第260話 城の中の苛立つ魔物たちです
ヴェオスは苛立っていた。
「なんだ、何が原因だこの騒ぎは!!?」
「ま、まだ判明しておりません、もうしばらく―――」
ドシャッ!!
報告で膝をついていた兵士の、首から上が消えた。遅れて傷口から血が噴き出し、ヴェオスにかかる。
微かに顔の表面に付着したそれを指で拭い舐めると、マズイと文句を言うかのように、首無し死体を無造作に蹴飛ばした。
「フンッ、所詮は人間……無能どもめ」
窓の外に視線を向けると、炎の明かりが下から照らしている夜空が見えた。
そして耳に不快に響く、クシャミや鼻をすする雑音が鳴り続けている。
「……チィッ、うっとおしい……」
ギリッと噛み締めた歯は、やたら鋭い。犬歯の数が人のそれよりも明らかに多く、ヴェオスの苛立ち具合に合わせるようにして、メキメキと音を立てながら、他の歯も鋭くとがっていく。
魔獣性とでもいうべき衝動が、人間の倫理や感覚を凌駕し、ちょっとした事で憤りが沸き起こり、抑えられない。
以前は余裕だった人の姿を保つことが、今は気を抜くとすぐに変貌してしまいかねないほど、困難になっていた。
「火事はともかく、不快な騒音の原因はなんだ……?」
懸命に自分を抑え、衣服の破けかける音が鳴るところでその身は人の体躯へと戻っていく。
平静に、冷静に。思考を捨てるなと、己に言い聞かせ、何とか落ち着いていくヴェオス。
進行した内面の魔物化のせいで、その思考力は本人も気付かないほど低下しており、かつてのヴェオスの知性の半分にすら届かないまでに衰えている。
考えてみたところで、確固たる答えなど出てはこない―――そのことがまた、ヴェオスに憤りを感じさせ、獣の本能が強く膨れ上がってくる。
その収縮を何度か繰り返した末に、ヴェオスはようやく、とにかく現場へと出向いてみるという判断に至った。
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――――――ヴェオスの小城、2F廊下。
「退屈だ、あー、面倒くセぇ……』
「おい、
二人の鎧を着こんだ体格のいい兵士が、階段脇でだらしなく座り込み、だらけていた。
「いつまで、こーしていなきゃいけねぇんだ。オレたちは?」
「毎日言ってるな、それ。……まぁ気持ちは分かる」
一見すると、巨躯の警備兵のように見えるが、その正体は他でもない―――2体ともに魔物である。
「ヴェオスの野郎に従えっつー、
「ウェルトローエルに行けって言われた連中が、今となっちゃあ羨ましいな。あいつら、派手に暴れてんだろうなぁ……」
(※「第241話 頼りにされる二人です」など参照)
いかにも貧乏くじを引いたと言わんばかりに全身で落胆して見せる二体。
「だいたい、ヴェオスなんて元人間だルぉ? いくら俺らと同じ魔物になったっつってもよぉ……」
「そう言うな。人間の国に内側から侵食する意図で、って
片方がよっこらせと言いそうなほど、面倒そうに腰をあげて立ち上がる。
フルフェイスヘルムの隙間から、廊下の先をじっと見た。
「? どーしたヨぉ??」
「いや、何かあっちに見えたような気がしたが―――……ゴハッ!!?」
ドシュッ!!
突如、刃が首から生えた相棒を見て、もう1体も慌てて立ち上がる。
「な、何ぃ!??」
「て、テキ……か……ァ??』
突き刺された方の声色が、人のソレから魔獣の濁ったモノへと変わってゆく。そして、ギギギとさび付いたドアのような動きながら、ゆっくりと頭部が360回転した。
「やっぱり中身は
ボロ布をまとった、賊らしき姿の女。
その手にした剣が、鎧越しにも確実にその魔物の急所の位置を見抜き、貫いていた。
『オマエぇぇエ!!』
「相棒がやられて怒った? 感情豊かすぎて魔物らしくないなぁ……っと」
手に持っていた槍と盾をその場に捨てたかと思うと、ガントレットが砕け、中からタコやイカのような触手が何本も飛び出し、女を襲う。
意外にも、女はあっさりと触手に捕らわれた。
『グハハハハハァ!! コノママ、シメコロシテヤル!』
勝ち誇るように叫ぶ
むしろキョトンとしていた。
「呆れたねー。もしかして、
『ナニヲッ!! フザケ―――――……???』
視界がおかしい。
勝手にぐるりと回って捕らえた女から天井、そして床と視界がまわる。
天井が近くなったかと思ったら、一気に床が飛び込んできて、やがて床が眼前から動かなくなった。
『ガルルルル……』
「よーし、よし、イイコイイコ。……って、私が動かしてるんだった。うーん、まだちょっと慣れてないなぁ、初めての実戦だからかな」
触手を取り払いながら女が近づいたモノ、それは狼―――どうやら背後からアレに首を
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