第61話 【迅雷白牙】とパートナー<サジー視点>
〈サジー〉
寝てるところをいきなり蹴られた。
「でっ!」
兄ちゃんだと思って文句を言おうと思ったら……。
「おい、朝日が出るまでに出発、っつったのに、いつまで寝てるつもりだよ」
【迅雷白牙】が見下ろしてた。
えー……と、ここは……。
そうだ、昨日、悔しくて泣いて、でも【迅雷白牙】もアイツも冷たくて、一人で下山するのも嫌だと思って、そしたら、きっと町は大騒ぎになってるって言われて……。
【迅雷白牙】が、ハァ、とため息をついた。
「俺としては、お前が甘ったれの泣き虫で、俺に寄生してきても、よくある話だ、で済ますんだけどよ。お前、インドラを見下してるだろ? しかも変にライバル視してるようだしよ。俺の大事なパートナーが、お前なんかと同列以下に扱われんの、俺が嫌なんだよ。……来いよ、アイツとお前の差を見せてやる」
促されて、連れてかれた。
「ちなみに、アイツが起きたのはもう何時間も前だ。俺が『朝日が昇るまで』っつったから、その前に起きて、朝飯の準備まで済ませてある。お前、ここに来てから今まで何をした? インドラとお前は同じくらいの歳だぜ? なのに、インドラは昨日も今日もいろいろ野営の準備したけど、お前、手伝いの一つすらしてないよな? まず、その差を思い知れよ。……大体、冒険者が飯食ったらグースカ寝るなんて、普通はあり得ねぇんだよ! 魔物に襲われる可能性を考え、交代で寝ずの番をするのが当たり前、しかも、そういうのはランクの低い若者が率先してやるものなんだよ! なのに、高いびきで誰よりも遅くまで寝てるってんだからな」
道中、ずっと説教を食らってる。
【迅雷白牙】は、ものすごく怒ってて怖かった。
……しばらく行くと、音が聞こえてきた。
何の音だろう?と思ってたら、アイツが、凄まじい速度で木剣を振るっていた。
「……アイツは五歳の時からああやって、朝飯前に鍛錬をしてる。俺と一緒に組んでからもずっとだ。お前、昨日、一度でも素振りしたか? 筋力トレーニングでもいい、何かやったか? アイツは、素質はあったんだろうが、俺と並ぶ強さはほぼ努力の成果だ。そんじょそこらのやつと一緒にされたくない。俺が認めた〝パートナー〟だからな」
【迅雷白牙】が力強く言った。
その顔を恐る恐る見たら、怒った顔はしてなくて、アイツを見ていた。
俺もアイツを見た。
……なんか、めちゃくちゃかっこよかった。
踊るように剣を振り回してる。
しばらく見てたら、終わったみたいで、こっちに来た。
「もう止めんのか?」
「起きたなら朝食にしよう」
そう言い捨てると歩き出した。
あれだけ動いてたのに汗一つかいてない。
呼吸も乱れてない。
……コイツ、本当に強いんだ。
俺もようやくわかった。
【迅雷白牙】がけげんな顔して、前を歩くアイツの側に行った。
「なんだよ? 見せたらダメだったか?」
「気が散るし、私の鍛錬は独特だ。見せるならお前の鍛錬の方が参考になるだろう?」
「いや、そんなつもりじゃなかったんでな」
【迅雷白牙】が頭をかくと、
「悪かった、邪魔したな」
って謝った。
びっくりした。
俺と同い年のやつに、謝るなんて。
「気にするな。お前にはお前の考えがあったんだろう。ただ……」
ここで、アイツがニヤリと笑った。
「これって、見世物になると思わないか? 覚えられて真似されたら、飯の種が一つ減る」
「わー、お前って結構守銭奴だなー」
笑い合ってた。
……それを後ろから見てて、本当にこの二人って、パーティ組んでるんだ、ってようやくわかった。
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