第3話 謁見 カルネ村①
「それでは皆様、わたくしはアインズ・ウール・ゴウン魔導国へ行き、見聞を広めて参ります。7日ほど留守に致しますが、その間同志達をよろしくお願いします。」
ネイアの見送りに来たのは、選抜された近衛やお付きの黒髪女性、ベルトラン・モロと言った黎明期のメンバー数十名。皆羨望の眼差しを宿しており、ネイアは誇らしさと軽い優越感を抱いてしまうが……
(ダメダメダメ、あくまでも聖王国の一員の身。言わばわたしの態度が聖王国民の態度として魔導国に見られるんだから。)
そう心に喝を入れ、反面教師として1人の聖騎士を思い出す。
(思えば、尊敬の欠片も抱けない人だけれど、わたしをアインズ様の付き人に任命してくれたことだけは感謝ね。)
レメディオス元団長が居なければ、自分はアインズ様が正義だという真理にも気がつけず、聖王国の誤った常識に染まったままだっただろう。そう考えれば、相手がどうしようもないクズであっても、この一点だけは感謝すべきだ。
「それでシズ先輩、これは?」
それは時空を歪曲させた楕円形の門であり、見送りに来ている第三位階までの魔法を行使できる術師が目を仰天させている。
「…………<
「えっと、階級でいうとどれ位なんですか?」
「…………う~ん。<
その言葉を聞いた術師は何も飲んでいないのに、何かを吹き出しそうになっていた。あれからネイアも魔法の勉強を軽くしたが、第四位階が人類の限界であり、超越者とされる帝国の大賢者フール-ダ・パラダインですら第6位階魔法が限界とのこと。
(さ、流石アインズ様としか言いようが無い。)
おそらくこの程度で驚いていれば、この7日で心神喪失に陥ってしまうだろう。ネイアは両頬を手で叩き、何とか浮かれる心を着地させる。
「…………じゃあ、この奥でアインズ様がお待ち。」
「へ?」
着地した心がそのまま地面を滑って崖に落ちた錯覚が襲う。そうだ、よく考えれば他国に行くのだから王の許可を得るのは当然……。いやいや、それなら通関も城壁もいらないというものだ。ネイアにしてみれば「これから神様に逢うからよろしくね!」と言われたも同然の言葉だが、シズはネイアの手を引っ張り、そのまま2人は<
シズに手を引かれ<
ネイアはその神々しさに数秒、我を忘れて棒立ちしてしまい……そして慌てふためき最敬礼を行う。
「ま、誠に申し訳ありません!アインズ様!余りの神聖さに我を忘れて御挨拶が遅れました!こ、この度は魔導国へご招待頂き、幸甚の至りに御座います。ご不快を招きましたらどうぞ、この首をお刎ね下さい!」
自分でも言っていることがしっちゃかめっちゃかだが、目の前に信仰すべき正義の化身がおり、自分の為に待ってくれていたという状況が感激・幸福・興奮・光栄・そして無礼を働いてしまった後悔が入り交じった激情となり、ネイアの全身を真っ赤に染める。
「よせよせネイア・バラハよ。貴殿は使者でもなんでもなく、あくまでシズの友人として招いたのだ。そこまで堅苦しい挨拶もいらん。」
「寛大なご慈悲にかんひゃ…感謝いたします。」
「アインズ様、シズからは魔導国を案内して回りたいとの要望でしたが、如何なされますか?」
「そうだな……。ネイアよ、我が国は未だ発展の途上であり、恥ずかしい事に、貴殿が思い描くような理想郷と乖離する部分も多くあるだろう。帰国の際には、貴殿の忌憚なき意見を聞かせて頂ければ幸いに思う。」
「いえ、わたくし如きがそんな……。」
「ははは。謙遜や遠慮も過ぎれば無礼というものだ。〝忌憚ない意見を聞かせる〟……それを条件として、貴殿を正式に客人待遇として招きたい。どうかね?」
そこまで言われれば嫌とはいえない。ネイアは静かに「畏まりました。」と告げた。
