020113【昔のこと】

 産まれる前から虐待を受けていた。

 産まれる前と書いたのは、母のお腹の中にいる時に父親がそのお腹を蹴って私の頭がひどく腫れた事があったためだ。

 私の父親は酒癖がひどく悪かった。

 大抵こういった場合は、飲んでいない時は温厚な父親で、お酒が入ると豹変するのが一般的である。しかし、私の父親はただでさえ暴力的な上、酒が入るとそれに拍車がかかるときたものだから余計厄介であった。

 ある夜、いつも通り、小学生の私は父親が帰る前に自室で眠っていた。

 インターホンがいつものように連打され、家族の皆が起きた。鍵は持っているはずだが、父親は必ず誰かに開けさせなければ気が済まない。私は息を殺して寝たふりをした。

 しばらく玄関付近で大声を出して騒いだ後、父親が私の部屋に入ってくる音が聞こえた。

 まだ眠ったふりをする。

 金属音が部屋に響いた。私はその高い金属音が忘れられなくなる。

 父親は無言だ。

 そして、数秒経った時、足元から火が上がった。

 父親はライターで私の寝ている布団に火をつけた。

 慌てて私は布団から飛び起き、急いで逃げた。

 母親が慌てて火を消した。

 父親は子供のようにけらけらと笑っていた。

 幸い、火傷はなかったが、いつか殺される恐怖でいっぱいだった。

 その他にも、毎日のように平手打ちをされ、雷雨の日にアスファルトの上で何時間も正座をさせられたりと今では考えられない事が続いた。

 私はあの時、確かに絶望の淵にいた。

 誰からの助けもなく、もうダメかと何度も思った。

 けれど、そんな私でも、今は幸せだ。

 気持ちが痛いほど分かるが故に完全に否定は出来ないけれど、負けてはいけない。

 成人式の今日、残念ながら自死を選ぶ学生の事を考えながら昔のことを思い出していた。

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