第9話 俺はタオル一枚の幼馴染と対面する


 夏希がいなくなったリビングは、いつもの風景へと戻っていった。

 少しだけ落ち着くことはできたが、なんだか妙に寂しさも感じてしまった。


 ……まあ、普段は家族がいたからな。

 部屋でテレビを見て、誰かしらがそれに反応していた。

 うるさいなーとかそんな程度にしか思っていなかったが、そんな当たり前の生活というものは中々に貴重なものだったんだな。


 両親はいまは海外だろうか。

 ……そう考えると、いきなり完全に一人での生活ではなく誰かがいたのは悪い話ではなかったのかもしれない。


 まあ、相手が相手なんだが。

 夏希……俺の初恋の人で、今も大好きな人だ。

 一体いつ、どこで俺は彼女に嫌われてしまったんだろうな。


 過去のことを気にしていても仕方ない。

 今はどうやって仲の改善を図るかだ。


 今日一日生活して俺は断言できる。

 ――夏希は完全に俺のことを嫌っている。それはもう、これまで考えていた想定以上にだ。

 正直いって、ここからの改善は難しいのではと思わなくもない。これが国の問題ならすでに戦争へと発展してしてもおかしくはないほどだ。


 それでも俺はどうにか戦争が起きないように、最善をつくさないといけないのだ。

 とはいえ、女性と仲良くなる方法なんて簡単には思い浮かばない。


 俺がそもそも女性経験がないからだ。あるといえば、ギャルゲーくらい? あれを女性経験とカウントして良いのなら、世の中から童貞は消え去るだろう。

 こういうときはネットの力に頼るしかない。現代の若者に許された特権だろう。


 ……検索画面で固まる。

 まずどうやって検索するかで迷ってしまった。

 『カップル 仲直り』。いやいや。いやいやいや……っ! 


 それはさすがにない。一応男女の仲ではあるが、カップルではない。

 俺は一人自爆しながら適当にネットサーフィンをしていた。


 ……というか、もうすぐ三十分近くが経過するんだが風呂長いな。

 女性の風呂は長いと聞いたことがあるが、さすがに少し心配だ。

 とはいえ、声をかけるというのもまずいだろう。

 

 覗こうとした、なんて思われたらそれこそ関係修復は不可能だ。

 ……けど、マジで心配だ。

 俺との生活が嫌すぎて自殺しましたとか洒落にならん。というか、そこまで嫌なら別々に暮らせばいいんだしな。

 さすがに親だって、そこまでの強制はしないだろう。俺からは提案しない。一緒にいたいし……。


 ……トイレに行くふりをして、近くまで行ってみるか。

 トイレと浴室は近い。

 本来、トイレのあとに洗面所の洗面台で手を洗うという設計だからだ。


 近くまでいって生きているかどうかの確認をしてからトイレに行けばいいだろう。

 最悪、評価は下がるだろうが、トイレに来ていただけと言い訳もできる。

 俺はリビングを出て廊下を歩く。それから洗面所へと近づく。


 我が家の洗面所は浴室と併設されるように作られている。……というか、洗面所の扉閉めてないのか。

 一応俺男なんだから、鍵はかけたほうがいいのではないだろうか?

 浴室の鍵はかかっているようだ。シャワーの音がしきりに流れているのがわかる。


 ……たぶん、生きているな? なんか動いている気配するし。

 あと三十分くらい経って出てこなかったら、声をかけてみようか。

 安堵した俺はトイレへといった。


 ……女性の風呂は長い。

 今日の新しい教訓を抱いた俺は、それからトイレを出た。

 手はキッチンで洗うかなーなど考えていると、がたん! と大きな音がした。

 そちらを見ると、ひとりの女性がいた。もちろん、夏希だ。


 ただ、なぜか彼女はバスタオルだけを身にまとった裸に近い形だった。


「は?」

「ふひ……っ!?」


 なぜ服を着ていないんだ!?

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