(7)戦闘後その三

「一つ聞いていいか?」

「私が答えられることならな」

 忍と近藤の会話に興味を持ったのか、今度は浜田浩二というこれまた現魔法使いの元クラスメイトが話しかけてきた。

 先ほどの会話から魔法使いが興味を持つのは当然だと思うので、忍も特に拒否することなく素直に頷いた。

「核の攻撃を防げるということらしいが、それは本当か?」

「本当らしいな。さすがに実際防いだところを見たことは無いから断言はできないぞ」

「それは……確かにそうか」

 そんなに簡単に核攻撃をするような場面に出会うはずもなく、むしろ見たことがないということに安心するべきだろう。

 

 とはいえ早々簡単に核攻撃が防げるということが信じられないのか、浜田は納得のいかない表情になっている。

 そんな浜田の疑問に答えるべく、忍は以前師匠伸広が話していた内容を思い出しながら皆に聞こえるように説明を始めた。

「魔法行使による核とかそれ以上の攻撃を防ぐ方法は大きく分けて四つあるそうだ」

「四つも!?」

「ああ。そうだ。それから、そこまで細かい理論は話せないから勘弁してほしい。というよりも、もしかしたら魔法の勉強した者にとっては当たり前のことかもしれないな」

 そう前置きをした忍は、伸広から聞いた内容を続けて話した。

 

 核魔法――に限らず魔法攻撃を防ぐ方法は、大きく四つになる。

 一つ目は、魔法が行使される前に魔力を練っている段階でその動きを止めてしまうこと。

 これを物理的な核爆弾で例えると、爆発のためのタイマーをセットする前にその行動自体を止めることだ。

 二つ目は、魔法が行使される前に練られた魔力を戻の状態に戻してしまうこと。

 これは爆弾に仕掛けられた仕組みを壊すことに辺り、ドラマや映画なんかでよくあるタイマー起動中に配線を聞いてタイマーの動きを止めてしまうことに当たる。

 三つめは、魔法が発動している最中にその動きそのものを止めてしまうこと。

 これは爆発反応が起こっている最中に、その反応そのものを止めることになる。

 四つ目は、魔法が発動してからどうにかしてしまうしまうこと。

 これは実際に爆発が起こってから例えば爆発の威力に耐えられる力場で覆ってしまうなどの力技でどうにかするということになる。

 

「――とまあ言葉で説明するとややこしく聞こえるんだが、実はそこまで難しいことではなく皆がやっていることだったりもする」

「……そうなのか?」

「核という言葉にとらわれると難しく聞こえるかもしれないが、普通の魔法攻撃をされた時のことを考えればいいさ。例えば三つ目とか四つ目なんかは対抗魔法で打ち消したり、結界を張ったりなんかは絶対にしているだろう? 一つ目や二つ目は、私みたいな前衛が魔法使いに良く仕掛ける方法じゃないかな?」

 忍の説明を静まり返って聞いていた一同は、なるほどという空気を出していた。

 たしかに核ということばに踊らされなければ、魔法使いを相手にするときにはごく当たり前に取っている対処法になる。

 

「一応付け加えておくが、浜田が聞きたい『核攻撃』を防ぐ方法は三つめか四つ目のことになるんだろうが、そもそも高ランクの魔法使いはそこまでいかないそうだぞ」

「…………どういうことだ?」

「何。単純な話で、高ランクの魔法使いになればなるほど、大抵は一つ目か二つ目の状態で勝負の決着がつくらしい。見た目的には派手な魔法反応が起こっているわけではないから、見世物的な闘技会向けではないそうだ」

「……つまりは、それができないと高ランクの魔法使いとはいえないと?」

「そうらしいな。もっとも今の時代にそれだけのことができる人族の魔法使いは数えるほどだそうだが」

「その言い方だと、昔はもっといたように聞こえるんだが?」

「実際にはそうだったらしいぞ? もう二~三百年ほど前のことになるらしいが。今の魔法技術は確実に落ちているらしい……失われている技術も多いんだろうな。その代表が魔力操作の技術だそうだ」

「……ここでも魔力操作が来るのか」

「さっきも言ったが、魔力操作は剣道でいうところの素振りみたいなものらしいからな。基礎でありながら最後の最後まで使える重要な技術の一つなんだそうだ」


 忍がそう締めくくると、話をする前は疑わしいものが混じっていた空気は完全になくなり感嘆がわずかに混じった何とも言えないものに変わっていた。

 忍は最初から魔力操作が大事だと言っていたが、こんなところにまで影響が及ぶとは考えていなかったのだ。

 それは逆にいえば、それだけ今のこの世界の魔法理論が魔力操作をおざなりにしているということの証明にもなる。

 効率を求めてより威力の高い魔法を納めることに注力してきた結果ともいえるのだが、事実を知ってしまえば何とも残念なことになっていると言わざるを得ない。

 とはいえ国家という観点から見れば、より早く戦力になる魔法使いを育てるという方針も完全な間違いとは言えない。

 忍たちは知らないが、だからこそ以前伸広がリンドワーグ王国の高官と話をしたときに、敢えて魔力操作の訓練をすることを勧めたりはしなかったのだ。

 

「言われる前に言っておくが、別に魔力操作を鍛えることはいつからやっても大丈夫だそうだぞ? つまり今から始めても遅くはないということになる」

「……そうやって逃げ道を防ぐわけか」

「いや。別にそんなつもりはないがな。これまたさっきも言ったが。魔力操作の訓練をするかしないかは個人の自由だ。あくまでも知識の一つとして教えただけだからな。しかも師匠からの受け売りだし」

「その師匠とやらに会ってみたいもんだ」

「おや? 知らなかったのか? 私の師匠は、あの時に皆が会ったあの魔法使いだぞ?」

「あの時……? あっ、使えないはずの転移魔法を使っていたやつか!」

「一応私にとっては師匠なんだから『やつ』とか言うな。忠告しておくが、灯や詩織の前ではそんな言い方をするなよ。下手をしたら嫌われるどころじゃ済まないからな?」

「す、すまん」

 不快そうな表情になる忍を見て、浜田は素直に謝った。

 

「――そういうわけだから、私たちは師匠を変えるつもりは今のところ全くない。言っても無駄かもしれないが、勧誘されても意味はないからな?」

 忍が敢えてこの場でそんなことを言ったのは、先ほどまでの話の流れでちょうどいいのではないかと判断したからだ。

 それでも勧誘してくる者はいるだろうが、その時はその時だ。

「そんなつもりはなかったんだが……もしかしてされたのか?」

「いいや。今のところはないな」

 大会が始まる前に志保が来たことは綺麗になかったことにして、忍は首を左右に振った。

 今のところ口出しをしてくる者はいないが、この中には国を背負って出場している者も多数いるのだ。

 そうした者たちの口からこの場での会話が『上』に伝わればいいと考えて、忍は敢えてこの場で今のような話をしたのだ。

 

 あっさり否定されたことで内心で首を傾げることになった浜田だったが、忍ほどの実力があれば色々とあるのだろうと納得してそれ以上は聞いてこなかった。

 浜田自身も勧誘されたりする立場に入るので、何となくは忍の言いたいことも理解できている。

 今のところ個人で行動している忍が勧誘されたりはしていないが、大会自体はまだまだ続くのでどうなるのかは分からない。

 パーティ単位で狙っているのだとすれば、大会後半に何かをしてくる可能性も大いにある。

 そうした動きをけん制する意味でも、今回のような会話は大事だろうと考えている忍なのであった。

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