10.初恋の少女 -王太子視点-

あっという間に1ヶ月が経ち、茶会当日となった。

金髪で行くと王太子とわかり、騒ぎになるのが嫌なので黒のウィッグを被った。きちんと父上と母上には許可を貰っている。


茶会の会場につくとすでに会場には何人もの令嬢、令息がいたりウィルもルイもいる。声をかけるべく、ふたりに近づいた。


「2人とも早いね。」

「一応軽いものとはいえ、王家主催だからな。遅く来るわけにはいかないだろ。」

「とか言いつつ、意外と楽しみにしてたんですよ。」

「おい、ルイ。お前な…」

「ところでアレクはどこにいるんですか?」

「おい、話聞けよ。」


ふたりともブレない。いつも通りの調子だ。


「アレクか…私も見てないな。」

「ん?アレクなら会場の端の方にでもいるんじゃないか?」

「意外と苦手ですからね。こういう場は。」


気がつくと周りには令嬢達がそわそわとこちらを見ている。気づかれたのだろうか。


はぁ、めんどくさい。


「ウィル。頼んだ。」

「え、ちょっ…」

「それでは兄さん。私達はこれで。」


ウィルをその場に残し、ササッと別の場所へ移った。


「ところでアル、気になる令嬢でもいらっしゃいましたか?」

「まだ来たばかりだからそこまで気にしてないよ。まぁでも、1人ずつ会って見合いよりはいっぺんにすむからこういう形式のもいいね。」

「確かに、そうですね。」


ウィルを方に目をやると何だかんだ、うまくやっているようだ。アレク含め4人の中じゃ1番女性というものの扱いに慣れてるのはウィルかもしれない。


「目立ちますね。その容姿」

「黒髪にしても?」

「まぁ、顔立ちが整ってますからね。」

「それを言うならルイもだと思うけどね。」


茶会にはそれなりの身分の令嬢が集まっていたが、私の心を動かすような令嬢など誰一人として見当たらなかった。

自身の両親に教えられたのか、殆どは自分の利益になるかを詮索しながらの会話をしている。中には本当の友人達との会話を楽しむ者もいたが、そんなのはひと握りだった。



幼くても貴族だな……



「じゃあ私はもういくよ。」

「来たばかりじゃないですか。」

「長居すると、王太子だと気づく人も出てくるだろうからね。」

「はぁ…そうですか。では、私は兄さんの方に行ってきますね。さっきから助けてくれと目線が凄いので。」

「ああ。」


じゃあとルイに一言言い、場内へと踵を返そうとした時に、ふと彼女が目に入った。








_______________息が止まるかと思った。





本当に一瞬の出来事だった。

今まで味わったことの無い衝撃が私の胸に走った。

誰もが見蕩れるであろう愛らしい顔立ちと美しい振る舞い。幼い彼女には似つかわしくないほど、ひとつひとつの所作は美しく完璧だった。

煌びやかなドレスにも劣らない、長く美しい月光のように輝く銀の髪、大きく丸い宝石のような菫色の瞳、透き通るように白い肌が彼女の全てを彩っている。

同年代の子供たちの中で彼女だけが良い意味で浮いていた。きっと成長するごとにどんどん美しくなるのだろう。そんな彼女を想像すると心臓が高鳴って堪らなくなる。


誰かに見蕩れたのは初めてかもしれない。

いや、惹かれたと言ったほうがいいかもしれない。


あぁ、こういうことか。

私は愚かだったと彼女を見てわかった。

だってこんなにも愛しい存在を私はずっと要らないと思ってきたのだから。



彼女に気づいたのか周囲にいる男共も彼女を意識し始めていた。飲食スペースでスイーツを夢中で食べている彼女は男共の視線にはまだ気づいていない。


するとスイーツを食べていた彼女の手の動きが止まり、ふと笑を零した。



かわいい………っ



冗談抜きで天使のようだった。

幸せそうにスイーツを堪能する姿は私の心を虜にするには十分過ぎた。


もう目が離せなかった。ずっと見ていられる。

ただそう思っていたのは私だけではなかった。

そんな彼女の微笑みを見た周囲の男共がそわそわしだした。声をかけにいこうか迷っているらしい。

そんな男共に心底腹が立つ。



___________________彼女は渡さない。



単純な事だった。私以外の男が彼女に触れることが許せなかった。彼女の視界にすら入れたくないとまで思ってしまったのだ。他の男共が彼女に声をかけられないように私は誰よりも先に彼女の元へ歩き出す。


そのタイミングで彼女は周囲の視線に気づいたらしい。先程までの愛らしい微笑みは消え、顔が硬直した。そして、困惑したような表情を浮かべ、彼女は私に気づかず、逃げるようにその場を去ってしまった。



待って……!




早足で彼女を追いかけた。

追いかけた先にいたのはアレクと話をする彼女だった。この距離では何を話しているかは聞こえない。

仲の良いアレクにでさえ嫉妬心が湧いた。

彼女と話すのは私だった。私のはずだった。

アレクに微笑む彼女を見て心臓が痛む。



あぁ、私以外にそんな顔を見せないで。



アレクと彼女の間に割って入ろうとした。

しかしそこである考えが脳裏をよぎったのだ。

彼女を私のものにするにはどうしたら良いのか。


誰にも渡たさない。

そのためにやるべき事がある。確実に私のものにするために。


今だけは…今だけは、我慢だ。

どうか待っていて。



「私の……番……」



すぐさま私は早足で父上の元に向かった。

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