第33話 獣狩り
翌日の朝。レインはサレンと共に村長宅へとやって来ていた。昨日の約束通りイミテルの狩りを手伝いをするためだ。
本当ならばレイン一人で来るつもりだったのだが、朝食時に話した時について行きたいと言い出したのだ。最初は難色を示したレインだったが、ロゼに説得されてサレンも一緒に連れていくことになったのだ。
ロゼが許可を出してしまった以上、レインに断る理由もない。何かあった時にサレンがいた方が対処できる幅も増える。そう考えればついてきてもらうのはある意味正解なのかもしれない。
ちなみにロゼはいつユースティアが戻って来ても大丈夫なように宿に控えている。
「ふふ~ん♪ 獣狩りなのです~♪」
「ずいぶん楽しそうですねサレン様」
「そう見えるです?」
「えぇ。だってずっと上機嫌に歌ってますし」
「えへへ~。お兄ちゃんの言う通りなのです。獣狩りすっごく楽しみなのです」
「そんなにですか?」
「はいです。どんな獣を狩るとしても、聖女の力を見せつけてやるのです」
「いやそこで聖女の力を使わないでください」
シュッシュッとやる気を見せるサレンに苦笑しながら、レインは村長宅のドアをノックする。てっきりマヅマが出てくるものだと思っていたのだが、そんなレインの予想に反して出てきたのはイミテルだった。
「あ、やっぱりレインさんでしたね。おはようございます。それにえっと……サレン様、でしたよね」
「はいです! 覚えててくれたですね! 今日はお兄ちゃんと一緒にイミテルさんのお手伝いをするですよ!」
「そうなんですか? ありがとうございます」
「どういたしましてなのです! それじゃあさっそく行くですか?」
「そうですね。もう準備はできてるので行きましょう」
レインが来る前にひと通りの準備は済ませていたのか、イミテルは荷物を持って出てくる。荷物と言っても最低限のものだけだ。水分補給のための水筒と、軽食だけ。
「武器とかは持って行かないのか?」
「狩人の方に弓矢を借ります。私自身では持ってません」
「弓矢ですか~。上手なのです?」
「いえ、とても上手とは言えません。遠くにいる相手に当てれるというわけでもありませんし。ないよりはマシ、その程度のものです」
「はえ~、そうなんですね。でもでも、使えるだけすごいのです。サレンは頑丈でない武器はすごく苦手で。すぐ壊しちゃうのです」
「は、はぁ……そうですか」
「すぐ壊すってどんな使い方してるんですか」
「サレンは普通に使ってるだけです。でもでも、武器の方が全然耐えてくれないのです。一回使っただけですぐ壊れちゃって……サレンは悪くないのです!」
軽いことのようにサレンは言うが、粗悪品であったとしてもそう簡単に壊れるということはない。まして聖女に渡される武器はどれも一級品だ。一つ一つが一生物の名武器と言っても過言ではない。普通であれば壊れることなどあり得ない。
その後も武器が壊れるのは自分のせいではないと必死に主張し続けるサレンの言い分を聞いてるうちに、イミテル達は約束の場所である村の外れにまでたどりついた。
そこに居たのはところどころに白髪の入り混じった初老の男性だった。
「おう、嬢ちゃん。やっと来たかい……って、ん? そっちの坊主と娘っ子は?」
「サレンです!」
「お、おう。そうかい」
「すみません。俺はイミテルさんのお手伝いで来ました。レイン・リオルデルです。こちらは贖罪教の聖女であるサレン様です」
「ほぉ! このちびっ子が聖女様かい。いや、名前だけは知ってたんだがなぁ。まさかこんなちびっ子だとは思いもしなかった」
「む、ちびっ子じゃないのです!」
「おっと、そりゃ済まなかったな聖女様。俺はダムステンってんだ。よろしくな」
そう言ってガハハッと笑うダムステン。そんなダムステンにレインは驚きを隠せなかった。聖女という名を聞いてなお引くことなく変わらない態度で接することができるその豪胆さに。普通であれば驚き、かしこまるものなのだ。
「そんで? その聖女様と坊主がなんでまた嬢ちゃんと一緒にいるんだい?」
「それはですね——」
「気にしないでください。今日は単純にイミテルさんの手伝いで来ただけですから。労働力だとだけ思ってください」
イミテルのことを調査しに来た、と言いかけたサレンを遮ってレインは言う。ダムステンのイミテルに対する態度を見るに、他の村の人のようにイミテルのことを避けているというわけではないのはわかる。むしろイミテルのことを気に入っている可能性すらある。そんなダムステンにイミテルの調査をしに来たなどと言えば余計な波風が立つだけかもしれないとレインは判断したのだ。
「そうかい? ならいいんだがよぉ。人手はあるに越したことはねぇからよぉ」
「ふふん、サレンがいたなら百人力なのです」
「はは、だといいがな」
「それで、今日は何を狩りに行くのです?」
「そういえば、それはまだ聞いてませんでしたね。今日は何を狩りに行くんですか?」
「今日はなぁ、大猪と熊だ」
「大猪と熊です?」
「あぁ、冬が近づいて来てるからか村にまで降りてくる奴がいてなぁ。いよいよ被害が大きくなってきたから俺に依頼が来たってわけよ。たださすがに大猪と熊なんてのはぁ、一人じゃキツイ。だから嬢ちゃんに助っ人を頼んだのさ。嬢ちゃんの腕は前回手伝ってもらった時に知ってるからな。それで、坊主と嬢ちゃんはある程度はできるのかい?」
「もちろんです!」
「自分もまぁ、全くできないということはないかと」
「そりゃ心強ぇ。獣狩りなんてのは何があるかわからねぇからな。心置きなく頼りにさせてもらうぜ」
「大猪でも熊でもなんでも来いなのです!」
そしてそのまま上機嫌なサレンが先導してレイン達は山の中へと入って行くのだった。
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そんなレイン達のことをジッと見つめ続ける存在がいた。イミテルの監視を命じられている魔人の兄弟である。
「む、兄よ。イミテルがこの山に入って来ようとしているぞ。しかも聖女まで一緒だ」
「なんだと弟よ。我らの存在に気付かれたのか!?」
「いや違う。どうやら別の目的があって来ているようだ」
「別の目的? なんだそれは」
「どうやら獣を狩りに来たらしい」
「獣だと?」
「我らがここにいるために追い出した獣共がどうやら村にまで降りていたらしい。それを狩りにきたようだ」
「なんという不運。やはり追い出すのではなく殺しておくべきだったか」
「そうだな。兄よ。しかし過ぎてしまったことをいつまでも悔いても仕方がない。魔獣を放とう」
「? それは良いのか弟よ。我らの存在を知られることになるのでは?」
「だからこそ闇討ちだ。獣を狩るのに集中している時であればうまく不意をつけるかもしれない。そうすれば聖女を討ち取ることすら……」
「なるほど! さすが弟。頭が良いな!」
「極力手を出さぬようにとは言われたが、あちらから来るならば話は別。ここで功を上げてみせよう兄よ!」
「そうだな。弟。さっそく魔獣を放つぞ!」
そう言って魔人の兄弟はレイン達へ向けて魔獣を放つ。それが自身の功績へ繋がると信じて。
しかしこの二人は気付いていなかった、理解していなかった。聖女の力量というのもを。そして、その功を焦る性格が自分達のいつも失敗を招く原因になっているということに。
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