第57話
俺は文芸部に所属している。
……といっても、ほとんど幽霊部員だ。たまに部室に行くこともあるが、そもそも部室に誰かがいること自体が稀である。
文芸部の主な活動は読書だ。文芸部ができたころなどは詩集やらなにやらを作っていたそうだが、今ではほとんどそういったものはない。たまに、標語を作って適当にファイルにまとめる程度には今もしているが。
そんな幽霊部員ばかりの部活動であるため、わりと所属している人間は多いのだが――今日はほとんど人が集まらなかった。
この場にいるのは十人。俺はちらと横目で夏希を見た。
……彼女もそういえば文芸部に所属している。
まあ、それを部長も理解しているようで、淡々とした様子で声をあげた。
「それじゃあ、新入生への部活動紹介のとき……誰が発表するかジャンケンで決めるよ」
とまあ、素直に集まった人々がバカを見るようなことを言い出した部長が原因で、俺は夏希と二人で新入生を集めるための挨拶をすることになった。
〇
新入生への部活動紹介。
それは今週末に控えているのだが、正直言って何を話せばいいのか分からなかった。
まあ、相方が夏希というのはある意味嬉しかった。
無理に放課後に時間を作らずとも、いつでも相談自体は可能だったからだ。
文芸部でのジャンケン大会は幕を閉じ、皆がそそくさと立ち去っていった。
……まったく。こういう発表は普通部長がするものじゃないのか?
立ち去っていく部長の背中を睨みながら、俺と夏希は部室で二人きりになった。
……ふ、二人きり。
ごくり、と唾を飲みこむ。彼女はいつもの済ました表情であったが、俺はもう内心どきどきしていた。
中学のときにも、こういうシーンはあった。
あれは確か、中学の体育祭の準備だったか。たまたま体育祭実行委員になった俺たちは、事前準備で高跳びに必要な道具を体育倉庫から運んでいた。
そのとき、二人で倉庫を整理しているときも二人きりだった。
……幼馴染だからなのか、わりと二人で一緒に行動することがあるのだ。
これで、夏希が俺のことを嫌いではなければ……。
そんなことを考えながら、俺は夏希へと視線を向けた。
「……どうする?」
それ以外の言葉が思いつかない。
部活動紹介とか正直言って何を話せばいいのか全く分からなかった。
特に、うちの部活は……基本活動なし。ただし、そういった部分は一切触れないことというのが部長と顧問の話である。
学校側もほとんど活動していないことは知っているが、あくまでいち部活動として容認してくれているからな。
だから、何もしていませんよというのはご法度なのだそうだ。
「どうするも何も、捏造するしか、ないのではないですか?」
……だよな。わかり切ったことを聞いてくるんじゃない、という目を向けてくる。
「去年の部活動紹介がどんなものだったか、覚えているか?」
「……確か、それなりに耳聞こえの良い言葉を並べていたと思います」
「そう、だよな。うちの部では年度末に詩集を作り、それを部でまとめています、と」
「はい。実際に作ったのは、大したものではありませんでしたね」
きっぱりという。……もしかしたら夏希はわりと本気で文芸部での活動を考えていたのかもしれない。
い、いま文芸部への怒りを出さないでほしい。俺が怒られている気分になるから。
「けど、今思い返すと部活動自体はたいして活動していないんじゃないか、と思われるようなことも言っていたよな?」
「そう、でしたっけ?」
じろり、と睨まれる。彼女の視線に頬を引きつらせながら、俺はこくりと頷いた。
「……ああ。例えば、週に一度活動しますが、全員参加、ではありません、とか」
「なるほど。そういえばそうでしたね」
「だから、恐らく……聞いたらわかる程度には伝えておく必要があるのかもしれないな」
「……それなら、その方針で行きましょうか」
夏希がこくりと頷いた。
……ほっと胸を撫でおろす。あとは原稿を用意すれば、いいだろう。
「原稿に関しては家に帰ってから作ればいいよな?」
「そうですね。こういうときは、一緒に暮らしていてよかったですね」
こ、こういうときは。
まるで強調するような言い方に、俺は息を吐いてしまった。
「そう、だな」
それ以外では、一緒に暮らしている利点なんてないということなんだろう。
……まあ、そうなのかもしれないけどさ。
とはいえ、二人で暮らすことで親の負担も多少は減っているはずだ。ほら、一人分の料理を用意するよりも、まとめて作ったほうがいいと聞くし。
「それじゃあ、まとまったことだし帰るとするか」
「……あの」
夏希が声をあげ、こちらを覗きこんできた。
「い、一緒に帰りませんか?」
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