第47話 変化
『グランディール、帰る前に一度、父に成竜となった姿を見せてはくれないかい』
「竜体を……ですか?」
『うん、そう。君は孵化と同時に半身を得ただろう? だから竜体にも影響が出ているはず……かなり一気に成長した思うんだ』
「え、でもせっかくアンドレアと同じ人型を取れるようになったのに……」
ようやく、彼女と変わらない年格好の人型に
何故なら竜体は巨大なので、彼女との体格差がちょっと凄いことになってしまう。その点、孵化してようやく手に入れたこの姿でなら、愛を囁いたり、抱き締めたりその他、色々するのにちょうどいいのである。
『……まあ、君が気乗りしないなら無理にとは言わないけれど。だた、彼女の記憶の中で君の竜の姿はあの、孵化前のプクプクとした丸っこい幼体のままだよ。あれはあれで愛らしいけどね』
「……そうですわね。とってもお可愛らしかったですわ」
「可愛らしい……」
実は、彼にとって可愛いは禁句だ。竜の成長は人に比べてゆっくりで、グランディールは年々成長していく彼女に置いていかれるのが嫌だった。勿論、彼の父親はそれを知っていてわざと言ったのだが、しかしそのことを知らない彼女は思わずと言った感じで、追従してしまっていた。
『あははっ、確かに。ぬいぐるみたいで、抱っこしたくなるくらい可愛かったよね』
「ええ!」
「えぇ……」
つまり、それは愛玩するものに対する時のような感想で……恋人としてはないと言われたも同然のような?
幼竜の頃のこととはいえ、自分の本体に向けられた好意の種類に、グランディールは内心、ショックを受けた。ニコニコと嬉しそうしているアンドレアはいつにも増して可愛くて、そんな位置付けは嫌だと口には出せなかったが……。
二人の気持ちが手に取るように分かるラグナディーンとその半身は、こっそりと互いに目配せし合って、もう一押しで息子の成竜となった姿が見られそうだと、ニヤニヤしそうになる気持ちを抑える。半身となる前でもアンドレアには可愛いよりも格好いいと言われたかったのだ……今ならもっとその気持ちは強いはず。そして、しれっと追い討ちをかけた。
「……ふむ。そう言えば、アンドレアは妾の竜体も大好きじゃと言うてくれておったのう」
「ええ。だって、凛々しくて優雅で神々しくていらっしゃるのですもの。いつ拝見してもうっとりとしてしまいます……本当に素敵ですわ、ラグナディーン様」
「……ふ~ん、そんなに母上のがいいんだ」
「え? い、いえ、あの、どちらも趣があってどちらも良いと言いますか……片方に絞れないくらいなんですの。どのお姿も、
「ホホホッ。グランディール、そう聖女を困らせるでない。寸詰まりの幼児体型の姿も好きだと言ってくれておるではないか。……まあ、半身たるそなたの今の姿なら、違う感想もあるやも知れんがのぉ……見てみないと分からないが?」
『そうだよね。だから君の半身に、もう一つの君の姿……本来の竜の姿を見せてあげたら?』
確かにこのままだと、アンドレアの記憶には、自分の竜体は可愛い幼竜の姿で固定されてしまうだろう。恋人には、可愛いよりも格好いいと言われたい彼としては避けたい事態である。ちゃっかりと両親に誘導されてしまっていることに気づいていない彼は、若干、ソワソワしながら己の愛する半身に問うた。
「……見たい? アンドレア」
「ええ。それは、グランディール様さえよろしければ、是非、拝見したいですけれど……よろしいんですの?」
「うん、いいよ……君がそう望むなら。だから絶対、母上のよりいいって言わせて見せる。君の記憶を上書きをしてあげるからね?」
金色の瞳の奥に激情を隠しながら、そう宣言した。
「え……あの、よろしくお願いします?」
「うん!」
なぜ彼が、こうまで自分の母親と張り合うようなことを言うのか、アンドレアにはいまいちよく分かっていなかったが、竜の姿を見れるのは大歓迎だったので、分からないままも頷いたのだった。
さて、この国に、ラグナディーンの御子達がいることは秘密だ。しかし竜体は巨大なので、外で
用心して室内ですることにして、外の湖と繋がっている水の部屋……この神殿内でアンドレアが初めてラグナディーンに会った場所……まで移動してきた。
「じゃあ、アンドレア。よく、見ていて」
「はい、グランディール様」
耳元で囁いてから彼女を離し、部屋の中央まで進んで立ち止まった。アンドレア達は、部屋の端ギリギリまで下がったところから、人型から竜へと変わるのを見守ることに……。
一度、その場ですうっと深呼吸をしてから目を閉じた。魔力が揺らぎ、集中している彼の姿が一際大きくなったように見える。
次の瞬間……。
彼のいる地点からパァッと魔力が弾け飛び、そして……。
現れたのは、大きな水色の竜だった。
「あ、れって……」
「うむ。グランディールの成人した姿じゃ。早熟じゃと思うておったが、これはまた立派になったものじゃ」
『ああ、いいね。あれが半身を得て力を増した竜の、真の姿だ……』
青から薄い紫色に輝く水晶のような鱗に、大きな金の瞳。背には一対の美しい翼があり、アンドレアが見つめていることに気がつくと、一度、大きく広げて見せてくれた。残念ながら室内では羽ばたけないので、その皮膜は既に折り畳まれている。
そして、竜体になってもその額には、アンドレアと揃いの神紋がくっきりと現れていた。確かな絆を感じて嬉しくなる。
幼竜の頃の可愛らしさは跡形もなく消えているが、神々しいまでに優美で完成された姿に暫し見惚れた。なんて美しいんだろう。この若い竜が自分の半身なのだ。
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