第36話 私は幼馴染と映画を見る


 今週の土日は、両方とも遊びに行くことになった。

 土曜日は、最近話題になっている映画を見に行き、日曜日は近くで話題のお店に食事へ行く。


 春休みあまり遊べなかった分、これから遊ぼうということになった。

 そして、明日は映画を見に行くのが、これが続編物らしい。

 鈴曰く、別に1を見ていなくても、いきなり見ても話しはつながるらしい。


 ……といっても、私はこれでも結構真面目なほうだ。1もきちんと見てから2を見たかった。

 だから私は一人見ようと思っていたのだが――。


 む、むりぃぃ。開始五分ですでに心臓がバクバクしていた私は、一時停止をした。


「ぎゃあ!」


 ただ、一時停止した場所も悪かった。ちょうど怖い顔がドアップになっていて、私はぶるぶると震えてしまった。

 ……すぐさまリビングから避難した私だったが、このまま一人で視聴するのは無理だと判断。


 助けを求めるため、階段をのぼっていった。

 ……いや、助けを求めるわけではない。

 別にホラーが苦手なわけじゃない。私は自分にそう言い聞かしながら、階段をあがる。


 私としてはこれを一つの機会としておきたかった。

 そう、湊との仲をどうにかするためだ。

 ……扉の前にたった私は、そこで足を止めてしまう。


 まず浮かんだのは、恋する乙女の表情を浮かべていた花だった。

 花のあんな顔は、初めてみた。どこか緊張したような、どこか照れたような……本当に湊のことが好きなのだろうか?

 ……私はすぐに首を振った。あくまで、仲が悪いのを改善するために私は誘うだけだ。


 やましい気持ちは、何もない。

 

 次に浮かんだのは、湊の怒りの表情である。

 ……映画は見終わるまで二時間近くかかる。湊……嫌な顔をしそうだなぁ。

 私は何度も深呼吸をしたあと、扉をノックした。


「夏希か? 何か用事か?」


 返事はわりとすぐに返ってきた。

 私が扉を開くと、椅子をこちらに向けた湊がいた。

 ラフな格好で、勉強机に向かっている。

 見慣れた仏頂面の彼に、私は問いかけた。


「……少しいいですか」

「なんだ?」


 いきなり一緒に映画をみたいというのは、さすがに恥ずかしい。

 まずはこちらの事情を説明したほうがいいだろう。


「明日土曜日に、花さんたちと映画を見に行くという話しになったんですが」


 そういうと、湊は眉間を寄せる。

 ま、まずい。あまり良い感触ではない……。


「見る予定の映画が、2なんです。……だから、1を見ようと思ったんですけど、思ったよりも怖くて……。一緒に見てくれませんか?」


 湊の表情が固まった。

 頬が一瞬ひくついたが、彼はそれから椅子から立ち上がった。


「わかった、今から行く」


 ……やった、とは思ったけど湊の表情はあまり芳しくなかった。



 ○



 私は皆とともにソファに腰掛けた。

 ……な、何気なく座ってしまったが、私はほぼ無意識に彼の隣に座っていた。

 湊がちらと一瞬私を見てきた。すぐに離れようと思ったけど、湊はすぐにテレビのほうに視線を戻した。

 ……大丈夫、そう?


 何も言われなかった私は、やはり怖いので湊の隣に座って見ることにした。

 映画が始まるまでの間、湊はスマホを弄っていた。

 そして、私の肩を軽くつついてきた。

 視線を向けると、彼は2の映画の紹介ページのレビューを一つ見せてきた。


「無理に、見なくても大丈夫そうだぞ?」

 

 そ、そこまで私と映画を見たくないのだろうか……。

 私は軽く落ちこんでいたが、ここまで来たらヤケだった。


「……一応、見ておきたいです」


 わかっている。

 これは私のわがままでしかないということを。けど……少しでも前に進みたい。


 私のそんな小さな気持ちとともに切り出した言葉は、きっと湊にとっては些細な一言に過ぎないんだろう。

 私は、テレビに集中する。

 少しして、また怖いシーンになる。


 怖くて、よろよろと湊の服を掴む。湊がぴくっと反応して、一瞬目があった。

 ただ、湊は何も言わず、気づいていないかのような態度とともにテレビに視線を戻した。


 ……うぅ、ちょっとくらい意識してくれたらいいのに。



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