第272話 真なるヴェオス軍との本格開戦です
城から飛び出した敵はヴェオスだけじゃない。配下の魔物達、およそ100体もまた、暴れ始めていた。
『ハッハァ! ようヤく、窮屈で退屈とハおさラばだゼェ!!』
『まズハ、城前の人間どモ。1人残サず……だっタな?』
『血ヲ見せロ、肉をまき散ラせェェ!!』
僕達がヴェオスから逃げ切った頃、城前は阿鼻叫喚の状態にあった。何せヴェオスが徴兵し、連れて来たマックリンガル子爵軍の1万5000人はいずれも単なる一般人。
肉体的にも精神的にも鍛練など受けていない人々だ。 武装こそいっぱしのモノを与えられてはいても、魔物相手に戦えっこない。
しかも彼らに襲い掛かるのは―――
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―――と、いずれも1個体が強力でおどろおどろしい魔物ばかり。
ベテランの傭兵や軍隊でさえも苦労する魔物達に1万5000の頭数だけの子爵軍兵士が
「「「うわぁあああああああっっっ!!!」」」
1万5000が混乱しながら逃げ惑う。
彼らに襲い掛からんとする魔物に対して、南側からメイレー侯爵の配下、ハバーグ率いる1500が北上、飛び出してきたばかりの魔物達に一当たりした。
「ああもう、こういう事になるんじゃないかと思ってましたよ……っ、はぁぁ~」
胃が痛い思いをしながらもハバーグは確かな指揮を執る。
確実に、決して無茶に兵を向かわせない部隊の動かし方は本当に繊細で、魔物が反撃しようとすれば退かせ、別方向に回り込ませて殴る、みたいな……まるで捉えどころのない液体みたいな動きを、彼の部隊は見せていた。
――――――ヴェオスの小城、南西。
「オフェナ隊長、侯爵様より伝令! 敵の首魁ヴェオスが正体を現し、魔物を伴って戦闘を開始した故、オフェナ隊には城への突貫を開始し、城内にまだ潜んでいるであろう魔物の掃討と城制圧を開始せよ、とのことです!!」
じっと我慢していた甲斐があったと、腕を組んで自分の
「きたきた、きたぞー。さすが侯爵、オフェナの出番、ちゃんと用意してた。……お前らー、覚悟はいいかー! オフェナに続けー、あの城ぶち抜けー!!!」
「「ウォオオオオッ!!!」」
500と数こそ少なくとも、オフェナの気質や戦闘スタイル、そして役割を考えた時、その隊を構成する兵士達は自然と、彼女同様に好戦的なタイプの精兵で固められていた。
決して柔いとはいえないヴェオスの小城の壁だが―――
ズドゴォオオンッ!!!
待ちに待った500の兵士達の、溜めにためていたパワーは、あっさりとぶち抜き、容易く城内への侵入を達成した。
しかし……
『……グッググ……飛んデ火にはイる虫ガ来たゾ』
「……へぇ~、難しい言葉知ってる魔物だな。オフェナ……期待しちゃうぞ!」
待ち構えていたように現れる無数の魔物の影。
しかしオフェナ隊はまるでひるむことなく、むしろ嬉々としてその影たちに向かって突っ込んでいった。
――――――メイレー侯爵軍、本陣。
「前衛のウヤェーに伝えよ。ヴェオスの首を取ることに注力し過ぎるな、最優先は殿下たちの安全確保、そして子爵軍兵士を襲う魔物どもの排除の方だ、とな」
「ははっ!!」
「各地の諸侯に使いを飛ばせ。” 子爵の正体みたり。我、醜悪なる魔物と化し、子爵を名乗りし不埒なる魔物を打ち取らん。 ” とな」
「ただちに手配いたします!!」
メイレー侯爵が素早く部下に指令を出してるところに、僕達は到着した。
「おお、殿下! それにお嬢様方もご無事で。っ……救護班をすぐにこれへ!」
僕の怪我に気付くなり、メイレー侯爵は顔色を変える。
客観的に見ると、そんなに酷い怪我に見えのかな? 僕自身の感覚は、もうかなり楽になってるんだけども。
「慌てないでください、侯爵。とりあえずそこまで深手ではありませんから。最前線の兵士さん達の手当のおかげで出血も止まり、痛みもかなり引いていますので」
それに後陣まで戻れば現状、この世界で最も進んだ医療品、ヴァウザーさん謹製の
僕のように、分かりやすい直接的な傷なら、今なら簡単に治せる。
「(とはいっても、油断はできないな。前線の兵士さん達がどれだけヴェオスに対抗できるか……)」
南から城前に入って子爵軍1万5000との間に割って入って魔物100体に対処してるハバーグ隊1500。
南東から城内に突入してるオフェナ隊500。
最前線でヴェオスに対峙するウヤェー隊800に、そこから迂回してハバーグ隊の増援に向かっている分隊200。
そしてここ、メイレー侯爵の本陣1500に各種支援を行う後陣500。
現在のメイレー侯爵率いる5000の兵士さん達の配置はそんな感じなわけだけども……
「(いくらメイレー侯爵たちが普段から自領で魔物と戦い慣れてるっていっても、構成してる兵士さん達は人間だ。強さ自体は王国正規軍の軍人とそう大きくは変わらないはずだし、……やっぱり魔物化したヴェオスをどれくらいの戦力で抑えきれるかどうかが鍵になりそう)」
ヴェオスはまだ、人間の姿から魔物へと移行途中だ。完全に正体たる魔物へと変貌を遂げた時、果たしてどれほどの強さの個体となるのか……
それ次第で、こっちが取るべき作戦は大きく変わりそうだ。
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