第119話 酒の代わりに<ソード視点>

 シャドがようやくグラスに注ぎ、乾杯。

「……うん、やっぱうまいな。あんまり冷えてない方が香りが立つか?」

「冷えてますよね?」

 シャドがツッコんできた。

「もうちょい冷やすと、飲みやすくはなるんだけど香りがたたないんだよなぁ。ちなみに、酒って、暗くて冷えてるところに置いておかないと酸っぱくなるらしいよ?」

「えっ」

 そんな会話をシャドと繰り返している間、アレクハイドはワインを飲み干してた。

 ついでに、毒味もまだなツマミも食ってるけど。

「……ちょっと! 目を離した隙に!」

 シャドがようやく気がついた。

「もういいだろ、私も疲れたし、この酒、悔しいが、うまい。……くそう、やっぱり冒険者は羨ましい。私は王になったのに、こんなにうまい酒すら飲めないんだぞ?」

「わかりました、ソードに献上させますから」

「ちょっとやめてよ。俺から酒を奪わないでよ」

「あと、このツマミ、うまい。これはどこで手に入れた?」

「うん? 作ってもらったの、インドラに」

 シャドが、ピキ、と固まった。

「いけません、王! 毒が入ってます!」

「入ってないから。ちなみに、酒を造ってるのもインドラだから。俺は、金を出しただけー」

 シャドがまた、ピキ、と固まった。

「ほー! インドラ・スプリンコートは貴族の出なのに随分と多才な少女のようだな」

「だから【オールラウンダーズ】ってつけた。今日着てる服も作ってもらったものだし。……もう、ホント……そんなやつに、喧嘩売ったシャドをどうしてくれようかと……」

 アイツが本気でドSモードになったらヤバいなんてもんじゃない。

 すごい拷問されるよ?

 廃人になるよ?

「はい、申し訳ございませんでした! 喧嘩を売ったつもりはございませんけどね!」

「とにかく、敵対しないでくれ。アイツは、幼少の頃から虐待まがいに育てられてきて、かなり病んでるんだ。おびえる魔物には優しく出来るくせに、刃向かう人間には喜色を浮かべて拷問するやつだ。お前だって、特級回復薬を飲めば元通りになるから、って、皮膚をはぎ取られるのは嫌だろ?」

 シャドだけじゃなくアレクハイドも顔色を失った。

「病んでるんだ。責任は親にある。片親死んでるらしいけど」

「そうだ。……あそこの婚姻は、最悪だったらしいな。そもそも、現スプリンコート伯爵と言えば稀代の女好き女たらしで有名だったそうだ。公爵家令嬢との婚姻も、相当もめたらしい。だがスプリンコート伯爵は、私の即位に中立派だったし、今も忠誠を誓っているから、口出し出来ないのだ」

 俺は肩をすくめた。

「今更いいだろ。たぶん、スプリンコート伯爵のところにいるよか、俺と一緒の方が良い暮らし出来てるみたいだし」

 あ、特級回復薬で思い出した。

「酒の代わりにコレを献上するから、酒は勘弁して」

 インドラの作った回復薬を渡した。

「これは?」

「インドラ謹製特級回復薬。骨、もしくは骨に見立てた何かがあれば、どんなケガでも再生するってよ。ただ、筋肉までイッてると、うまく動かないらしい。リハビリが必要になる、けど、再生するならいいだろ?」

 二人が絶句した。

「…………インドラ・スプリンコートは、特級回復薬の作成も出来る? と?」

 シャドが詰まりながら言った。

「つーか、なんでも出来るな。アイツが出来ないことってなんだろ? ……あ、俺がやってる、『見えなくて聞こえなくてもなんとなく敵が分かる』とかは無理っつってたな。でも、アイツ、肉眼視以外も見えるから、結局同じなんだけど」

 そういえば、手加減と許すことと言いなりになることは出来ないって……うん、そのことは忘れよう。

 シャドが息を吐いた。

「…………左様でございますか。では、貴方と彼女が組んだらほぼ不可能なことはない、と。確かに、敵対は良い選択肢ではありませんね」

 シャドがようやく自身を納得させるようにつぶやいた。

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