第108話 年下の義理姉です
王城がものすごく巨大で広いのには、歴史的な理由があるらしい。
「……つまり当時、魔物が攻め寄せた時に王都の人間を
セレナの話を聞いてアイリーン、エイミー、そしてたまたま通りがかりで同席することになった、宰相の兄上様の第四夫人ルスチアさんが三者三様に反応を示した。
今日はセレナがお城に定期報告に来る日。なので上手く引き留めて時間を作ってもらい、お茶に誘ったんだけどお城について質問したことから、いつの間にかプチ歴史の授業になった。
「このお城そのものが一つの都市みたいなものだったんですね!」
もうかなりお腹も大きいのに、今にも立ち上がって動き回りそうなほど元気なアイリーン。周りでメイドさん達がヒヤヒヤしているから、もうちょっと大人しくお話を聞こうね。
「壮大なのです……それでこんなにも大きなお城を建てられたのですね」
エイミーは当時のロマンに気持ち馳せてる感じで感嘆してる。
「ふーん……じゃ、それなりに頑丈?」
「はい、ルスチア様。おそらくは下手な砦よりも頑強でございましょうね」
なぜかアイリーンの隣で彼女のお腹を優しくさすりながら、疑問を口にしながらもあまり興味なさげなルスチアさん。
何というか、ヘカチェリーナをプロにしたようなギャル感を滲ませてるというか、妙な色気の強さは、出会った頃と変わらず健在―――ううん、10代半ばに入ってさらに磨きがかかってる気がする。
「(一言で言うとしたら、生意気さの失せた地味に真面目で面倒見のいいギャル? ……うん、全然一言で言い表せないや)」
気怠そうな感じで、椅子に肩肘ついて座るのはお行儀悪いはずなんだけど、彼女がやると、妙にしっくりくる不思議。
あと10cm寄せれば隣のアイリーンにもたれかかりそうな体勢だけど、そこは彼女も分っているみたいで、もたれかからないかわりにずっと彼女のお腹を撫で続けてる―――何故に??
「安心させる胎教……みたいな?」
「胎教……ですか」
「そ。本当はあんまさすらない方がいいからサ、ものっそいかるーく触れるか触れないかくらいな感じ。殿下もお腹おっきくなってるの、出来ればあんま触れないほーがいーよ、
ルスチアさんは僕より年下で身長も同じくらい。だけどこう見えて医学(家庭医療?)に少し
「アタシさ、
「そんなスキルを持っていたんですか。それでずっとアイリーンのお腹を……ありがとうございます、ルスチア様」
お茶の席からトイレに立った僕は、廊下で一緒にトイレに向かう彼女から聞いた、撫で続けてた理由に、ほっこりした気持ちになった。
宰相四夫人の中だと、一番不真面目そうな雰囲気のルスチアさんだけど、実はかなり家庭とか家族とか大事にしようっていう感じの人だ。
「(ギャルっぽいけどいい子なんだよね、本当に)」
「んでさ、殿下。今日はアタシ、殿下にちょいお礼いいたかったんだ」
「お礼……ですか?」
はて、何かお礼を言われるようなことってあったかな??
僕が心当たりなくって、首をかしげていると―――
わっし
「!!?」
「コ・レ。けっこー前に、ウチらの旦那様にコツ、教えてくれたっしょ?」
(※「第23話 別後宮の安寧に貢献したのです」参照)
完全に掴まれた。突然のことで僕は混乱する。
「ええ?? ええと……わ、分かりましたからっ、何でわざわざ掴むんですかっ」
お茶してた部屋からトイレまで近いこともあって、周りにメイドさんや兵士さんがいないとはいえ……いや、いないからやったのかもしれないけど。
ヘカチェリーナといい、こういう方向の女性はどうしてこんなに積極的なんだろ。これが肉食系女子っていうやつなのかな?
「お礼? アタシのスキルなら
うーん、やっぱりちょっとだけこのコは苦手かもしれない。
ヘカチェリーナも明け透けないけど、ルスチアさんはそれがちょっと突き抜けて過ぎるというか、いまだに距離感が上手く掴めない。
「元気すぎて困るなら少し、アタシが子種もらっとく? 旦那様の弟なんだし大丈夫しょ」
何が!?
―――いや、ちょっと怖い話だけど、ごく稀にメイドさん達の井戸端会議に耳を澄ませると、そういう話をしてるのを聞いたことがある。
貴族夫人の中には、既に子宝に恵まれてる夫の親族(父や兄弟)相手に、こっそり子作り相手をお願いする人もいるらしい。
第一子を生めば、夫のハーレム内で他の夫人らを押しのけ、強権を振るえるようになるので、そういう不義理な真似をしてまで
確かに夫と血のつながりがある相手の子供なら一見、後継に問題はなさそうに思える。けど、やっぱりドロドロとしたそういう男女の内情は、前世の記憶ある僕としては倫理観が違い過ぎて、なかなか飲み込めない話だ。
「(……いや、ルスチアさんはそんなまでしてそういう後宮権力を欲するようなタイプのひとじゃない。これは―――)」
改めて彼女の表情を見返してみて、僕は軽く疲れた。
……このニヤニヤしてる感じには見覚えがある。
ヘカチェリーナと同じくからかい半分、本気半分―――相手がノってきてもノってこなくてもOKっていうスタンスでの冗談だ。
「ご心配いただきありがとうございます、ですが問題ありません。僕の
うーん、心臓に悪い。
もし、この世界の王侯貴族の、そんな裏の痴情を良しとする感覚や感性だったら、こういう誘いにも簡単に応じちゃってたりしたかもしれない。
そういう意味じゃ、前世の記憶とか持ち越してこの世に生まれた事で、倫理観や常識の違いからブレーキになってる……ケダモノにならずに済んで良かった。
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