第142話 異種族同士は禁止です

「他の連中はそんな宿屋で平気なのか?」

 ソードに聞いてみた。

「平気じゃなかろうともそこしかねーし、それにな。基準をお前にするな。他の連中は、そこまでこだわらねーんだよ。こだわる奴は旅なんてしねーだろうしな。冒険者のくせに泣き出すくらい嫌がるのはお前くらいだ!」

 そうなのか。言われてみればその通りかも。

「大丈夫だ。私にはシャールがついている。ついでにスラリンもついている」

 胸を叩いたら、ソードにジロリと睨まれた。


 ギルドに行った。

 今まで見たギルドで、一番こぢんまりとしてる。

 ……と、入ったら、入れ違いのように出て行く人を見て、驚いた。人ではないな、ってレベルで繊細な奇麗な子だったから。

 しかも泣き顔。そして耳が尖ってる。これはもしや……。

 と、目が合ったが、そのまま出て行ってしまった。

 ソードを見たら、ソードも驚いていた。

「……今の、エルフか? なんでエルフがここに……」

 あ、やっぱりドワーフとエルフって仲が悪いんだ?


 ギルドでギルドマスター(やっぱりドワーフ!)と話をしたけど

「Sランク冒険者にわざわざお越しいただくような依頼はねーな」

ってことだった。

「そうか、残念だな。ロックドラゴンとか出たら面白そうだったんだが。

 まぁ、強くはないだろうがサイクロプスとかも一度見てみたかった」

って言ったら顔を引き攣らせた。

 ソードが声を立てず笑う。そして立ち上がった。

「ま、ロックドラゴンが出ようともサイクロプスが出ようとも、問題ないだろう。冒険者なんてお呼びじゃない猛者と武器防具が勢揃いの町だろうからな。

 そういうわけで、俺が呼ばれることもないだろう。念のために顔を出しただけだ。用はないって言うくせに、スルーすると怒るのがギルドだからな」

 ふーん?

「じゃあ行くか。大した魔物も出ないんじゃ、ますますいる価値もないからな。……そうか、大した魔物は出ないのか。つまらない町だな」

 とうとうソードが声を出して笑った。


 ギルドを出た後、拠点の連中の土産に包丁とか料理道具を買っていってやりたかったが、そういう雰囲気の町ではないらしい。

 アクセサリーもなぁ……コレ、私が作ってプレゼントした方が喜ばれないか? 私、別世界で彫金もやったことあるし、デザインも好きに出来るし。

「私の別世界の知識だと、ゴブリンは秀逸なデザインの宝飾具を作るというのがあったが」

「お前のトコのゴブリン、銀行を経営してたり宝飾具作ったり、スゲーのな! こっちのゴブリン、二足歩行の小さい魔物だぜ?」

 ソッチの方か。

「繁殖のため女をさらったりするか?」

「お前んトコのゴブリン、怖ェよ!」

 ソードに叫ばれた。


 ソードから説明されたが、異種族同士は交われないらしい。交わったら死ぬとか。

 むしろソッチが怖い。

「じゃあ、好き合ってても、エルフやドワーフとは交われない、と」

 ハーフは生まれない世界だな。

「そもそも連中は妖精が受肉した存在だからな。それこそ人型のデーモンと交われるか、ってくらいに概念が違う筈だけど」


 うむむ……。男は人型ならなんでも交わりたがるものだと思ってたけど、そして一部特殊趣味を持つ男は人型でなくても交わりたがるものだと思ってたけど、そうでもないのか。

 アマト氏、大丈夫だろうか。奴は別世界から来た召喚者。こっちの法則を(交尾したら死ぬって)知らないはず。

 つーか、アマト氏は人間に分類されるんだろうか。別世界人とかいう分類があったら、今後一切交尾なしだぞ。大丈夫か。

「ううむ……別世界の理論とは悉く違うな。別世界は、神は人型ではない獣とすら交わって様々な眷属を産み出していたが」

「うーわ。すげーな別世界!」

 ソードがドン引きしてる。

 まぁ、確かに凄いよね。大昔の人の創作話だろうけど、なんでそんなこと考えるのか。

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