ぼっちのくせにギャルと喧嘩しちゃいました
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プロローグ
ことの始まりは二年生に進級し、最初の席替えでそいつが隣に来てしまったことだ。
隣にきたその女子は、見た目は金髪ギャル。そして顔立ちはかなり整っており、スタイルもいい。名前は知らない。
というか、クラスメイトの大部分の名前を知らない。
俺は学校では常に一人でいるぼっち。
見た目は細身で、髪は長めで眼鏡なんかかけて完全にオタク。
休み時間に話しかけてくる友人もいない。
でもそんなことは別にいいと思っている。だって友達とか付き合いとか面倒臭いし。
窓際の前から四番目が俺で、右隣がその金髪ギャルだ。
席替えが終わってすぐの休み時間。
「この前カレシがさー」
「きゃははっ。何それー? ウケるー」
彼女の友達が近くに来て、自分の彼氏のことを話しているようだ。
ちらっと右隣を見る。
友達の方はショートの茶髪で、やはりギャルっぽい。シャツのボタンもいくつか開けており、豊満な胸の谷間が見えそう。スカートも短め。
金髪ギャルの前の席の机に腰掛け、ブレザーのポケットに両手を突っ込みながら、後ろの席の彼女にペラペラと話している。
金髪のほうは聞き役って感じ。
「で、何かあいつが寝てる隙にスマホを見ようとしたら、がばっと起きてめちゃ怒りだしたの」
「あははっ。あやしー」
「やっぱりあいつ浮気してるのかも」
「そうかもね。もし浮気してたらどうするの?」
「そしたら私も浮気し返してやるんだから!」
アホくさ。この茶髪女、浮気し返すって何なの?
たまにそういうことを言う女がいるのは知っているが、本当に可愛くないと思う。
話の内容もとにかくビッチっぽい。特にこういう遊んでそうな女は、だいたい話している内容が男のことだ。
「ねー。てか隣のやつめちゃ暗そー。玲華、ハズレじゃん?」
これ多分、っていうか絶対俺のことだ。
酷い言い草。
「そうかもー。祐美は?」
「私は真人君の隣だよー」
「いいなー! 替わって」
「むりー!」
「きゃははっ」と笑うギャル二人。
いや、傷付くんですけど!?
何で横でボケっとしてるだけの俺が傷付かないといけないの?
こいつらは敵だ。本能がそう言っている。
茶髪のショートが祐美。隣の席の金髪ロングが玲華という名前らしい。
「こいつ、何かうちらのこと睨んでない?」
「うわ、ほんとだー」
いつのまにか二人に視線を向けてしまっていた。
俺はあまり目を見られたくないので、眼鏡もしているし一応長い前髪で隠している。それなのに視線がバレてしまったらしい。
「何? 何か文句あるの?」
茶髪ギャルの祐美が威嚇するように尋ねてきた。
しつこいな。視線は逸らしたのに。
「いや、別にないけど」
「あ、そう。じゃあ睨むのやめてくんない?」
「わかりました」
「ちょっと祐美、脅かし過ぎだよ。可哀想じゃん」
金髪ギャルの玲華は気を使えるやつなのかもしれない。茶髪の祐美のように絡んでも来ないし、まだマシだ。
「私こういうオタクぽいやつ嫌いなのよね! 暗いしどうせ童貞なんでしょ」
くっ。泣くな、俺。当たってるけど!
