祝福の聖騎士
異世界転移
高山 周平(42)
中小企業に務めるサラリーマン。
両親は大往生で他界。
兄弟もなく、親戚付き合いもなく、また親しい友人もない。
自分で言っていて泣きたくなるレベルで孤独である。
会社での評判自体は良好。
年齢相応の管理職についており、それなりに稼ぎもある。
比較的高身長でガタイも良く、割と面倒見の良い方だとは思う。そのせいか、割と仕事を頼まれたり相談されたりするのが嬉しくもあり、面倒でもある。
なるべく残業をせずに仕事をこなし、好きなゲームをダラダラとやり込んで行く事を目標に生きる日々だ。
昨日の夜も酒を飲みながらデモクエ5を攻略しながら寝落ちしてしまった。
朝起きて今日から1週間が始まるな、と身支度を整え、家の玄関ドアを開けた瞬間。
俺は見知らぬ草原に立っていた。
どうやら俺のワンルームの玄関ドアは、実はどこでもドアだった様だ。
オラ!出て来い管理会社!
さっさとこのドアと俺の会社を繋げるんだよ!
·····おーけー。先ずは落ち着こう。
まだ慌てる時間じゃない。
見渡す限り、青々とした草原が広がっている。
遠くの方には森が見え、その近くを川が流れている。
人は··········いなさそうだ。
そして玄関ドアを探す。
当然ない。
おらぁん!出て来い大家ぁ!
何の為にお歳暮やらお中元やら送ってると思ってんだ!
いや、ホント何なんですか!?これ!?
弱音を頭の中で盛大に吐いてから気持ちを切り替える。
自慢ではないが、どこぞの手フェチの殺人鬼バリに目立たず、植物の様にノンストレスで生きて来た俺だ。
この程度の気持ちの切り替えは必須スキルだ。
さっさと帰ってゲームがしたい!
五分ほど歩いて行くと、目の前に青いプルプルとした塊が近づいて来た。
こ、こいつは·····!
スライム!スライムじゃないか!!
「どういう事だ?こいつは紛れもなくスライム·····。まるでゲームの中に入ったかのような·····。」
課長っていつも落ち着いてますよねーと、パートのオバチャンからよく言われるのは伊達ではない。
どれだけ内心では動揺しても取り乱さずに、落ち着いてスマホでポヨポヨ飛び跳ねるスライムの写真を様々な角度から撮る。
うん。顔はポーカーフェイスを維持出来ても、行動までは無理らしい。
既に100枚以上スライムの写真を撮ってしまった。
「しかし、まさかとは思うが、本当にここはデモクエの世界·····なのか?」
スライムをじっと眺め、顔を近づけていく。
ガポン。
スライムが顔にへばりついた。
く、苦しい·····!
そうだよ。可愛い見た目してるけど、コイツ魔物だよ!人類の天敵だよ!
ジタバタとスライムを剥がそうとするが、まるで水のようにスライムを掴めない。
本格的に意識が遠のいて行く。
ま、待て!確かスライムは·····。
ぱしゃん!っと音を立ててスライムが弾ける。
「はぁはぁはぁっ!デモクエ8の設定集通り·····!覚えとくもんだ·····。」
デモクエ8の3枚目キャラがスライムを馬鹿にして、スライムからやり返されて窒息しかけるシーンの裏話が設定集に載っていたのをたまたま覚えていたのだ。
スライムの中心部には核があり、それは噛み砕ける程柔らかい。スライムの構造上、顔にへばりつかれた際に適当に噛み付くと簡単に倒せるらしい。
ぺっぺっとスライムの残骸を吐き出していると、口の中からキラキラ光る宝石の様な石が出て来た。
「なるほど。魔物を倒すとお金がでるのではなく、宝石が出るのか。」
RPGあるあるで、何故か金銭を落とす魔物達。
デモクエの場合はゴルドと言う単位のお金を落とす。
「倒すと魔石を落とす設定なのは、アニメ版だったかな?とりあえず持っておこう。」
·····スライムが出てくるって事は全シリーズ通して、最初の街付近と見て良いだろう。
特に俺のような素人のおっさんに倒される程度という事はかなり弱いスライムと見て良い。
とりあえず、スライム塗れになった顔を近くの川で洗いながら今後の方針を考える。
このデモクエの世界(仮)は特定のナンバリングタイトルの世界ではなさそうだ。
弱いスライムが出る草原に、近くに川と来れば、デモクエ3が先ずは思い浮かぶ。
ただ、スライムの核や魔石と言う概念は俺の知る限りデモクエ3にはない。
恐らく、デモクエと似た異世界と考えるべきだろう。
勿論、俺の明晰夢と言う可能性も高いのだが。
数十分程適当に歩いて行くと街が見えた。
向かっている最中に何匹かスライムを倒した。
適当に押さえつけて、拾った棒で核を1突きで倒せる。
スライムだけでレベルMAXまで上げた猛者もいるが、流石にそこまでの苦行をするのはな·····。
バグやチートも試してきたので、そっちの方を試してみるか?【強制転移】を使って1歩歩く事にレベルを上げる等のバグ技が使えれば·····。
いや、それなら尚更ナンバリングタイトルの確認が必須だし、そもそもレベルは存在するのか?
その答えは早々に出た。
名前:シュウ
レベル:3
職業:戦士
肩書:なし
賞罰:なし
「問題なさそうだな。通ってよし。」
街の入口の詰所にて、やる気のなさそうな兵士に言われ、占い師が持つ様な水晶に手をかざすとステータスが表示された。
なるほど。この水晶の情報が身分証変わりとなる訳か。
しかし、こんなものはデモクエの世界にはなかった。
デモクエの場合、ステータス関連の施設は基本的に教会であるが·····。
ステータスを確認する力を教会が独占しているのも、なるほど。不自然だな。
政教分離やら教会の影響など、取り留めない事を考えながら街に入り、街の中をぶらぶら冷やかす。
所謂、剣と魔法の世界とでも言うのか?
一見すると中世の街並みのようだが、所々でファンタジーの影が見え隠れする。
「転移1回100ゴルド!ロレンシア王国まで100ゴルドだよ!」
「ハメリア産の毒消しが安いよ!今なら何と10ゴルドだ!二日酔いも1発だよ!」
市場をぶらついていると様々な地名が耳に入ってくる。やはり、特定のナンバリングタイトルと言う訳ではないな。
ロレンシア王国は2だし、ハメリアは7に出てくる街だ。
そして肝心のこの街は·····。
「ベリーオラトリオ!!?デモクエ5のベリーオラトリオじゃないか!!」
この街並み!施設!間違いない!
デモクエ5の青年編の最初の街!ベリーオラトリオだ!!
となれば行先は1つ!
カジノだ!!
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