第161話 学園最強の座を賭けて(剣術の時間)

 剣術の時間。

 まっすぐソードが向かってきた。

「この、バカ!」

「いたい!」

 いきなり拳固げんこをもらう。なぜに?


「お前に、俺へのいたわりって気持ちは欠片かけらもないのか?」

「うん? いたわってるぞ! だから、面倒事は私が一手に引き受け……ぎゃー!」

 アイアンクローだ‼

「いたわってるなら、なぁんで王子が俺に、お前との模擬試合を受けさせろって言いに来るんだよ?」

「……別に、お前の好きにすれば良いじゃないか。私はどっちでも構わない。正直、殺さないような手加減は非常に難しいから、殺してから考えよう。……ぎゃー!」

 ギリギリ締め上げられる。

「ソード教官、それ以上は止めて下さい。ソード教官に体罰を食らったせいで負けた、などと弁解されます」

 って王子が言ってきた。

「…………」

 ため息をついたソードが、ようやく手を離してくれた。

 ヒリヒリするー。


「悪いがな、模擬試合は禁じている。だから、こういった形式で対決しろ」

 ソードがそう言って、ドン! と何かを出した。

 悲鳴が上がる。

「こないだ討伐したサイクロプスの腕先の部分だ。腕先は加工に向いてないっつーんで、引き取ってきた。お前等、これを刻んでみろ」


 うーん?

 そんな簡単なこと?


「私は別に構わないが……。それで試合になるのか?」

 と、王子に聞いた。

「……ふん! ならなければ、改めて勝負を挑むまでだ」

「なるほどな」

 木刀を出そうとしたら、手で制される。

「武器も指定だ。これで切れよ」

 別の剣を渡された。

「切って、交換してまた切って、再度交換してまた切って、もう一度交換して切れよ。互いに刃の状態をよく確認してからな。じゃあ、やってみろ」


 剣か……。

 まぁ、使えないことはない。

「はぁっ!」

 隣では大振りに振りかぶり、下ろして、ガキーン! とか音がしている。

「~~~~‼」

 手に反動がきて痛かったらしい。

 と、観察してる間に切ったけど。

「いつもの木刀の方がかっこいい。[居合い抜き]って技を知ってるか? 私は、それをかなりかっこよく出来るぞ?」

「はい、交換~」

 ソード教官が相手にしてくれないっ!


「え?」

 王子、私が既に切ってたのに喫驚したらしい。

「使い慣れてないので普通にしか斬れない」

 と言いながら渡した。

「ば、場所も交換だ! この箇所は硬かったんだ!」

 王子が慌てたように言った。

「私はどこでもいいぞ。なんなら指定するか?」

「わ、私の斬った辺りだ!」

「そうか」

 スッと斬った。

 ハムみたいに斬れるな。

「皮をむいてなめしたら、何かに使えるかな?」

「じゃあ、皮むきでもしてたら?」

 ソード教官が冷たいっ!


 ぶーっと膨れつつ皮むきした。

 皮というか、石を薄く削るような感じだよね。――サイクロプスって、有機物じゃないぽいなぁ。腐らないらしいし。なめすの無理ぽいかな。

 隣では、またガキーン! って音がしてた。

「はい、交換」

 交換したら、怒られた。

「刃こぼれしてるじゃないか!」

「大したことじゃないだろう、大げさに騒ぐな」

 どうってことないじゃん。そもそも切ろうと思えば木刀でも切れるし。

「大したことある! お前の使い方が……」

「はいストップ。その前に交換したのを覚えているか? 最初と、最初の交換のときに刃こぼれはあったか?」

 王子がソードを見て、渋々「…………いいえ」と答えた。

「で、今回交換したものには刃こぼれがあった。……インドラ、お前が交換して受け取った方の剣も見せてやれ」

 渡した。

「刃こぼれ、どうだ?」

「…………」

 刃こぼれしてたらしい。

「俺が、お前とコイツを戦わせたくない理由が分かったか。何度やろうと、剣を交換しようと、お前がこれを斬れそうな業物を持ってきて、コイツに食事用のナイフを渡そうとも、結果は同じだよ。勝負にならん。死にたくなければ止めとけ。この学園最強は、そこにいるインドラだ」

 ソードが王子に宣言して、私に向き直る。

「…………ってことだ、インドラ。これで大人しくしててくれるか? 無関係の王子様を巻き込んで、あおりまくって喧嘩けんかを売らせて殺そうとか考えるの、止めてくれるか?」


 なんかひどい言われようだけど?


「…………むぅ。でも、王子だって納得しないだろう? いいぞ、それくらいのハンデで模擬試合しても。私は食事用のナイフ、お前は業物の剣、それで戦っても構わないぞ? ……ぎゃー!」

 アイアンクローだ‼

「俺が奇麗にまとめたのに、何言い出してんだ?」

「お、王子が納得してない!」

「……いや、ソード教官に従う。――ただし、剣ではな‼ 次は、魔術で勝負だ!」

「うわ、もっと勝ち目が無いところにもってったか」

 ってソードがつぶやいた。

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