第403話 ほぼ温泉旅行です
――――――メイトリム。
僕達は道中の整備具合を確認しながら、再びこの村に訪れていた。
「……では、我々にその仕事をお任せしていただけると」
「はい、立て続けになりますが、引き続き依頼したく思います。これは、王家よりの正式なご依頼です」
そう言って僕は、工務代表者―――モイルさんに依頼書を手渡した。
任命書も兼ねているのですごくキッチリとした紙に、装飾模様が記されているような、儀礼的な雰囲気のあるその依頼書を、モイルさんは両手で恐る恐る受け取った。
「は、はー……し、しかと
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とりあえずこれで仕事は終わりだ。僕が滞在用の賓館に戻ると、シェスクルーナとリジュムアータがメイドさん達と一緒に出迎えてくれた。
「二人とも、少しぶりですね」
「はい、殿下。ご機嫌麗しく……お姉ちゃん?」
「は、はひっ!? あ、えとえーと、ご健康であらせられて、えっとあれ?」
しばらく離れていたからか、シェスカはとてもテンパってる。まるでさっきのモイルさんみたい。
一方でリジュは相変わらずだ。……ううん、肌や髪の艶色が良くなってる。すっかり健康を取り戻してる。
「ふふ、慌てなくていいですよ、シェスカ。それはそうと……」
僕は軽く周囲を見回す。
「殿下、他の方々は温泉に行ってるよ。殿下の用事は時間がかかると思ってたみたいだね」
そう言うリジュムアータ。その表情はちょっぴり悪戯めいてる。
「そう言ったのはリジュなのでしょう? ダメですよ、悪知恵を働かせては」
ついでに仕事終わりの僕を身綺麗になって出迎えた方がいいとか、そんな事まで言ってそうだ。
結果、仕事終わりの王弟殿下を出迎える役目をまんまと姉妹でせしめました、と。
「悪知恵だなんて人聞きが悪いよ。皆、温泉の魅力に抗えなかったんだろうね、フフッ。とりあえず、皆が戻って来るまでごゆるりと……お茶の用意もしてあるよ」
今回、メイトリムに来るにあたり、アイリーンを筆頭に、僕のお嫁さん全員とレイア、そしてシャーロットとファンシア家の老夫妻も
ファンシア家の面々は家を爆破されたという事もあって、表向きは念のため、避難するという名目で僕達に同行―――実際は、僕こと王弟一家のフルメンツにシャーロットを加えることで、事実上の婚前旅行も兼ねている感じだったりする。
で、そんな皆がメイトリム名物を楽しんでいる間……
「……エルフ、ね」
僕とシェスクルーナ、そしてリジュムアータの3人でお茶をしながら王国と僕の現状を話していた。
一通り聞き終えたリジュムアータは、何とも言い難いような表情でカップを口に運ぶ。
「おそらくはヴェオスよりもずっと
表に近いほど、たとえ関係なくとも多少の情報は耳に届く。だけど、僕が生まれてから今まで、エルフ過激派の裏社会での動きなんて、微塵も感じることはなかった。
ルクートヴァーリング地方の売国の話にしても当時、結局は怪しい黒幕候補として上がるところまで、辿り着くことすらなかったほどだ。
「エルドリウス、っていうのは聞いた事ある気がするけど……リジュちゃん、知ってる??」
「聞いた事があるも何も、古い本にも名前が載ってるエルフだよ、お姉ちゃん。ほら昔に御父様が、その使いだっていうエルフに1度だけ会ってもいたから」
「マックリンガル子爵が、ですか?」
意外だけど、ありえない話ではない。
エルドリウス率いる過激派エルフの目的が、エルフの再興にあるとしたら、王国の貴族にそれとなく接触しているだろう。特に相応に大貴族になるほど、彼らの訪問を受けている可能性は高い。
「あ、そういえばあのちょっと嫌味そうなエルフ? 思い出した、あんまりにも傲慢で嫌な態度を取ってたから、リジュちゃんと一緒にべーってした?」
「そうそう、あの時の。そのエルフが確か、エルドリウスの使いだって名乗っていたね。お父様も嫌な感じがしたみたいで結局、話半分に追い返してたから、それ以降は来なかったよ」
二人の話からすると、マックリンガル子爵家は来訪したエルフに眉をひそめ、繋がりを持たなかった。
それって裏を返せば―――
「―――エルフと繋がりを持った貴族が他にいるかも……って考えてるね、殿下?」
「その通りですけど、一瞬で人の考えを読まないでくださいよ」
呆れて苦笑すると、リジュは自分の多毛の奥でしたり顔での笑みを浮かべた。
以前の幽鬼のような生気なき微笑みとは違い、とても柔らかでいい笑顔だ。
「……ともあれ、どちらにせよ僕の出しゃばるところはないでしょう。その辺りもおそらくは既に、兄上様達が手を伸ばしているはずですから」
そうこう話をしていると―――
「あー! 旦那さま、お仕事からお帰りになっているじゃないですかー!?」
レイアを抱っこし、髪をおろして全身から湯気を立たせているいかにも湯上りなアイリーンが、温泉から帰って来た。
その後ろの方には、セレナやクララ、エイミーにシャーロット、ヘカチェリーナらの姿も見える。
「はい、仕事あがりに軽くお茶を頂いていました。アイリーン、それにレイアも、温泉は気持ち良かったですか?」
「ぁーう、だうーぅっ」
なんだか温泉に団体旅行にでも来ているような気分でリラックスしたひと時……
僕もあとでのんびりと入って来ようと思いながらレイアを受け取り、軽く高い高いをしてあげた。
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