「ではアルベドよ。今この時を以ってネイア・バラハは正式にアインズ・ウール・ゴウン魔導国の客人となった。各階層守護者各員及びナザリック全員、配下の国々へ通達せよ。」
「畏まりましたアインズ様。」
アルベドは淑やかに一礼をして、耳元に手を当てた。ネイアには何をしているのか解らないが、おそらくは伝達の魔法か何かだろう。
「シズよ、まずは何処へ行きたい?」
「…………カルネ村に……行きたいです。」
「ふむ、解った。<
アインズがフィンガースナップを鳴らすと、空間が変異し、新たな楕円形の異空間が形成された。
「では、楽しんでくれたまえ。」
「はい!御前、失礼致します。」
シズに手を引かれ、ネイアはそのまま<
「ふふ、相変わらずの娘だ。」
「……アインズ様。」
「なんだ、アルベド?」
「アインズ様は、目付きの悪い女性の方がお好みなのでしょうか?」
アルベドの顔を見たアインズは、かつて無いほど連続で沈静化された。
●
「これが……〝村〟?」
強固であることを思わせる巨木を使った城壁に囲まれた大きな集落であり、城壁の外からも明らかに木製ではない建物や、紫の煙を出す煙突など、ネイアの想像するような……、住民よりも家畜の方が多い一般的な〝村〟と乖離した状況に当惑する。
「シズ先輩!?ここ……どんな村なんですか?というか本当に村なんですか?」
「…………ルプーから聞いた。住民の半数以上がゴブリン。ドワーフも最近住んできた。」
……魔導国には亜人の村があるというのは聞いているが、ゴブリンとドワーフの村を最初に選んだということなのだろうか。
「…………ちなみに族長……将軍は人間。」
「へ!?」
「お待ちしておりました。俺……わたくしは、姉さ……エンリ将軍が壱の子分、ジュゲムと申します。シズ様、ネイア様、お話は聞いておりますので、エンリ将軍の元までご案内させて頂きます。」
<
(ゴブリンと人間、それにオーガとドワーフ?皆の目に恐怖はない。恐怖に支配された人間に……ましてゴブリンにこんな表情なんて出来ない。間違い無い、この村は多種族が共存しているんだ!!)
聖王国であれば間違い無く見ることの出来ない光景。それは人間・ゴブリン・ドワーフ・オーガが手を取り笑うそんな光景だった。道すがら、村の真ん中には大きく立派なアインズ像が建っており、丁寧に磨かれている様子からも村でのアインズ様の人徳が見て取れる。
(他種族同士がこんなに笑い合えるなんて……。やっぱりアインズ様は偉大な方なんだ!……それにしてもエンリ将軍ってどんな人だろう。こんな諍いが一番に起きそうな村の将軍をアインズ様に任されるっていうからには、恐ろしい人なのかなぁ。)
ぶるりとネイアの身に悪寒が走る。アインズ様の配下なのだから、慈悲深い方に違いないとは確信しているが、これほどの村と強者の
●
「ねぇンフィー……。」
「どうしたの?エンリ?」
村一番の豪華な応接室。素朴な三つ編みの村娘といった少女が不機嫌そうな顔で、夫に話しかけていた。周りは凶相のレッドキャップスによって護られており、近衛たる彼らは刺客に目を光らせている。
「やっぱり村長のわたしが一番に迎えにいかないのはおかしいと思うの!」
机をバン!と叩き、ンフィーレアは思わずたじろぎ、苦笑する。
「いや~、ほら、ベータさんも〝偉い人は奥に座って待ってるもんっす〟って言ってたし……。」
「絶対面白がってるだけな気がする。もう、わたしのイメージ図が変な方向に向いてないと良いけれど……。」
既に手遅れな愚痴をこぼし、カルネ村の将軍……エンリ・エモットはため息をついた。
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