現実.1

「ねぇ、聞いてる?」

志織(シオリ)の声で俺は我に返った。


焚き火の火が消えかかっていた。俺は木切れを焚き火に放ってから答えた。

「ごめん。小説書いてた。寝れないのか?」

シェラフに潜り込んで寝入ってたはずの志織に答えた。生態反応はいつも通り。三年も見てると志織の健康状態は微細に分かるようになった。


「ね、どこまで書けた?見せて」

志織は小さく笑って言った。

「まだ一ページしか書いてないよ」

それでも俺は携帯を渡す。



「なんで両手がないの?あったじゃない」

読み終わった志織は感想を言った。

「そうだけど、グジャグジャだったじゃん。描写を書くの大変だからいっそ無い事にしちゃった」

俺は笑って言った。


「小説だからいいんだよ」

言い訳めいた言葉の追加に志織は、フーン。と答えた。


「イエロー君、ちゃんと来るかなぁ」

「朝には来てるんじゃないかな?どう?面白い?」

「まだこれだけじゃ分かんないよ」

携帯を俺に渡しながらの志織の感想。あとは黙ったまま。きっと昔を思い出してるに違いない。


俺は志織から携帯に目を向けてまた書き始めた。


携帯の電池はまだ充分ある。電波状況は相変わらず圏外。

二十体のゾンビは俺達から、ある一定の距離を置いて周りをウロウロしている。イエロー君の姿はまだ見えない。


うん。今日も平和だった。きっと明日も平和だろう。


俺は再び携帯を開き小説を書き始めた。

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