第324話 兄弟の自然な笑顔です




「……そうか、やはり嘘の説明をしていたのだな」

「はい、スキルの影響を考えました時、人の耳のあるところで本当の事を言うのは……」

 一通り、僕のスキル “ 恩寵 ” おんちょうについてザックリと説明した後、幼い日に、家族にしたスキルの嘘の説明について釈明する。


「確かにあの時、メイドやじいやも同席していた。だが驚いたぞ、弟よ。あの頃からお前は聡明であったのだな、フフッ」

 宰相の兄上様は、なんとも純朴そうな笑顔で笑った―――あれ、こんな笑い方もできるんだ、初めて見た気がする。




「いえ、僕が聡しかったといいますか……あの頃はまだ周りの事が良く分かっていない不安が強かった、という気がいたします。それゆえ、自分にしか分からない事を、正直に言ってもいいものかどうか……内心では結構悩んでいたんです」

「そうか……だがお前の判断は正しい。世の中の多くの者は、あまり正直に己の持ち得ているスキルの事を、周囲に伝えないものだからな」

 たとえそれが、どんなに大した事のない効果であったとしても、やはりあるとないのでは段違いだ。


 そして、スキルを持っている人は、より上位の権力者に目をつけられ、利用されるなんて事もある。

 中でも一般人のスキル持ちは、そうした黒い社会の負を恐れ、特に慎重姿勢だ。


「(実際、赤裸々な・・・・歴史の書物なんかには、そういったスキルを持った一般人を取引する・・・・なんて事が横行してた時代も書かれていたし、今だって裏じゃそういう事してる貴族はいそうだ)」

 残念ながらスキルは、この世界だと多くの異世界転生物語のような、誰もが気軽に用いていいものじゃない。



 スキルがある=他の者にはない能力がある


  ↓

 

 利用してやろうという悪意ある権力者の魔の手が伸びて来る




 そういった怖れが人々の間には潜在的にあるのが現実だ。


「(あとは妬みによる少数派マイノリティへの差別とかもあるだろうなぁ)」

 スキルが1つあるというだけで、人生には多きなプラスになる。

 だけど圧倒的に世の中スキルを持っていない人間の方が多い。


 特に子供達の間じゃ、スキルを持ってることでイジメに繋がる可能性は容易に想像できることだ。




「しかし、<恩寵>おんちょうか……他人にスキルを与える事が出来るとは、また驚くべきものだな」


「はい。かなりの制限はありますし、与えることのできるスキルも何でもとはいきません。しかも相手によって、その選択もまるでバラバラですから……。特に成長し、王家や貴族達のことなど、色々と分かってきてからというもの、これは軽率に使うべきではないと、僕自身このスキルは今までも、ほぼ使っては来ませんでした」


「うむ、それは英断だ。いつ誰が敵に回るとも知れぬ世界……よほど信頼できる相手でなくば、スキルを与えた者が将来、敵に回る懸念がある」



 まさしくだ。


 その懸念があるからこそ、僕は<恩寵>を使ってこなかった。いまだにアイリーンに<アインヘリアル>を与えた、ただ1回だけ。


 しかし僕は逆に最近、使い道を模索し始めていた。


「兄上様。実はこの<恩寵>を有効に用いる方法を、僕はずっと考え続けてきたのですが最近、別の視点から使える可能性を見出しつつあります」

「? というと?」

 元々スキルについては、その保有者には詳しいところまで理解できている。効果や効力、その関連する情報も。


 そして、先日のヴェオス達との戦いで、<アインヘリアル>を与えたアイリーンの位置が感じ取れるという事実も、実証できた。



「僕が<恩寵>でスキルを与えた相手の位置を、僕は感じとることができます」

「! ……そうか、そういうことか。なるほど」

 さすが頭のいい兄上様だ。その一言だけで察したのは素晴らしい。


「ええ、もちろん実際に与えられるスキル次第ですが、あえて・・・敵に回りそうな者に、脅威にならないスキルを与えることで―――」

「―――居場所を把握できる」

 これは地味に大きなことだ。


 たとえば政争相手を捕らえるなんて事になった時、その動きを察して相手が逃げ隠れしたとしても、事前に僕が<恩寵>でスキルを与えておけば、その居場所は筒抜けになる。



「(スキルの効果を利用した、事実上の “ 感知 ” だ。マーカー・・・・を付けておく必要性はあるけども、上手く利用できれば……)」

 モノは考えよう。視点を変え、物事をさまざまな方向から見ることは有用だ。


 たとえガッカリするようなショボいスキルだったとしても、見方を変えれば見えてくる有効性もあるかもしれない。


 僕の<恩寵>も、僕自身にスキルを付与できないのがガッカリポイントだったけれど、与えた相手の居場所が分かる副次効果の方を主軸に捉えて考えたことで、この利用法を思いつけた。





「慎重になり、使ってこなかったからこそ、僕自身もまだ気づけていない意外性はあるかもしれません。今後も何か、思わぬ利用ができないかは考え続けていくつもりです。やはり少しでも兄上様達のお役に立ちたいですし」

「そうか……頼もしいな、さすが我が弟だ」

 そういって優しく微笑みながら頭を撫でてくれる宰相の兄上様。不器用な撫で方で、僕の髪は少し乱れたけど……うーん、これはこれで悪くない。


「(うん、やっぱり兄弟仲良しはいい事だよね)」

 一番上の兄上様や母上様が見たら、キーッてなるかもしれないな。


 なんて事を想像すると何だか笑えてきて、僕もつい笑みをこぼした。




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