第166話 だんだん仲良くなってきたよ

 スカーレット嬢と私は、それからちょこちょこと話していた。


 ――スワン君やソード教官に止められたが、私は練り歩くのを止めない。

 ……と、言いますかね。なんでソードが止めるのだよ! 目的忘れてやしませんかい⁈


 その、練り歩きの最中に時々出くわすのだ。本日も出くわした。

 挨拶を交わす。

「……それにしても、どうして[カレー粉]作れましたの?」

「私は、外食は定番の[カレー]を食していたが、自分ではスパイスを組み合わせて作っていたのだ。粉末ではなくホールを買っていたしな。だから材料の形はわかっていたのだ。組み合わせや配合も、気分に合わせていろいろ変えているぞ」

「うわー、チートって、元のスペックが重要なんだって理解した」

 と、アマト氏のようなことを言われた。

 そして、口調が戻っているぞ。


「せっけんとスカルプシャンプーは、お願いします、売って下さい。公爵家の財力を駆使して、買い占めます」

「いや、紅茶と交換してくれ。私も、ソードの財力を駆使して買い占めたい」

 スカーレット嬢がキョトンとした顔になった。

「え? ソード教官とご関係が?」

「学園での表向きは私の保護者だな。やつはSランク冒険者で気ままな独身の風来坊だ。金をうなるほど持っているし、この間も王都のダンジョンを攻略して、また使い切れないほどの財を手に入れた。そこらの貴族では太刀打ち出来ないくらいの金持ちだ」

「わ、やっぱり冒険者ってすごいですね。わたくしもソッチの方面の転生でも良かったけど……」

 と、濁した。

「ん? どうした? 籠から飛び出すなら、手助けするぞ?」

 首を振られた。

「公爵令嬢でも、別に構いません。インドラ様よりは転生前の知識を生かせてませんけど、それでも随分変えましたし。ただ……」

「スカーレット様、何を平民と話しているのだ?」

 と声をかけてきたのは、キラキラしい二人目の方の男。

「おぉ、お前は王子の腰巾着か」

「誰が腰巾着だ!」

「お前だ」

 ビシ! と指差す。

 憂い顔だったスカーレット嬢が、あっ気にとられる。

 私は首をかしげて腰巾着君を見た。


「どうした? 廊下で呼び止めてきたのはお前が二組目だな。よし、その意気に免じてどこにでもついていってやろう。人気のない場所も心当たりがあるぞ? 存分に、その嫌らしい顔つきで私をなぶるがいい! 返り討ちにしてくれよう! オラ、ワクワクしてきたぞー!」

 拳を振り上げたら廊下にいた皆が、一斉に引いた。

「変な誤解をするな! それに、お前に用事は無い! 勝手に誤解してテンションを上げるな!」


 むぅ。

 なんだよ、つまらないなー。


「……ついていってやると言ってるんだぞ?」

「お断りだ! むしろついてくるな! もう、金輪際二度とお前に関わりたくないわ!」

 ひどい。

 腰巾着君が、スカーレット嬢に向き直る。

「スカーレット様、なぜ貴女がこんなやつと話をしているのですか⁉」

 あ、スカーレット嬢に用があったのね?

「……確かに、かなり変わった方ですけれど……。非常に豊かな知識をお持ちでしたので、興味深くお話を聞かせて頂きましたの。今後の公爵家の発展にもつながりそうですわ?」

 ニッコリ、とほほ笑んだ。

 腰巾着君がジロリと私を見た。

「……確かに、成績は優秀なようだ。だが! 性格は、最低だ!」

 ひどい。

「貴族ほどではないぞ?」

「どの口が言うか! お前ほどの極悪で傲慢な性格の者など、貴族にすらいないわ!」


 むーっ。


「私は自由に生きているだけだ。それに、やられてからやり返してるぞ? 向かってきた連中を倍返しの返り討ちに遭わせたからといって、それを悪く言う連中の性格の方がよほど悪い」

「お前はわざと向かわせてるだろうが!」

「刺激の無い人生などつまらない」

 気取って前髪を払ってやった。

 プッと、スカーレット嬢が噴き出す。


 腰巾着君、今度はスカーレット嬢に食って掛かった。

「…………スカーレット様、何がおかしいのですか」

「あら、ごめんなさい。【氷の微笑のジーニアス】様が、それほどに表情をコロコロと変わらせるなんて、インドラ様はすごい方ですのね、と思っただけですの」


 …………何?

 その氷の何とかって?

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