第04話 魔物退治を見学です



 本当ならこういう事は危険なので連れてってはもらえない。


 でも僕がお願いすると、兄上達は難しい顔で相談しながら、最後にはなんだかんだで許可してくれた。



「(僕の将来に向けて……だよね、やっぱり)」

 前の王である父上の子の僕たち3人が国の一番上を固める――――だから可愛がってくれていても、将来に必要な学びの機会として、今回の僕のお願いをきき入れてくれた。


 そのお願いは、魔物退治を見学すること。話に聞いているだけで、普段お城から出られない僕は見た事がない。前々から、ちゃんと見ておきたいって思ってたんだ。



「ねぇアイリーン。今回はどんな魔物を倒しにいくの?」

「はいっ、旦那様! ご心配は無用です、この妻たる私が命に代えてもお守りいたしますのでどうがご安心をっ!」

 鼻息がとても荒い。


 アイリーンは自分の領分だからなんだろう、今日はすごく張り切ってる。僕の質問もきっとキチンと聞こえていなかったに違いない。


「うん、ありがとうねアイリーン。……ねぇねぇ、隊長さん」

「ハッ! 本日の討伐対象は、王国領下の村を襲撃した “ ライガルオ ” という二足歩行する獅子の如き魔物の群れでございます、王弟殿下」

 こちらはキチンと僕の聞きたい事を分かってくれていた。この隊長さん以下50人の騎兵が今、僕の乗ってる馬車の周りを囲むようにして移動している。


 うん、とっても頼もしい。さすが兄上がつけてくれた部隊だ。

 

 馬車の中は隊長さんとアイリーン、そしていつも僕の身の回りの世話をしてくれる僕よりも小柄な猫獣人メイドさんの3人が乗ってる。

 おかげで僕は道中、とても安心していた。



 けどそういう時に限って―――っていうありがちな事は、本当に起こるんだってこの日学ぶ事になった。


  ・

  ・

  ・


 それは討伐対象の魔物が襲ったという村までもう少しのところで起った。


 キィンッ!! ガキッ!


『殿下をお守りしろ!』

『最低3人で連携してかかれ! コイツの爪は鉄より硬い…可能な限りかわすか受け流すんだ!!』


 獅子魔人ライガルオが10体、道の脇の木々の間から奇襲してきた。


 最初の衝突で、僕が乗っていた馬車が横に倒れた。アイリーンが馬車の窓から剣を外へ突き出してなかったら、馬車ごと切り裂かれてたかもしれない。



 そこからは乱戦。

 

 アイリーンも横転した馬車を足場にするように上に乗って、兵士達を抜けてきたライガルオから馬車の中の僕を守っている。

 隊長さんは僕に自分の兜を被せ、盾を布団のようにかけて渡すと、ここでじっとしていてくださいと頼もしい笑顔を浮かべて馬車の外へ飛び出していった。


 ギィンッ!! ガガッ、ガキッ……ン!!



「(アイリーンがいるから大丈夫…だと思うけれど…)」

 見上げると馬車の側面の窓から空が見えた。

 そしてアイリーンの下半身も見える――――ちょうど下から覗き込んでる感じで、彼女の股間も丸見え。

 不謹慎。視線を逸らすべきだと自問自答してると、アイリーンの方が馬車の上から飛び出していって窓の外は一面の空だけになった。


 ザシュウッ!!

 タッ


 …かと思うと、何かを斬った音の後に再びアイリーンが同じ位置に戻ってきた。どうやらあくまで馬車の上を定位置にして戦ってるみたい。彼女の剣には血がついていた。


「(僕を守るのが第一だし、アイリーンなら一人で十分護衛できる。他の兵士さん達はアイリーンに僕を任せておけるし、全力で魔物を倒しにいけるんだ)」

 ふと見ると僕の隣で世話役のメイドさんが震えてる。

 僕は隊長さんの盾をズラして、メイドさんを覆いの中に入れた。上から見られたら一緒に布団の中で寝てるみたいに見えるかもしれない。


「殿下…あ、ありがとうございますっ」

 僕はニコっと笑顔だけ返す。

 このメイドさんは既に僕のもの・・・・にし終えているれど、心を掴むことはいくらでもしておくべきだ、将来のために。


「(ちょっと打算的…かなぁ?)」

 そんな風に考えてちょっぴり罪悪感を感じていると、馬車の外が静かになった。






 20分後。


 僕たちはライガルオの群れに襲われた村に着いた。魔物が中にいるかもしれないから、村の入り口から30mくらいの、少しだけ高くなっているところで村の様子を見てる。


「……残念ですが村人は全滅しているようです。まだ中に何体か闊歩しているのが見えました。建物の中にいる可能性も考慮しますと、まだ10体以上いる可能性があります」

 木の上に登っていた兵士さんが降りてきながらそう隊長さんに伝える。


「殿下、いかがいたしましょう?」

 ここで僕に聞いてくるのは、この場で一番偉い立場は僕だからだ。


「うん……と、僕とメイドさん、それと兵士さん5人くらいをここに残して、アイリーンと残りの兵士さん達で村の中の魔物を退治する…っていうのはどうですか? アイリーンは僕のお嫁さんだけれどすごく強いし、僕のおりより、魔物をやっつける方に行ってもらった方が早く終わると思うんです。どうかな?」

 僕の言葉に、アイリーンは目に見えてショックを受けているようだった。僕から離れたくなくて出来る限り一緒にいたいから、というのが丸わかりだ。


 一方で隊長さんや兵士の皆さんは、僕の意見に力強く頷いてくれた。


「さすがです殿下。そのお歳で素晴らしいご判断にございます。では、アイリーン殿をお借りし、早急に魔物どもを退治してまいりましょう。…お前達は殿下を御守りせよ! 先のような事もある、周囲への警戒は決して怠るなっ」


 こうして僕の魔物退治見学は、多少怖かったシーンもあったけれどおおむね問題なく終える事が出来た。


「(でも…やっぱり少し鍛えようかなぁ)」

 積極的に戦いたくはないけれど、相手から迫ってこられた時にアイリーンに頼よるだけじゃやっぱり危ないと身に染みて思った。


 僕は帰りの馬車の中でそんな事を考えていたからか、その日の夜は剣の練習をする夢を見た。





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