希望

魔王デューエルの宣戦布告を受けてからすぐに俺達は、ロンフーと神官長達と合流し大神官の執務室に集まった。


かなり広い部屋の真ん中にある応接セットのソファにそれぞれ座る。


ソファの真ん中に俺。左右にミレーヌとフィルが座る。両手に花だが流石に今の状況では素直に喜べないな。


当然ながら、皆かなり事態を重く受け止めており、

暗い顔をしている。




「やはり皆様はお逃げ下さい。神殿には私が残りましょう。」


さっきからフィルは大神官として最後まで責務を全うすると言い張っている。

それを神官長と生き残った神殿騎士2名が止めている状況だ。



「何を仰います!神殿を守護するのは我等が役割!」

「先の戦いではおめおめと生き残りましたが、2度目はございません!」

「やはり化物たる大神官様には人の心は分からないのですかな?大神官の職を退いて、私に全てを任せてシュウ殿と逃げられるのが良いでしょう。」


神官長なんかさっきからツンデレ全開である。



「やっぱり逃げるしか――。え?お、お父さん?」


ん?不意にミレーヌに声を掛けられた。

どうしたんだろう?


眉をひそめ、訝しげな顔でこちらを見てくる。


もしかして加齢臭が臭ったのだろうか?

普段は臭いを気にして念入りに洗うのだが、よくよく考えれば法の神殿解放の為に奔走していたのでお風呂に入れていない·····。



「私はその匂いは嫌いではありませんが、そうではありません。ミレーヌはこの絶望的な状況で、何故シュウ様が笑っているのかを知りたいのです。」


「そ、そうだよ!お父さん!何でそんな嬉しそうなの?あ、後、私もお父さん臭いは落ち着くから好き!」



「あ、あぁ。ありがとう?あー。笑っていたのはあれだ。手間が省けて楽で良いからだ。」



俺の発言がよっぽど衝撃的だったのか、ミレーヌとフィル2人との絡みを見て舌打ちをしていたロンフー達が目を見開く。


「だ、旦那!マジで言っているんですか!?」

「そ、そうだ!シュウ殿!100万の大軍ですぞ?」



ロンフー。お前はもっと自分のレベルを自覚しろ。


デモクエ廃人からすると、いきなりレベル99で魔王が皆揃って攻めてくる最速クリアイベントとか小躍りするに決まっているだろ。


彼奴らを倒そうとすると、海に深海に空、極めつけは異世界と、どれだけ冒険しないといけないと思ってるんだ!


100万の大軍?


推定レベル50以下のミレーヌの弟のアンディ1人で10万の大軍を瞬殺したし、勇者パーティー5人と魔物3匹で倒したりしてる程度だ。


10倍になろうとも、レベル99の俺が倒せない道理はないだろ。


まぁどちらも漫画の話だが。

ロト紋面白いよね。



そう。実は100万の魔物の軍団と4柱の魔王と言うのはあまり気にしていない。


しかし問題もある。

大魔王の『暗黒の衣』が剥がせないのである。


デモクエのラスボスたる大魔王には『暗黒の衣』と言う攻撃を無効化するスキルがある。


それを剥がす『輝光の珠』と言うアイテムがあるのだが、デモクエ6にはない。


あるにはあるがストーリー展開上、珠は砕かれるのだ。


その代わり仲間の1人が覚える最強魔法『テラマダン』を使い、『暗黒の衣』ごと大魔王デッドムーアをぶっ飛ばし、その後通常戦闘で倒すと言う流れになっている。



つまり、最大の問題は時間なのだ。


『輝光の珠』を探すにしろ最強魔法『テラマダン』を覚えるにしろ、場所が遠い。

珠は天空の城でテラマダンは魔法学園だ。


現在は移動手段が基本的に徒歩しかないので15日で往復するのは少々心許ない。


となれば村人スキルの『大地の祝福』だが·····。


悪くはないが、効果時間が限られている為、倒すには時間が掛かるし、俺1人やミレーヌと2人だと流石にちょっとキツい。


俺にだけ向かって来てくれるなら楽だが、法の神殿や村等、広域に攻め込まれるとちょっと辛い。


頭数がいるな·····。

出来れば他にも戦える何か手段が欲しい。


いや、待てよ?

隠しダンジョンと言う手があるな。



「シュウ様のお考え通りです。」


横を向くとすぐ目の前にフィルの顔があった。


近い近い近い!

そして何だかとても良い匂いがする。



「祭壇にある燭台を灯すには、指定はありませんが18の職全てを極める必要があります。そして、それはただ1人で極めなければなりません。全ての燭台を灯せば、封印されたダンジョンへの扉が開くと言われております。」



よし。いいぞ!

デモクエ6では、パーティ全員で全ての職をマスターすると言う条件だったので、隠し職業も極める必要があった。


だが、この世界では職業の数が増えた為か、職業の指定が消えている!

その代わり俺一人で18の職業をマスターと言う条件は増えているが、全ての職業は極めるつもりだったので問題ない。



「よし。作戦は決まった。15日以内に18個の職業をマスターし、封印されたダンジョンを踏破して、その最奥にいる戦神ブラックドレアムを倒すぞ。」


「さ、流石ですね。旦那。頑張って下さい·····。」


何やら他人事で済まそうとしているロンフーに冷たく言い放つ。


「馬鹿か。お前もやるんだよ。吹き溜まりの村の連中も巻き込むぞ、今すくアイツらをまとめろ。」


「!?」


あまり不特定多数に力を与え過ぎるのは良くないとロンフーに折角もらったアドバイスだったが、事ここに来てしまってはしょうがないな。


「この15日間でお前達を鍛え上げる。幸い転職も解禁されたからな。すぐに魔王クラスを倒せるくらいにはしてやる。」


確か、デモクエ1の最速クリアタイムが45分5秒だったかな?


15日あれば余裕余裕!

自分、勇者育てるのには自信あるんで!


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