第11話 俺は大好きな幼馴染の服を見る
なぜ……? という疑問ばかりが頭に浮かんでいた。
……タオル一枚をまとってここにいる理由がさっぱり浮かばなかったのだ。
……風呂上がりはタオル一枚で生活するのが彼女の基本スタイルなのか?
家にいるような感覚で、
尻餅をつき、こちらをじろっと見てくる。
……な、なんで俺が悪者みたいに見てくるんだよ!?
「なに、してるんだ?」
大好きな女性のほぼ裸身に近い恰好に興奮しないわけがない。
ただ、それを表に出すわけにはいかない。
出してしまったら最後、この生活は終わってしまう――。
夏希の立場になればわかるだろう。
一緒に暮らす相手が、自分に欲情しているとか不安で暮らせるはずがない。
俺は必死に唇を結び、彼女から視線を外した。
これ以上は駄目だ。
勝手に体が熱くなってくる。……性的な目で見てしまっているのは自覚している。
だが、それを表に絶対に出すわけにはいかない……ッ!
「風呂をあがったあとでしたから」
だからなに!? だったら裸でもいいの!?
泉山家ではみんな風呂上りはタオル一枚で歩き回っているの!?
俺は脳内が混乱していたが、会話はキャッチボール。じとっと見てくる彼女に、返事をしないわけにはいかない。デッドボールだろうと、俺はそれを受けて返事をしないといけないのだ。
……麻痺し始めた脳で、俺は軽く頷いて返事を返した。
「……だろうな」
努めて冷静に、口を開いた。
……ちらと彼女を見ると、ゆっくりと立ち上がった。
キレイだ。僅かに髪は水気を含んでいて、どこか神々しく見えた。
これだけの容姿だ……もしかしたら付き合っている人もいるのかもしれない。……こんなキレイで可愛らしい彼女を、他の男も見ているのかもしれない。
そう思うと、とたんに胸がきゅっとしまった。まるで心臓をわしづかみにされたような感覚だった。
「私は、部屋に行きますから」
立ち上がった彼女はそう言った。
というか、随分と堂々としている。
初めこそ驚いているように見えたが、それは恐らくトイレから急に人が出てきたからという部分にだろう。
ホラーは大丈夫だっていう人も、突然大きな音がすれば驚くだろう。そんな感じ。
俺に裸を見られようとも何とも思わないが、人が急に出てきたら驚くよねって話。
俺、男として見られていないのかよ。マジかよ……。
その部分で泣きたくなってきた俺だったが、それでも何とか心を奮い立たせた。
「今日は冷えるから気をつけろよな」
……好感度をあげるために、俺は精一杯の気持ちを伝えた。
風呂を出た後はタオル一枚でも、その後ずっとではないだろう。
湯冷めしてしまうかもしれないからな。そんな善意から生まれた俺の言葉だったが、階段にあがった彼女は、
「もちろんです」
……彼女から返ってきた言葉は非常に冷たかった。
『そんくらいわかってるわ! いちいちそんなことで声かけんな!』。
まるでそういわれたような気がした。……いや、たぶん彼女はそういうつもりで言ったんだろう。
けど、生まれ持っての優しさからせめて俺を傷つけないように、最低限の返事をしてくれたのかもしれない。
……余計なことやありきたりな言葉では彼女の好感度を稼ぐのは無理。
それどころか、さらに険悪になってしまう可能性もあった。
俺は小さく息を吐き、服を持って洗面所へと向かう。手洗いはもちろん、洗濯機などもすべてここに置かれているので、そこそこに大きい。
扉は別に鍵を閉めなくてもいいだろう。つーか、俺が警戒する必要はまったくないだろう。むしろ、下手なことして意識しているとか思われても困る。
着替えもきちんとある。
……着替えを忘れたら裸で部屋を出歩くことになるからな。
さすがにその程度のミスをするわけにはいかない。
俺は上着を脱ぎ、洗濯機に入れようとふたを開ける。
……ふたが閉まっているということは、洗濯が終わったということで、何気なく俺はふたを開けて中を見てしまった。
そこではっとしたときには、遅かった。
俺は見てしまった。洗濯ネットに入った……恐らくは夏希の下着類……っ。
彼女の衣服などもあって、俺は声をあげてしまいそうになった。
こ、こんな状況を彼女に見られたら幻滅どころではないだろう。
手錠案件だ。
だが――俺はどうしても目が離せなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます