第138話 ケガでも功名はたてられます
貴族達の間で、まことしやかなウワサが広がっていた。そこからも
れるようにして市井にも徐々に流れていく。
『王弟殿下が?』
『ご危篤だって話は本当なのか?』
『命に別状はないって話じゃなかったの?』
さらに一石二鳥も三鳥も成果を狙って、色々と小細工もする。
その一つが、ちょこっとだけ仰々しい感じになるよう、毎日王城を訪ねる貴族達の車列だ。
父上様の個人的な紋、母上様の御実家の家紋、ファンシア家の紋章なんかをはじめ、公に僕と交流があることが広まってる貴族家の紋章を掲げた馬車が、頻繁に王城に出入りする光景。
それを見た王都の人々は、僕が大怪我を負って危篤だっていうウワサを信じるだろう。
もちろん、実際は危篤でも何でもない。重傷を負って絶対安静な療養生活は事実だけど。
「フフ……呆れたぞ、まさかワシまで利用しようとは―――さすが我が息子だ」
父上様は愉快そうに微笑みながら、孫であるレイアを高い高いする。その隣で母上様もクスクス笑いながら、でも僕の容態も心配だって感じで片手を取った。
「本当に大丈夫~? ママは〇〇〇ちゃんが襲われたって聞いた瞬間、心臓が止まる思いでしたよ~」
「はい、大丈夫です。危なかったのは事実ですが正直、少し油断してしまっていたことは否めません……ご心配おかけしました、母上様」
まず、一つ目の利点―――それは僕の親族や仲のいい人達が、僕のお見舞いにくる事で、レイアと頻繁に接することが出来るという点だ。
本来なら最初のお見舞い1ヵ月訪問期間が過ぎた今、普段からレイアに合うことは父上様と母上様でもなかなか出来ない。
けど、僕はアイリーンの部屋のすぐ隣の部屋で療養中だ。アイリーンがレイアを抱っこして、お見舞い訪問中のところに顔見せにやってくれば、僕と親しい人達だけ、レイアと会える―――僕達
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「殿下、こちらはお見舞いの品ですわ。お父様にお願いし、いずれも一級品を取りそろえていただきましたの」
「ありがとうございます、クララ。
多数のお見舞い品を運ぶとなれば、王城へと参上するのに複数の荷馬車を使う。しかも紋章付き―――対外的には、余計に大事があった感が印象付けられるはずだ。
「殿下、
そう言ってシャーロットは、お手製の刺繍を手渡してくれた。綺麗な絹生地に縫われている絵柄は " 健康・快癒 ” の意味を持つこの世界特有の花だ。
「これは……素晴らしい出来ですね、ありがとうございます、シャーロット」
クララと一緒にお見舞いに来てくれたシャーロット。実はこの二人を合流させたのも僕の指示だ。
僕が考えてる政治的な意図が分かるクララに手紙を出した。ファンシア家を訪れてシャーロットと面会してお話するように促すことを記述しておいたものだ。
こうしてクララと一緒にお見舞いにきたシャーロットが、正式な名前の “ クルリラ様 ” ではなく愛称の “ クララ様 ” と言ったことから、二人が打ち解けてるのを理解して、僕はよしと心の中でガッツポーズした。
危篤は嘘だけど重傷なのは本当だ。僕という共通のネタで二人が友好を深めてくれれば、後々ハーレムでも上手くやっていけるはず。
心配させちゃったけど、二つ目の利点も上手くいった。
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そして、3つ目の利点は、僕の目の届かないところで行われてる。
「暗殺集団 “ 黒の狂犬 ”も今日限りだ。殿下に危害を加えた罪で全員捕縛する!」
「全員動くな! “ 翼ある蜥蜴 ” !」
「殿下暗殺未遂により “ 四つ足の鮫 ” は解体、頭目は全員縛り首だ!!」
僕を襲った暗殺者集団―――ではない暗がりの連中だ。
兄上様に持ち掛けた作戦。それは僕を襲ったと言いがかりをつける形で腕のたつ暗殺者たちを一掃すること。
すでに襲撃してきた当の暗殺者たちは、現場で殺されてるか捕まってるんだけど、そこをまだ犯人捜索中と偽って、後ろ暗い組織をどんどん摘発する。
……もちろん片っ端から潰すわけじゃなくって、貴族と裏で繋がってたり、刺客になられると手強いような人物が所属してる組織を選んで潰していく。
その辺の差配は兄上様達に丸投げだ。
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さらに4つ目の利点。
「殿下がご危篤と聞いた、ぜひお目通りを!」
「見舞いの一つもさせんのか! ふざけるな、このゲルイッシュ男爵直々に参じたのだぞ!」
「殿下の見舞い叶わぬは残念……せめてこれら品々をぜひ殿下のお慰めにお納めください」
僕の危篤を信じた貴族達がお見舞いと称して駆けつけんとした。けど面白いもので、面会謝絶にしてるとそれぞれの反応や言い分の違いがハッキリして、色々見えてくる。
「(うん、すっごく分かりやすい)」
応対してもらった執事さんに、それぞれどんな反応や言葉を吐いていたかなんてのを書き留めてもらったモノを見て、僕はついニヤニヤしてしまう。
愚直に忠誠心ある人、お見舞いを理由にポーズを取りたいだけの人、礼を失さずにキチンと筋を通す人……
そこに置いていった見舞い品の内容や、その人の態度や性格、普段付き合ってる人脈なんかを加味すればあら不思議―――怪しい人、怪しくない人が浮き彫りに。
「これは……驚きですね。ここまでハッキリしますか」
「ふむ、良い資料になるな。コレは助かるぞ弟よ」
王家にとって要注意な貴族は前々からそれなりに分ってはいる。けどどうしても曖昧な部分があって、ハッキリと敵味方決めつける事が出来ない。
だけど危篤の王子様っていうエサをちらつかせて、それにどう反応するかを見るだけで、新しい判断材料がぼろぼろ出てきた。
狙ってはいたけど、ここまでバッチリだと考えた僕もビックリだ。兄上様達もとても喜んでる。
「(ベッドの上で安静にしてるだけでも、なかなかどうして出来ることはあるもんだね)」
兄上様たちに貢献できたことは素直に嬉しい。
けど、まだまだだ。今回の仕掛けの一番の本命がまだ
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