「いや、それ見たまんまじゃん」
そう言って笑う金髪ギャル。
前言撤回。
こいつら、絶対許さない。
そう思っていると、また二人を睨んでしまった。
「何? 何か言いたいことがあるなら言えば?」
「このビッチが」
あ、しまった。言いたいこと言っちゃった。
「はあ? 玲華、聞いた? 今超悪口言われたんだけど」
「そ、そうだね」
「言ったよ。言いたいこと言えって言うから」
また口が勝手に。
金髪の玲華は驚いたような表情で俺を見ており、茶髪の祐美はわかりやすく敵意を表している。
「は? 喧嘩売ってんの?」
「売ってんのはどうみてもお前だろが」
頬杖をつきながら、誰もいない前方に視線を向ける。
何かいらいらしてきたぞ。
この茶髪ギャル、めちゃくちゃ絡んでくるし。しかもウザい絡み。
「ちょっとあんた、こっち見て話しなよ」
そう言って茶髪ギャルの祐美が俺の眼鏡に手を伸ばす。俺の態度にムカついたらしい。
「やめろ」
彼女の手が触れる直前、パシっとその手をはたいた。
「痛っ。何すんのこいつ?」
「いや、お前が何すんの?」
「何こいつ、きも! 何で反抗的なの?」
「悪いか? てかウザいんだよ、お前はさっきから」
もう止まれない。
てかそりゃ反抗しちゃうよね。俺悪くないんだもん。
何か周りから視線も感じるし少しざわついている。俺たちが言い争ってるせいだろな。
「あ? 普通に喋ってるだけじゃん! 何が悪いの?」
「どこが。眼鏡取ろうとしたし、俺のこと何か言ってただろが」
「ぷっ。もしかして童貞って図星なこと言われてキレちゃったの? ださー!」
くっ、ムカつく。マジで。
「ビッチ女!」
「は? 童貞よりマシでしょ」
え、そうなの?
まあそうなのかも。
ビッチより下とは大分やばいな、童貞って。
あからさまに俺をバカにし、喧嘩腰の態度を取る祐美のそばでは、金髪の玲華が唖然となっている。根暗でオタクの俺が反抗したからかもしれない。
しかし特に絡んでこない金髪の玲華はともかく、この茶髪のほうは許せない。童貞の敵だ。
俺は立ち上がり、世の中の童貞たちのために茶髪ギャルに人差し指を向けて言う。
「お前いい加減黙れよ。つーかどうせお前みたいな女は、ヤンキー男に『俺が一生お前を守ってやるから』とかテンプレみたいなフカシこかれて、コロッと惚れてすぐヤらせるんだろが。そんなことだからすぐに浮気されるんだよ。浮気相手も同じセリフで引っかかったバカ女だろな!」
言ってしまった。
これはさすがに言い過ぎたかな。後が怖いかもしれない。
いじめられたらどらいもんに泣きつこう。
金髪ギャルの玲華は唖然。
周りのクラスメイトたちも驚いたのか静まり返っている。
「……」
あれ? 言い返してこないな。どうしたんだろ。
俺は茶髪ギャル祐美の顔をまじまじと見る。
うわっ。何か涙目になってる!
何? もしかして図星だったの?
何となく笑えない。
「あ、いや。ごめんね、つい。悪気はなかったというか」
ちょっと謝ってみた。
「……」
茶髪ギャルの祐美は涙目で俺を睨んだまま。怒りは収まらない模様。謝ったのに。
「えっと、チョコレート食べる? 悲しいときは甘いものを食べるといいよ。知らないけど」
「……」
フォローなんだけど適当過ぎたかな。
一応机の脇に掛けてあったカバンの中を見る。
「あ、今チョコレート持ってなかったわ。まあ売店に売ってると思うし、今から買ってきたら? 百円くらいだし」
あ、茶髪ギャルの祐美がプルプルしてる。
何か出るのかな? とか思って見てると、
ばちん!!
思いっきりビンタされた。痛い!
え、つーかこいつめっちゃ泣いてるじゃん。マジ?
「最低! このオタク童貞根暗野郎!」
そう叫ぶと、茶髪ギャルの祐美は目をこすりながら、バタバタと教室を出てどこかへ行ってしまった。
「えぇ……」
俺は痛む頬を抑えながら、呆然と立ち尽くす。
え、俺が悪いの?
何か俺が酷いことをして女の子を泣かせたみたいになってるんだけど。
めちゃくちゃクラスメイトから注目されてるし、この視線は絶対やばいやつ認定されてる。
まあ、別にいいか。もともと友達なんていないから。
「ぷっ」
隣の金髪ギャル玲華が吹き出した。
あ、今笑える感じだったんだ。良かった。
その割にはクラスメイトからの視線が冷たいけど。
まあいいや。また寝たフリでもしてほとぼりが冷めるのを待とう。
そう考えて何食わぬ顔で腰を下ろす。
机に顔を伏せていると、次の授業が始まった。
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