第94話 獣人さん達を活用するのです





 一部の獣人さん達を王都に滞在させたのは、他でもないルクートヴァーリングの人々の名誉回復と、獣人種の評判向上のためだ。




「殿下、昨晩のひったくりの件ですが、捕らえた犯行者は軍への引き渡しの手続きを今朝行いました。また本日、新たに食い逃げしようとした者を捕らえ、同じく軍に引き渡しております」

「ご苦労様でしたバルフォメルさん。獣人の皆さんのおかげで今の王都の治安が維持できているといっても過言ではないでしょう、引き続き、よろしくお願い致します」

「ハッ」


 軍の再配備の影響で、王都の治安維持部隊にも異動者がたくさん出た。なので現場である王都内の治安が一時的に低下してしまったんだ。

 王都で獣人の評判をあげる方法を考えていた僕は、そこに目をつけた。


 軍と連携して、治安維持の助っ人として王都内を見回ってもらうようにしたんだ。



「(ちなみに、彼らにはルクートヴァーリングの者だって分かるようにお揃いの腕章を付けてもらってる。自分達から名乗らなくても、あの腕章はどこのかって酒場あたりに軽くウワサを流しとけば……)」

 良いことをして自分達から “ 我ら、ルクヴァールの獣人です、よろしく! ” みたいなのは受け入れられない。よほど人から愛されるような人柄でもない限り、むしろ引かれてしまう。

 しかもルクートヴァーリングっていうだけで、まだ人々の見る目には色眼鏡がかかっちゃうはずだ。


 なら、アピールはせずに身元の分かるものをさりげなく身に着けさせて、その上で良い事を続けさせる。

 見ていた雑踏から “ あの腕章はどこの誰だ? ” という疑問を持つ人が出てくる―――その答えが、治安維持にルクートヴァーリングの獣人たちが協力してるっていうウワサ話へとつながるわけだ。


 そうなれば後は勝手に、王都の民衆の間で彼らの善行と共に、その身元が広まっていくはず。


「(欲を言えばもう一押し欲しいところなんだけどねー)」


 ちなみに先日の離宮は、その獣人さん達の一部に管理維持してもらっている。ただでさえ配置替えで忙しい軍部に兵士さんを回してもらうのは忍びないし、貸しを作ってしまう。


「(こういう時、自分の領地を持ってるっていいよね)」

 ルクートヴァーリング地方から来て王都に留まってる100人の獣人さん達は、いわば僕の配下も同然だ。

 言い方は悪いけど、自由に使える “ 手足 ” があるのは本当にありがたい。

 王城で可愛がられてるだけの僕は、さながら自分じゃ何もできないぬいぐるみだったけど、これからはもっと手広く動けるようになるはずだ。




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 獣人さん達のいいところは、同じ年齢で比べたら普通の人間より体力も身体能力も高いこと。

 成人男性で比べると、例えば狼獣人のウェアウルフは、何の訓練もしてない人でも人間の訓練した兵士さん3人相手にして互角でやり合えるほど強い。



「しかし殿下。その……供回りまで務めさせて頂いてよろしかったのでしょうか?」

「バルフォメルさんにもお話は通してあります。心配いりませんよ、エーデフさん」

 むしろ僕の方が助かる。


 何せこれまではお出かけするってなると、アイリーン or 護衛の兵士さん多数が必須条件だった。

 だけど今、その両方の都合が付けづらい。


 アイリーンはまだ大丈夫だからって、アイアンフッドと直に戦った話が ばぁや の逆鱗に触れたらしく、しばらくの間はお出かけ自粛を申し付けられてしまった。


 護衛の兵士さん達は、軍の配置転換で色々と忙しそうにしていて(ついでにアイアンフッドに遅れを取った話のせいで、猛特訓させられて)、僕のお出かけに付き合ってもらうのが申し訳ない状態だ。


 さすがに護衛なしだと王城から出させてもらえない。個人としては非力王弟な僕。


 だけど強さに関しては言わずもがなな獣人さん達が僕の護衛を務めてくれれば、問題なし。実力は先の魔物の軍団との戦いで証明済みだしね。

 (※「第70話 援軍はビキニアーマーです」参照)




「それに、こうして僕のお供をしてくれれば、獣人の皆さんの身元が確かな事が証明されます。王家直属として人々は見てくれるはず……加えて日頃の王都でのお仕事で、顔を覚えてもらえている方もいらっしゃるでしょう。印象が良くなれば今後にもつながっていきます」

 全ては獣人とルクートヴァーリング地方の人々の評判向上につながることだ。


 僕自身はお飾り偶像でしかないかもだけど、王弟という存在の近くに置かれるということは、それだけで身元確かで信頼できる者達だって見てもらえる。


 ……もっとも、僕自身の評判が悪いと逆効果になっちゃうわけだけど。


「殿下、我々のために……。本当に何から何までありがとうございます」

 付随効果として、僕も獣人さん達からの信頼を得られる。


 戦闘力も証明されてるし、将来的にルクートヴァーリング地方の防衛戦力として活躍してもらえたら上々だ。


「(……といっても、人数が少ないから焼石に水なんだよね。僕の護衛みたいに要人警護とかに就くなら十分だけど、まとまった数の “ 戦力 ” ってなると、うーん)」

 他の領地に移っていったっていう獣人さん達が帰ってきてくれるならともかく、頭数の問題はすごく悩ましいところ。


 人間の兵士さんにしたって多くは正規軍に持っていかれる。

 世の中には軍隊に入らずに魔物と戦う傭兵も多いけど、これを獲得するっていうのも難しい。彼らは自由に個々のペースで戦えるからこそ、安定した国の軍隊じゃなく、自己責任が全ての傭兵を選んでるわけだし。


「(他国に土地を売ろうとしていた人も内側にいるくらいだからなぁ……できればまとまった数の私兵が欲しいとこだけど、これまたアテがないや)」

 いろいろ充実してきたように見えても悩みは消えない。むしろ新しいのが増える。


 考えることが多すぎて頭がショートしそうになった僕は、馬車の外を眺めながら軽く息をふいて、思考を一旦休止した。






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