第394話 謎が残った一件落着です
アイリーンは、あえて助け出したクルシューマ伯爵を兵士達に任せた。
その理由はセレナの率いる兵士さん達にあった。
「セレナーク妃将
一応、僕のお嫁さんの一人であるセレナは、妃の身分でありながら軍権を有する新しい地位、妃将だ。その兵士は僕の傘下で実質、王室直轄部隊の一つも同然。
なので、“それなりに華を持たせた方がいいのかなーと思いまして” と、アイリーンが功績の分け前を与える形で気を利かせたらしい。
「アイリーン様のご命令により、パウリー=サル=クルシューマ伯爵の身柄を無事に確保。並びに敵中継基地と思しき隠れ家の制圧と保持を完了いたしました!」
「ご苦労様です。敵拠点に関しましては、追加で100名の兵士を送り、常駐態勢を取ってください。王都からその拠点までの道中、および拠点周辺地域の警戒態勢も怠らないように。後ほど、引継ぎの部隊が到着するまで維持し続けてください」
「ハッ、しかと
とりあえずはこれでよし。
クルシューマ伯爵家に潜伏していた魔物の件は
「はぁ、はぁっ、はぁ……し、失礼します、殿下!」
僕が一息ついたと安堵していると、王都の方向から一人の兵士さんが飛んできた。
「どうしました、何か緊急ですか?」
「は、はいっ! 皇太后様よりこちらを至急、殿下にお届けするようにとっ」
そういって差し出してきたのは手紙―――それも印はあるけど封はしてないモノ。
「……」
僕は受け取るとすぐに開いて文面を確かめた。
「(……コイザンに、忘我の術がかけられていた?)」
手紙の内容はこうだ。
僕達がクルシューマ伯爵家に潜んでいた魔物達を退治し、ゴブリンのコイザンとその相棒の
彼らから得られる情報はすっかり取り尽くしたと思っていた。
けど父上様の前に連れてこられて話をしていたところ、ちょうど僕から魔物の中継拠点制圧とヘモンド男爵の逮捕の報が入ったことで、
「(その理由は、情報のやり取りをする主要な役目を担っていた “ アンテナ ” と呼称されていた魔物が何者かに殺されたこと。それで別の何者かが、その術で、潜伏組の全てを知っている指揮官だったコイザンの忘我を実行……)」
僕達が接触した時のコイザンは、言葉を理解し喋れる以外はいたって普通のゴブリンだった。
けど本来は、もっと高い能力を持ったゴブリンでもかなり特殊な個体で、知能もより高く、話し方などもより理知的だったのだそう。
(※「第365話 潜みきっていた尾を掴みます」参照)
唯一その事を知っている
「(そういえば、確かに伯爵家に潜んでいた魔物達の中で、コイザンだけが固有名を与えられてた……最初は組織管理の一環かと思ったけど、普通の個体じゃなかったんなら、納得いく)」
僕達がこの件に当たるよりも前、すでに王都に潜んでいる魔物の存在は嗅ぎつけていた―――誰が? 兄上様達じゃない……おそらく……
「母上様、か……」
「は?」
「いえ、なんでもありません、ただの独り言です」
クルシューマ伯爵家に魔物が潜伏していることを知っていて、なんで僕がことに当たるまでそのままにしておいたのか?
どうしてその、“ アンテナ ” と呼ばれていた魔物だけを
結果、その件によって魔物側は、先手を打って念のため、コイザンの記憶と自我を消し、こちらに余計な情報が渡るのを防げてる。
あるいは消される前のコイザンなら、“ あの方 ” の正体を知っていたかもしれないのに。
ちなみにコイザンは、忘我させられていた事は全然知らず、ずっと自分は今のままの自分であり、今知っている事以外のことは何も覚えてないし知らないと、驚いていたらしい。
「(……分からない。母上様は、何を狙って……?)」
あえて泳がせて、より深くしかと掴むべきを掴もうとしていた、というのが一番しっくりくる。
だけど……本当にそうなのだろうか??
――――――同時刻、皇太后の邸宅。
「失礼致します、皇太后様。投降した魔物達は、ご指定の場所への移送および保護を完了しました」
「ご苦労さまぁ~、ティティスさん。誰にも見られないように連れて行くのは大変でしたでしょう~?」
しかしティティスは、そこは苦も無くと
「しかし、アレらはどうなされるのでしょうか? このまま生かしておくのは少々危険ではありませんか?」
強さなどに関しては問題外。
危惧するところは、魔物を生け捕りにして生かしたまま飼っている、と世の中から見られる事になりかねないのではという世間の目だ。
「あそこでしたら~、まず誰かに見られることもありません~。コイザンちゃん達にはまだ利用価値があるでしょうし、それに大事な大事な〇〇〇ちゃんが保護することを決めたのですから、その通りにしてあげませんと~……ウフフ♪」
「本当に皇太后様は、殿下の事がお好きなのですね」
ティティスは感心というよりも、半ば呆れるといった様子で両肩を軽く上下させた。
「ええ~、あのコが望むこと……私はそのすべてを叶えてあげたいのですよ~」
ニッコリと微笑む皇太后。
その視線はティティスを見ているようでいながら、もっと遠くを見透かしているかのようでもあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます