第45話 クーデター予防接種です
「おお、なんと王弟殿下自ら……ありがとうございます」
「ありがたやありがたや……こんなに良くしてもらえるなんてねぇ」
「ほー、あちらがかの有名な女戦士殿か。ウワサよりも淑やかで美しいな」
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この日、父上様の離宮の片隅が盛り上がっていた。
僕の提案で離宮でも少し離れている、敷地の端の建物が孤児院として運用されることになったんだけど、それに先駆けて催しを行うことにした。
「(炊き出しと
孤児院の開設祝いを名目に民間に寄り添った内容のイベントだ。
とっても盛況で大成功。これなら僕の狙いどおりにいけるはず。
「旦那さま~っ、出品物がすべて売り切れてしまいました~!」
アイリーンにも古物市で売り子をしてもらってる。王室の女性で民衆に露出する人間としては一番バランスがいいし、何より僕のお嫁さんだ。
今回の目的を考えると、僕とセットで人々に認識してもらうのが一番いい。売り子は人々に顔を覚えてもらうのに最適だ。
「補充品があります、エイミーが管理していますので南東の物資集積場所に受け取りにいきましょう、兵士の皆さんも手伝ってください」
「「ハッ! もちろんです殿下っ」」
孤児院、そして民間に寄り添うイベントの開催―――すべては人々の支持を王室に集めるため。
「(ついでに一人でも多く、兵士さん達の忠義心も集められれば……)」
先日の会議でのゴーフル将軍。
彼や彼以外にしたって、万が一にも王国……ひいては王家に反逆しようと軍を立てるような、いわゆるクーデターを考える人間が出てきた時に備えるために、僕は今回の計画を実行した。
……クーデターってつまりは革命。今の体制を倒して新しい体制にっていうわけだけど、その成功には絶対に欠かせないものがある。
それは人々の支持。
「(たくさんの国民が今の王国に不満を抱いていないのに、軍隊でクーデターを起こそうとしたら、それは一方的な暴力だ。そんなことしようとしたら、皆から冷ややかな目で見られるだけで、誰も喜ばない)」
もし力で王家をねじ伏せたって、その後の政治はどうするのか?
前世でも歴史を振り返れば、古い時代から軍事力にモノ言わせて時の政権を打倒した話はいっぱいある。
けどそのあと、安定して平和に国を治められたかといえば……
「(政治能力ある人がたくさん必要だし、国民からのウケも良くないといけない。軍を動かせるってだけで安直に反逆とか失敗フラグもいいとこだし)」
天は二物を与えず。
軍人として優れていても政治に優れてるわけじゃない。その逆もまたしかりだ。
少なくとも僕が見たゴーフル将軍は、軍の指揮官としては優秀なのかもしれないけど、国家っていう複雑な大組織の一番上に立てるタイプの人間じゃない。
なので僕が今、予防的に打てる一番の手が人々の支持や人気を得ることだ。
「(加えて孤児院。魔物の被害で親を失った子供を保護する施設を王家で運営すれば……)」
この世界、人類にとって最大の敵は魔物たちだ。
そんな魔物から国を守るのが軍隊なわけだけれど、彼らがどんなに頑張ったって被害をゼロにはできない。不幸な子供達を保護して育てる孤児院運営は、世間には好印象で受け入れられる一手になる。
「(現場にもこうして僕とアイリーンがやってきて、近い距離で親身に接すれば……)」
王室に対する国民の好感度も上がる。
もしもそんな王室を悪しき連中だーとか声高々に叫ぶようなのが出て来ても、そういう声になびく人が少なければ問題にならない。
「(結局クーデターが成功するのって、誰かが何か言わなくってもみんなが皆、ハッキリとわかってるくらい腐敗したりダメになってる状態だからこそ、民衆も立ち上がる改革者に賛同するわけで……)」
要は国を回す王家がまともに頑張っていれば、反旗を翻す人間が出てきたところでそうそう革命なんてうまくいくはずもないんだ。
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「お疲れ様です。今日は僕のワガママでかり出してしまい、申し訳ありません。兵士の皆さんもお手伝いいただいて、ありがとうございました」
「いえいえ」
「殿下のお頼みでしたらこっちはいつでもOKですよ」
「楽しかったですし、こういう手伝いは大歓迎でさぁ」
兵士さん達にも好評―――僕は心の中でよしって拳を握った。
「殿下、
「父上様が? 分かりました、すぐにそちらに―――」
「向かう必要はないぞ、我が息子よ。こちらに来たからの、ほっほ」
僕はほとんど反射的にその場で片ヒザをついた。兵士さん達も慌ててヒザをついて頭を下げる。
隠居したといっても、この国の前王だった父上様だ。実権はほとんど何も残っていなくっても、実質この国で一番偉くて尊い人。
僕も、今回のお願いを聞き入れてくださった恩もあるのでしっかりと頭を下げる。
「良い良い、そうかしこまるな皆の衆。かように良き催し終えし日じゃ、礼儀の粗雑も許すぞ。楽にするがよい」
流石は父上様。王様を務めた経験は伊達じゃない。
にこやかに立ってるだけの好々爺っぽいのに、語る姿には威厳がにじんでる。
「(本当にすごい人を前にすると、何も言わなくったって頭を下げたくなるんだなー、僕もこんな風になれるのかな?)」
母上様と比べると、普段はあまり影響力を感じない父上様。
だけど、夕暮れの茜に照らされてる御姿に、やっぱりこの人は王家の頂点なんだって、ひしひしと感じさせられた。
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