とある祝福の聖騎士の独り言

ベリーオラトリオの入口に朝の爽やかな風が吹き抜ける。


あの人はいつもの豪奢な鎧の上からマントを羽織っている。

『魔法の袋 』には食料やテント、様々な度の支度が入っている。

昨日のうちに2人で買いに行った物だ。




シュウさんからは昨日倒した強大な魔物の事は、騒ぎにしたくないので誰にも言わないで欲しいと言われた。


聞けば、あれは魔王と言われる魔物達の王らしい。

そして魔王は少なくとも10体以上いるそうだ。


魔王を倒す宿命を持った勇者もいるのだが、まだ目覚めていない可能性があり、シュウさんはそれを確かめたいみたいだ。


神父であるお父さんのお告げに従い、方角は東。

森を抜け、カーサブランカの国を通り、砂漠に入り、カルカナの街のまだ向こう。

転職を司る『 法の神殿』だ。



『 村人』である今の私の体力では砂漠は越えられないだろう。






「もう、行っちゃうんですね。」


あぁ。私は何て浅ましいんだろう。

こう言って優しいシュウさんの気を引こうとしている。


「·····ああ。名残惜しいがな。」



折角誘ってくれたのを断った癖に。

足手まといになるからと、貴方の負担になりたくないと、分かった顔をした癖に。本当は一緒に行きたい癖に。自分の傍から離れて欲しくない癖に。

心がどんどんささくれ立って来る。



「また、会いに来るよ。」



その一言で心の何かが溢れ出した。


ただ心のままシュウさんに抱きつき、

背伸びをして口付けをした。



「私、シュウさんが好きです。」


その一言を告げた瞬間、もう止まれなかった。



「シュウさんは私の人生の中で、誰よりも優しくて、私の事を誰よりも認めてくれました。」


大丈夫か。流石リリーだ。宜しく頼む。

口数は少ないが、いつもシュウさんは私が欲しかった言葉をくれる。


両親の様な罵倒でもない。

周りの冒険者達の様な嘲笑でもない。

孤児院の大人達の様に憐憫でもない。


ただ真っ直ぐに私を見てくれた。



「こんな弱い私でもやれるんだって、戦えるんだって、教えてくれました。」


シュウさんと一緒に戦った最後の日。

無我夢中で使った初めてのスキル。

あの高揚感と達成感を私は二度と忘れないだろう。



「今はまだ連れて行ってとは言えません。でも、必ず追いつきます。」



だから、私の事を·····忘れないで下さい。




ポンっとシュウさんが私の頭を撫でる。

大きくてガッシリした、でも優しい手だ。


あぁ。駄目だ。涙が止まらない。



「あぁ。先に行って待ってるよ。リリー。

ゆっくりでも良いから、必ず追いついておいで。」


「は゛い゛!!必ず追いつきます!」





祝福の聖騎士と呼ばれた私が、シュウさんと再び出会うのは、もう少し後の物語だ。



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