レベル上げ
レベルと言う概念を広く普及させたのはデモクエと言っても過言ではない。
戦えば経験値を得て、一定以上になればレベルが上がる。レベルがあがればステータスが上がり強くなる。
今やゲームの常識となったこのシステムを構築したのはデモクエではないが、広く普及させたのは間違いなくデモクエであろう。
しかし。悲しいかなあくまでも人が作ったシステム。
当然、欠陥がある。
所謂バグである。
「うひゃあああああああああああ!!」
本日何度目かになる『
彼女はこのままベリーオラトリオの町外れまで飛ばされる。
「よし。逃げるか。」
目の前にいる三体のスライムを後目に俺は一目散に逃げ出した。
このバグ技はデモクエ3で使える『 幸福の靴』と『
因みに、俺は魔法を覚えていないので、『 魔鳥の翼』を使っている。この街の道具屋で250ゴルド。端金だ。
レベルを上げたいキャラAと、キャラAの現在の経験値よりも、次のレベルまでに必要な経験値が低いキャラBを用意する。
まず、キャラAには『 幸福の靴』を装備させる。
戦闘中にキャラBを強制転移させるとバグが発生し、キャラBの経験値テーブルがキャラAに反映される。
そうすると、キャラAの次のレベルまでの経験値のデータがキャラBのものに置き換わってしまい、その結果、キャラAの経験値が次のレベルまでの経験値に達したと判断されて、レベルが上がる。
だが、このズレは戦闘終了時に経験値が入ると修正されるため、倒さずに逃げる必要がある。
つまり、俺達は朝から街の付近で魔物を探し、戦闘になった瞬間にリリー《生贄》を街まで吹っ飛ばし、俺は一目散に逃げると言う謎の行動を繰り返している訳だ。
「どうだ?怪我なんかはしてないか?体調は大丈夫か?」
街の入口で待機していたリリーに声を掛ける。
昨日のうちに大量の薬草を使い、リリーの傷自体は既に完治させた。
病み上がりなのに元気いっぱいだ。
これが若さか·····。
それに、うむ。やはり包帯がない方が可愛い。
「ええ、大丈夫です!まだまだ行けますよ!」
口調は元気だが、かなり目が座っている。
ゲームではただの作業でしかないが、実際に空を飛ぶとなるとかなり精神力を損耗する様だ。
数キロ単位で吹っ飛ばされる訳だからさもありなん。
「空を飛ぶのはかなり怖いですが、着地の時は減速されますし、体力的にはまだまだ大丈夫です!」
実に健気な子だ。
詳しく話を聞いてこないのも助かる。
傍目から見ると全く意味の無い嫌がらせをしている様にしか見えないしな。
「よし。ならこのまま続けよう。大変だと思うが宜しく頼む。」
「はい!」
最終的に50回以上リリーは空を飛ぶこととなった。
うん。ボーナスは弾むべきだな。
取り敢えず、ルイーゼの酒場のマスターには追加で給料を渡すように言っておくか。
「ふむ。今日はこれくらいにしとこう。」
「はあっはあっはあっ、あ、ありがとうございました!」
夕暮れのベリーオラトリオの街の入口は外から帰る冒険者でごった返していた。
「教会に行きたいから、飯は適当に食べててくれ。
また明日も頼む。」
軍資金に500ゴルド程渡す。
「こ、こんなに貰えませんよ!」
慌てて受け取りを拒否するリリー。
気分は援交を持ちかけたオヤジの気分だ。
ええんやでええんやで!おっちゃん金持ちなんや!
「1度出した金を財布に戻す気はないな。」
「·····で、では、このお金を教会の孤児院に寄付させて頂けないでしょうか?とても厚かましい事を言っているとは思いますけど、是非お願いします!」
どうにもこの子と話していると自分が薄汚れた大人だと再認識してしまう·····。
リリーが聖女過ぎて辛い。
「好きにすると良い。その代わり、その金で飯はしっかり食べろ。残ったら好きに使え。明日もこの調子で頼む。」
いっぱい食べるんやで!
若いんやからもっとワガママ言うたらええんやで!
頭の中の惨状を顔には一切出さずにクールに決める。
大人になるってきっとこう言う事だ。
ちらっとリリーを見ると、目に涙を浮かべ、深く頭を下げていた。
何だか気恥ずかしくなって来たので、無言で逃げるように教会に向かってしまった。
バグ技を駆使して荒稼ぎして、貧困美少女にお金を渡してドヤ顔なんて、流石に面の皮が厚すぎるってもんだ。
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