3話:滑稽譚

「で、なんで東京へ行ったの?」


後から聞いた話では、日本橋の方のビルの影で頭から血を流して倒れているところを通りかかった女性の方が救急車を呼んでくれたらしいのです。

なんでそんな場所で倒れていたのかここら辺の前後がすっぽり抜けているから説明のしようも有りませんが、医者からはてんかん発作という診断をされました。

しかし実家に大量のデパケンが余っていますが、これ以前にもてんかん発作を起こした事が無いので馬鹿らしくて飲まなくなっちゃった。


目が覚めた時には親がいたと思うのですが、身分証等は捨てた覚えが確かに有るんです。

どうやって連絡が取れたかと言うと、鞄の外ポケットに入れていた、小学生の頃パソコンの授業で作った名刺が入っていてそこから身元が割れたとの事。

自分で書いていても未だにそんな馬鹿なと思うんですから、これ読んでる方はもっと嘘くさく感じるでしょう。


兎にも角にもなんの”因果“か助かり、脳挫傷との診断を受け大阪に戻る事になりました。



「で、なんで東京へ行ったの?」


自分自身で悲劇を作り上げる為じゃ無いですか?

前話で述べたように、当時の私には路上で寝ている小人症のおばさんへの憧れがあった。

浮浪者、乞食、虐げられた人達への憧れが。

しかし浮浪者や小人症と言うといかにも悲劇的に聞こえるけども、彼らの声は聞いていなかった。


ゲイや売春や障害者と言うといかにもこう社会に蔑まれた日陰者のような言葉に聞こえるけども、私自身その事で悩んだ事が一度も無い。

去年だか一昨年だか友人にゲイである事を相談して自殺してしまった男子高校生はいましたが、逆に言えばそのゲイの男子高校生以外は自殺していないのです。(ゲイがしょっちゅう自殺しているなら、そもそもニュースにもならんでしょうから。

事実、アフリカの子供が1秒に1人死んだだの言われたって、一々ニュースにならんでしょう?それこそ最たる例だ。)


実際出会い系だウリセンだゲイバーだで出会ったゲイや娼婦の方に、自殺する程悩んでいる人は見た事がない。



思い返すと案外気楽に暮らしてきて、今も気楽に暮らせている、ただそうするとどうも自分が満足出来ないらしい。

だから自分自身で悲劇を演出する為に東京へ行き落ちぶれようとする。

“奇跡”と書かずに“因果”と書いたのは、その時に死んでいればまだ(私の中では)悲劇的だったからでしょう。

しかし...私は当時の私を好きになれない。狂言自殺、そんな自己陶酔のオナニーは一生一人でやってろ!

この狂言自殺の、自己陶酔のオナニーの代償は脳挫傷でしょう。


しかし、実を言うと代償すら払わせてくれてないのです。だってこれには何の意味も無いから。

その証拠に脳挫傷で高次脳機能障害となり、一時期嗅覚が効かなくなった時も、案外それはそれで「公衆便所の匂いを嗅がなくて楽」

などと書いているのですから。



だからこれは滑稽譚にしかならない。

ただそこに理屈を付けるとするなら、ゲイも売春婦も障害者も意外と悩んでいないし気楽にやってるから、当時の私が道端で寝ていた小人症の老婆を見たような目で見ないでくれ、それだけです。

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