわよ!」

 あるのか……。この点は、本当に、英知の違いを感じるなぁ。

 アマト氏にも聞いたら、見てたけど、面白かったけど、そこまで興味は無かったらしい。

「なんつーか、主人公のリストラ間際のリーマンっぷりに悲哀を感じたよね」

 って、社畜っぽい意見をありがとう。


 別世界B級グルメは、ランチに集中させた。

 朝食と夕食は張り切ってる料理人にお任せ。

 ただ、さすが変わり者と(ソードに)言われてる公爵。

 ――私、スカーレット嬢、アマト氏、ソードはまだいいのよ。

 私たち、庶民でしたもの。

 公爵は、生粋の貴族でしょう?

 なぜ食べたがるのだ!?

 ラーメンなんて、音を立てて食べるのよ?

 ソードだって、

「え? お前、貴族だったんだろ? ソレってアリなの?」

 って引いたんだよ?

 なのに、まったくおじ気づかずに、ラーメンすすって食べてるのよ?

「――ジェラルド殿、私は貴男を見くびっていたようだ。まさか生粋の貴族の貴男が『音を出して食べる』というタブーを犯されるとは思ってもみなかった」

 私がつぶやくと、公爵が胸を張って答えた。

「これが平民のルールならば、それにのっとるまで! 私も心は冒険者なのだ!」

 なるほどな!

 感服した。

「わー、ヤバいなー。ジェラルドとインドラって、出会っちゃいけない二人って気がしてきた。……スカーレット、お前の父さん大丈夫? 貴族に戻れる?」

「…………家に戻れば、母がおりますから…………」

 スカーレット嬢のつぶやきを聞いたジェラルド公爵、ビクッとした。

 なるほど、恐妻家なんだ?


 配達用ブロンコも出来上がり、アンを筆頭に皆が運転の練習と称してガンガン乗り回した。

 メイドの矜持もマナーも放り出し、革のジャケット、革のパンツにブーツとライダースタイルで!

「わぁ、アン! かっこいいですわぁ!」

 スカーレット嬢に褒められ、照れるが気を良くしたらしい。

「恐れ入ります」

 赤くなりながら頭を下げている。


 で、大体頼まれたものは作り終え、ショートガーデ親子は使用人共々貴族うんぬんを放り出して完全くつろぎ体勢、すっかり居着いてたのだが、実家からお手紙が届き、慌てて帰り支度を始めた。

「名残惜しいが、本当に名残惜しいが、帰らないと、妻が……」

「皆まで言うな。大体察している。まぁ、奥さんの尻には敷かれておいた方が、円満な家庭になるそうだぞ?」

 私が公爵をなだめていると、

「出たよ、オッサン発言」

「……インドラ様は、絶対、転生前はオッサンだったに違いありませんわ」

 後ろで二人がひどいこと言ってる。


 ブロンコとシャノンのレンタル料に何がほしいかと聞かれ悩んだが、伝手がなければ手に入らないであろうさまざまな原材料を贈ってもらうことにした。

 作るより、材料集めが面倒くさいんだよね。

 よし、これで原材料は言えば持ってきてもらえそうだ。ウシシ。


 スカーレット嬢は意気揚々と車を運転して(しかもオープンカーにして、助手席に公爵を乗せて)帰っていった。

 土産でいろんなものを持っていったな。

 やれやれ。


 一息つくと、同じく見送りに立ったソードを見上げた。

「さて、ようやく旅立てそうだな」

「そうだな。……じゃ、行くか!」

 ソードが少年みたいな笑顔で答えた。

 ――ソードもやっぱり根っからの冒険者だよな。

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