8.王太子の事情 -王太子視点-

_____________もう、うんざりだ。


どいつもこいつも、いい加減にして欲しい。





『アラン・ペトル・ド・フォン・パッフェルト』

これがパッフェルト王国王太子として生まれた私の名前。


8年前に現国王陛下の長男として生を受け、文句なしの容姿を持ち、必然的に王太子となった。


次期国王として相応しくなるために帝王学や剣術、魔術など日々精進し、努力して《神童》と呼ばれるまでになった。


ただその努力の結晶はいつも当たり前のように片付けられる。それは私の容姿が関係していた。


直系の王族にのみ受け継がれる金髪碧眼。


その中でも、髪色が金いわゆるプラチナブロンドに近いほど良いとされている。

私の髪色は鮮やかなプラチナブロンド。

建国以来の鮮やかさで、精霊王と同じ色。

どうやら私は精霊王の先祖返りらしい。


自分が秀でていることはなんとなくわかっていた。

桁外れの魔力量と体力。


どちらも国の平均を大きく上回る。



だが、私だってなんでもすぐにできた訳では無い。


できない魔術や剣術は何度も取り組んだ。

そして結果を残してきた。



そんな《神童》と名のついた王太子の周りに集まってくるのは、媚びを売りたい者、影から操ろうと企む者。先祖返りという理由から精霊からの加護を多く求めたりする者ばかりだった。

嫉妬し、妬む者もいた。


正直虫唾が走る。


王太子ではなく、私という存在を見てくれる者は何人いるのだろうか。


仕方ないことだと思ってはいるが、そういう人間は苦手だ。だから適当に追い払い、近づけさせないようにしてきた。


まぁ、愛想を振りまいていた私も悪いが。


けれどきちんと信頼出来る者は少なからずいるし、幼馴染の友人達もいる。


特に異性からのアプローチは鼻につく。

王太子妃になんて目論み近づいてくる人ばかりだった。自分の見てくればかり気にし、独り善がりの令嬢に靡く訳が無い。


城に務めている、大臣やらの「将来の王太子妃に自分の娘を」なんて声も聞こえてきてうんざりする。


婚約話を持ちかけられても、そんな親を持つ娘と結婚をしたいかと言われたらしたくはない。

我が物のように利用しようとしている奴らの所へ自ら利用されに行こうとするやつなんていないだろう。



大人たちの策略が歳を重ねる事に見えてきて、小さい頃から夢中だったものが好きになれなくなり、何かへの執着というものも次第に薄れていった。


______________________________


ある時、現宰相の息子アレクが私のもとに訪ねに来た。アレクとは小さい頃からの付き合いがあり、私の気持ちを汲んでくれるよき友である。


「アル。」

「なんだい?アレク。」


アルとは私の愛称である。


「んー、別に用はないんだけど、アルがこの部屋にいるのは珍しいね。」

「あぁ、確かに。今日やることを全て終えてしまったからね。それよりもアレクはどうしてここにいるんだ?」


この頃から私は少し父上の仕事に少しだけ干渉させて貰えるようにはなったが、まださせて貰えない部分も多くある。この日は父上は海外からの使者との謁見ということで、私はやることがなかった。


「今日剣術の稽古なんだよ。」

「あぁ、それでか。」


アレクの剣術の教師であるヴァランガ侯爵は魔法騎士団の団長である。その魔法騎士団の練習場は今私がいる場所を通らないと行けない。


「ねぇ、アル。一緒に来る?」

「私が行ったら迷惑がかかるからやめとくよ。」

「えー!いいじゃん!おいでよ。」

「おい、引っ張るな。」


アレクは強引な所がある。そんなアレクに腕を捕まれ、そのまま騎士団の練習場まで来てしまった。


「ヴァランガ卿!」


練習場は広い。私も何回か来たことがあるが、多分ここが王宮にある、訓練施設の中で1番広いのではないだろうか。そこにいた30代程の男性の方に駆け寄っていった。

太陽に透けると輝く様に色が変わる銀の髪に金色の目が印象的な美丈夫がヴァランガ卿である。アレクの剣術の先生だ。



「アレクか。今日は少し遅いようだが…。」

「すみません。でも、今日はちょっとしたゲストを連れてきたんです!」


アレクは私をヴァランガ卿の前に引っ張った。


「すまん。アレクがどうしてもと言うから…」

「王太子殿下ではありませんか。いえ、大丈夫です。」


練習場には他の団員達もいた為、私が来たことにより周りが騒ぎ出す。


「それでなんですけど、今日はアルも一緒でお願いできませんか?」

「……あぁ、分かった。」

「ありがとうございます。」


アレクの唐突な提案にヴァランガ侯爵は顔色を変えず、私に向き直った。


「王太子殿下。私では不服かと思いますが、よろしく御願いします。」

「いきなり来たのは私の方だ。 こちらこそよろしく頼むよ。」


軽い笑みを向けた私にヴァランガ侯爵は丁寧に

お辞儀をした。


私はアレクの性格上何となく騎士団に向かうということで予感はしていたが、侯爵がここまであっさりと引き受けるとは思わなかった。


侯爵とはあまり関わりがなかった。

彼の騎士団長としての実績は確かだが、表情をあまり顔に出さないので、何を考えているのか分からない。


しかし、前に少しだけ顔色を変えたことがあった。丁度半年前、私の婚約者を決めるための見合いをするとなった時にヴァランガ侯爵の娘の名前が上がった。

その時は、他の令嬢達との見合いで疲れきっていたし、私を利用しようとする声を聞いたばかりで、父上にもう見合いはしないと断ったのだ。


その時に少しだけほっとしたような表情を浮かべていた。ヴァランガ侯爵の表情を崩したのはそれが最初で最後だ。




その日からちょくちょくアレクに連れられ、騎士団に行くようになり、ヴァランガ卿とは随分と親しくなった。


______________________________



それから1年程経ち、再び縁談やら見合いやらの話が持ち込まれた。だが私はあまり気が乗らなかった。

見え透いたお世辞や、顔色をうかがわれながら会話をしたりするのには耐えきれなかったからだ。

嘘で覆われた言葉など聞きたくはない。


「父上、以前にも見合いはお断りしたはずですが…」

「そう言うなアル。今回は見合いではない。茶会だ。」

「同じようなものだと思うのですが。」

「そうか…オリーが面白そうだと提案したんだが…」


オリーと言うのは母上の愛称である。

オリビアが名前だ。

父上と母上はお互いを子供の前でまで愛称で呼び合うほど仲がいい。そんな2人を少しだけ羨ましく思ってたこともある。


母上は面白いことが好きで、若い頃は結構やんちゃをしていたらしい。今はすっかり王妃が方についてきているが、やはり昔同様面白いことには首を突っ込みたがる。

そんな所が父上は好きだと胸をはって高らかに宣言するが子供の前でまで惚気はやめて欲しい。


そんな面白いこと好きの母上が提案したお茶会に父上も面白そうだと乗っかったのだ。

母上は1度言い出したら聞かない。

以前にも母上が提案してきた、自称面白いことを私は嫌だと拒否していた所、私の部屋まで来て、やると言うまで物凄い勢いでの熱弁された。


「わかりました。母上が言うのでしたら。」

「そうか。ありがとうな、アル。」


相変わらず父上は母上には甘い。


そうしてお茶会ならぬ、母上が名付けた《一気にお見合い大作戦》が始まった。


母上のネーミングセンスだけは戴けないが…

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