第132話 見えてきた黒幕、そして刃が迫ります
一連の事件のおかげで黒幕が絞れてきた。
「マックリンガル
エイミーが思い当たらないのも無理ない。
何せあの宰相の兄上様ですら記憶していなかった貴族だ。
「ネーブル氏同様、領地に引きこもっていた貴族ですからね。ここ20年ほど1度も登城していないそうですよ」
ネーブル氏と違うのは、爵位も領地も維持しているという点。
調べによると領民からは評判の良い領主らしい。一方で黒い噂もほのかに立ち込めてる人物らしいんだけど……
「どういう人物なのかとてもあやふやなんです。領地に引きこもったままなのを、これまで見過ごされてきた事も不自然ですし」
そう、なぜかネーブル氏と違って許されてきた―――ううん、追求すらされてない。まるで子爵位と領地を持ったまま存在を消してたみたいに、認識されてなかったみたいな……
「(まさか何かのスキル? ……一番ありえるのは認識を妨害するとかそういう系だ。けど、それだとあくまで人間に対してだけだと思うし、書類の記録だとか領地の往来による何らかの情報の拡散とかは防げないはず。なのに今までずっとアンタッチャブルだった仕組みは一体?)」
その一点だけでもう怪しさがプンプン臭う。
廊下を一緒に歩くエイミーと、後ろからゾロゾロついてくるメイドさん達を軽く確認する。
エイミーはさすがにないだろうけど、お城に務めるメイドさん達の中には貴族子女も多い。その中には機密性の低い雑務の手伝いや書類整理なんかを手伝ってる人もいる。
「(そういう人達と密かに繋がってて、こっそり色々自分の存在を忘れさせるような工作をしてた可能性……ううん、それはちょっと厳しい。どこかで痕跡が残っちゃうはずだし、マックリンガル子爵本人は領地に引きこもってるわけだから人伝に命令を下す形。上手くいかなかったら一気に尻尾を見せることになりかねない)」
権力を保持したまま存在を消す―――実現できればすごく強い。怪しい動きし放題だ。
「領地にずっとご滞在ですかー……その方のご領地ってどこにあるのです??」
「王都から西方、隣国に通じる大街道の終点付近ですね。
大街道は王都から東西に真っすぐ走っていて、街道とその周囲は王様の直轄地の一つになってる。
なので大街道に、貴族領地は一部なりともかかってるところはない。
主要インフラがそのまま領地の南北を分ける境界線の1つとしても機能してる感じだ。
「西なのですかー……私、西の方にどんな町があるのかまったく知らないのです」
「僕もですよ、大貴族の所領の大まかな位置関係くらいしか分かりません。東側の諸領に比べ、治安が良くて豊かなところが多い、という話をたまに聞くくらいですね」
――――――現状の問題は、マックリンガル子爵にロックオンしきれないことだ。
これまでの証言や状況からすれば確実にこの子爵さんしか黒幕に該当する貴族はいない。
けど証言とか状況証拠っていうものは確証にはならない―――特に証言。
「(人間、語る言葉がホントか嘘か分かったもんじゃないからね)」
状況証拠も、例えば殺人現場で状況から見て一番怪しいAさんがいたとしても、じゃあAさんが犯人だって決めつけるのは難しい。
真犯人のBさんが、Aさんが犯人としか思えないように状況を作った、あるいはもっていった、という事だってあるからだ。
「(マックリンガル子爵の場合、現時点だと捕らえた暗殺者や潜入者、ネーブル氏らの証言と、ヴァウザーさんや魔物2体からの情報、領地に異常な期間引きこもり続けてるっていう状況証拠しかない。特に子爵が黒幕だっていう特定の根拠は証言だけだ、弱すぎる……)」
しかもマックリンガル子爵は、自分のお膝元の領地じゃ善政で名が知れてる。半端な疑いや突き上げは、彼の領民の反発を招く。
追求しきれずに逃げ切られてしまう可能性が高い内は、彼の領民の悪感情を得るだけで終わってしまうだろう。
完璧に固めた上でないと捕まえられない。
「……やっとおぼろげに敵が見えてきた、って感じかぁ……はぁ~」
久しぶりの公務――各防衛圏へ搬出する物資の集積所視察――からの帰り道。馬車の中で考えるのは公務じゃなく、黒幕のことばかり。
考えたところで今はどうにもできないから、ため息しか出てこないんだけど。
「帰ったら、レイアの顔を見て癒さ―――、……っ!?」
突然、馬車が揺れた。それもただ道が悪いからとかそういう揺れ方じゃない。明らかな衝撃の後、僕の乗る客車は45度斜めになっていた。
「(まさか!?)」
王都の門は目の前だ。こんなところでまた魔物の襲撃なのかと一瞬思った。けど何とか態勢をなおして馬車の外を覗くと、そこにいたのは魔物じゃなくって、あからさまな恰好をした集団だった。
「(あの茂みの近くにある地面の焦げた跡は……魔法陣!)」
馬車への衝撃は魔法攻撃だ。
だけどこの世界の魔法はとても手間がかかる。そんなものを用意してた以上、これは計画的な襲撃だ。
『殿下を御守りしろ!! 下郎どもを近づけるな!』
外で護衛の兵士さんが声を張り上げている。
今日の護衛はいつもと違って知り合いの王室派貴族が手配したものの、面識のない新しい私兵達だ。
「(ちょっと頼りないかも……)」
まず護衛対象の僕の安否確認に誰も来ないのはダメでしょ。馬車が傾いたままになるほどの攻撃を受けたっていうのに。
レイアが生まれたこともあっていつもの護衛の兵士さん達は、アイリーンとレイアのためにと判断し、丸々置いてきたのが悔やまれる。
とはいえ、ここまで兵の質に差が出るものだなんて思いもしなかった。僕一人の護衛ならこれで十分かなと思った出かける前の自分の甘さを叱りたい。
「(マズイ……多分コレ、抜かれる……)」
念のために持ってきた護身用の槍。伸縮性のあるソレは、馬車の中で伸ばすのは厳しい。
けどヘカチェリーナのスキルで、突けば1度だけ ” 熟睡 ” を与えられるようにしてもらってきている。連日の赤ちゃんの世話でさすがに疲労がたまっていたところだろうから、効果は確実だと思う。けど、それも1回だけだ。
「(1…2……3……、4……5……あの奥にいる魔法使いっぽい人が魔法陣の起動をしてたとして、……6、7……8………9……人、結構多い)」
全員茶色のマントで首と顔半分、頭を隠しているから人相はよくわからない。けど1人1人の動きが相当いい。よく鍛えられてて護衛の兵士さん3人がかりで1人に当たってるのにまったく倒せる気配もない。
人生で一番の命の危機。まさかこんな突然やってくるなんて。
「(……アイリーン、レイア)」
僕は強く槍を握った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます