第204話 モヤモヤする安息の帰路です




 最初、クララ達を襲った人達には敵っていう認識しかなかったけど、4~5人が捕えられてきた時は正直、彼らに同情した。




「(大丈夫かな。色々聞き出すためにも、廃人になってなきゃいいけど……)」

 アイリーンはさすがだった。


 一緒に当たった護衛の兵士さん達が、生け捕りにした連中を連れて来た時、顔が引きつっていた。


 ケタ違いの戦闘力を前に、兵士さん達はほとんど何もすることがなかったらしく、メイトリムに向けて出発する前に陣容を整えている際に “ もうアイリーン様一人でいいんじゃないか ” なんて話声が聞こえてきたくらいだ。


 連行される生き残った賊達も、一気に年をとったみたいに老けてた。

 とんでもなく恐ろしい目にあった後って感じで、リーダー格の普段なら偉そうにしてそうな感じの人でさえ暴れることなくめちゃくちゃ従順に、兵士さん達に引っ張られていった。



 それとは対照的に僕と一緒に騎乗しているアイリーンは、それはもう肌艶が良くなっててご機嫌そのもの。表情もとても満足げで、子供が自分の好きな遊びをやり尽くして大満足してるみたいな感じになってた。


「(まぁ、フラストレーションとかが解消されたんならいっかな。犠牲になった賊の人達には申し訳ないけど、そこは彼らの自業自得ってことで)」





 ヌナンナ夫人らが迎えの部隊に合流してこっちに来させた、新しい馬車と護衛で周囲を固め終えた僕達は、メイトリムに向かって移動を開始する。


 今回の戦いでクララ達を王都から護衛してきた兵士さんのうち数名が死亡し、10名が重傷を負った。

 少し犠牲が出てしまったのは痛ましいけど、戦いである以上は仕方ない。


 そのくらいの被害で済んだと前向きに考えるしかない。まだ王都と王城の状況が落ち着くまでは油断できないんだから。



「(今、王都にいるのは兄上様達と、父上様に母上様、それとシャーロット……)」

 クララ達が貰った母上様からの手紙に記されていた話から推測すると、王城を攻めて来た魔物の群れは、やっぱり僕達が踏み込んだ、あのアジトに繋がれてた魔物達っぽい。


 元から襲撃計画を立てていたにしては、あまり計画的な動きが見えないことから、突発的な暴走でしかなく、さほど大した事はないっていうのが母上様の見解だ。


 問題はこの件を好機と睨んだ一部貴族達の動きの方。

 実際、クララ達の道中を襲撃してきたのはそういう貴族の手の者のようだし。



「メイトリムに帰りましたら、早速生け捕った人達から聞き出すべきを聞き出しましょう。そのように伝えておいてください」

「ハッ! かしこまりました」

 夜の道中は危険なので、途中で休憩を取ると同時に兵士さんに今後の指示を出す。


 特に捕虜からの情報は重要だ。必ずしも何か有用な事を知っているとは限らないけど、彼らを差し向けた貴族の特定はできればしておきたい。


「(シャーロットの " 眠ったままの騎士団スリーピングナイツ " の伝者がそのうち来るとは思うけど、それまではこっちから迂闊に王都の方には行けないだろうし……とにかく今は、こっちはこっちで得られるだけの情報をかき集めよう)」

 今のこの世界の常識からしたら、貴族達がこの機に乗じて国を乗っ取るとかまではいかないとは思う。

 じゃあ、よからぬ動きをする貴族達が何を狙って “ 動く ” のか? っていうのが問題だ。


「(クララとセレナならわかるかもだけど、セレナはしばらく帰ってこれないだろうし、クララは怪我……どうしようかな)」

 抱えた怪我人の事もある。


 メイトリムの戦力も、僕達とクワイル男爵の手勢が1000足らず。アイリーンがいれば万人力と言いたいけど、いくら強くても1人じゃ手数が求められる状況に対応しきれない。

 タンクリオン達は子供にしては出来るけど、それでも正規の兵士さん6~9人分といったところ。子供であることも考えれば無理に戦わせるのもダメだ。



「(まさか軍をあげて攻めて来る、なんてことはないとは思うけど……)」

 貴族達がそこまで準備してたっていうなら逆に大したものだ。

 軍事力で時の権力者を倒して国を乗っ取る、いわゆるクーデターを画策するのは、この世界じゃ革新的な考え方になるし。


「(お城から避難する王室の人間―――今回の場合はクララ達だけど、これを狙って確保しようとしたのなら、王室に対する優位性や発言力の向上を狙ってたと言えるけど……それだけのためじゃない気もする)」

 何にしても、まずは落ち着かないと考えはまとまらない。


 怪我人も多いし、兄上様の四夫人の安全も確保して、それから……


「(あれ、これってもしかすると、メイトリムの村を本格的に長期滞在できるよう整備しなきゃいけないんじゃ??)」

 ここまでロイヤルファミリーが揃っていると、今の状態じゃ不十分。もちろん数日滞在する程度なら問題ないけど、王都状況の推移次第じゃ長期滞在を強いられるかもしれない。

 メイトリムは元から賓館とかありはするけど、短期滞在前提な造りだ。




「(……クワイル男爵に、協力を仰がないといけなさそうだ)」

 男爵は悪い人物ではないけど、あまり1貴族に集中して王室が借りを作るのは先々よろしくない。


 “ 連中 ” の秘密の地下アジトを発見して潰したことや、クワイル男爵領内の “ 連中 ” を崩壊させた、クワイル男爵の王室への借り分にとどめ、それ以上は自前でどうにかする算段をつけなくっちゃ。




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