第341話 やっぱり結婚は “ 儀式 ” でした



 王都についた直後から、それはもうドッタンバッタン大騒ぎって感じだった。




「……だ、大丈夫ですか、お二人とも?」

「は、はぃい……」「ええ、平気です殿下」

 クララは軽くグロッキー。セレナはさすがの軍事畑の出でまだ余裕がありそうだけど、表情には影がさしていて疲れを隠してるのがうかがえる。


 結婚式、初夜、そして2日目の各種儀礼儀式の連続に突入しての今……


 先ほど、ようやく“ 迎告式 ” ―――第三夫人、第四夫人をお迎え致しましたと、現王である長兄の兄上様、父上様、母上様を順番に回っての、報告の儀が終わったところだ。

 (※「第48話 結婚は “ 儀式 ” なんです」参照)


 アイリーンとエイミーの時もやったけど前とは違って、今回は第三位と第四位の側室なので、お嫁さん2人が一緒に報告にいったのと、シェスクルーナとリジュムアータも同席して、二人との婚約の話もついでに報告する形になった―――んだけども。




「お二人は大丈夫でしょうか? リジュさん、皇太后様とすごい白熱なされていましたけど……」

 クララが心配するのも無理ない。

 僕達は次の儀式に向けておいとましてきたけれど、今もなおリジュムアータと母上様が、バチバチと静かな火花を散らしているからだ。


 何をって? それは遊戯―――この世界における将棋やチェスに類するような戦略系の盤上の駒遊び……二人はそれで対戦している。


「まぁ大丈夫でしょう。僕達は “ 同食式 ” 、そして “ 覚式 ” おぼえと “ 追憶式 ” とこなさなければなりませんが、母上様達はその次の “ 祖霊式 ” で合流するまで時間がありますし……」

「それがお二人の対戦のタイムリミットですね」

 セレナさん、なかなか怖いことをおっしゃる。

 次に母上様達と合流するまで5時間は間があるんですよ、まさかそんなに長いこと対戦を続け―――


「(―――あ、でも前世じゃ将棋とかの対戦で何時間もかけるなんてザラなんだっけか……あ、ありえそう)」

 母上様は見た目にはそうは見えないけど、かなり強かに物事を考えられる女性だ。対する一方のリジュムアータは当然の得意分野―――この二人の対戦は、下手するとお遊びの域じゃなく、プロ棋士対戦レベルになるかもしれない。


「と、とにかく僕達は僕達でやらなければならない事がありますからね。まずはお城へと戻りましょう」

 シェスクルーナが傍にいるし、父上様も二人の対戦を興味深そうに観戦してたから大丈夫だと思う。

 ……いや、対戦が長時間に及んだら、観戦してる二人が一番大変かもしれない。特にシェスクルーナは妹ほどそういう方面に詳しくないし。


「(興味の弱いものを見続けるのって、苦行だもんね……。シェスカには後でいっぱいかまってあげなくちゃ)」

 あの母上様のことだ。どうせ事前に、リジュムアータがそういうタイプの頭のいい人種である事を知っていたに違いない。

 そんでもってリジュムアータも、母上様が遊戯で勝負を挑んでくることは予測していたフシがある。


 ……うん、すごいけどやべぇお二人です。対戦中、ただただフフフって笑い続け合う様子がなんか怖い。



「(まぁ、ある意味打ち解け合ったんだって思えば……うん)」


  ・


  ・


  ・


 その後、王城に戻って順調に儀式をこなした僕達。

 “ 追憶式 ” に出発する前の休息時間に、アイリーンが合流した。


「殿下、お二人ともお疲れさまですっ。大変だったでしょう?」

「は、はひ~……すごく、疲れましたわ……」

 アイリーンの問いかけに、クララはもう完全に取り繕うこともできない様子でテーブルに突っ伏し、ヘロヘロな姿を見せてる。


「さすが、王室の婚儀の式……手応えがありますね」

 セレナもかなり疲労の色を浮かべてはいるけれど、それでも姿勢を乱さずに座っていられるのは、軍人として心身鍛えてきた賜物なんだろうな。


「アイリーンもお疲れ様でした。 “ 妃拝心 ” ひはいしんの儀も大変でしたでしょう?」

  “ 妃拝心 ” ひはいしんの儀は、僕の第一妃であるアイリーンにしか行えない儀式だ。

 第三妃から新たなお嫁さんをもらう時に、この儀式が行われる。


 この儀式がある分、アイリーンは “ 迎告式 ” には同席せず、王城で準備を行って後に “ 同食式 ”に参加。

 その後の “ 覚式 ” おぼえを僕達が行ってる間に、アイリーンは第二妃のエイミーを助手役として伴って “ 妃拝心 ” ひはいしんの儀に臨んでいた。


 簡単に言えば、僕のハーレムをまとめる者としての責任感を喚起し、ハーレムの安寧を祈る儀式だ。


「えへへ…… “ 覚式 ” おぼえと違って人の目があまりないですから、結構楽でしたよ。実質、祈りの所作でしばらくじっとしてるだけですし!」

 アイリーン的には、この儀式のおかげで “ 迎告式 ” に参加して気疲れせずに済んだのが嬉しいみたいだ。


 確かに “ 迎告式 ” は、要するにこの国のトップとの挨拶回りだから、キッチリとした礼儀作法を求められる。アイリーンみたいなタイプには一番嫌な類の儀式だろう。


「? アイリーン。エイミーはどうしました?」

「エイミーちゃんなら、 “ 妃拝心 ” ひはいしんの儀の後片付けをお手伝いしてます。何かしたくてウズウズしてたって、すっごく張り切ってましたよ」

 エイミーは長年、僕の専属メイドで頑張ってたから、王弟妃になってからも、どうにもメイド気質が抜けないらしい。




「まぁ、本人が喜んでいるのでしたら……ですが “ 追憶式 ” の時間が迫っていますので、適度に切り上げて、こちらに合流するようエイミーには伝えてきてください」

 僕は控えていたメイドさんに命じると、お茶を口に含む。


 休憩の時間もなかなか落ち着けない―――これがもし前世の世界だったら、きっと世の中の男女は結婚式が嫌になっただろうなぁ。



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